神奈川県川崎市の小学校で、誤ってプールの水を6日間にわたって出しっぱなしにした教員らが、損害額の一部を弁償させられたことが、注目を集めている。6日間も気づかなかったことが過失とされたためだ。しかし、小中学校のプールで教員が水を出しっぱなしにすることは、かなり頻繁に起こることだという。いったい、過去にはどんなケースがあったのか?◆「プールの水出しっぱなし事故」はちょくちょく起きる?
今回、問題となった川崎市のケースは今年5月に発生したもの。川崎市の市立小学校で、プールに水を入れる際に、教員が誤って水を出しっぱなしにしたことから、気づくまで6日間にわたり約217万リットル、プール6杯分の水が流れることになった。川崎市では教員に過失があったとして、損害額190万円のうち95万円程度を校長と教員に負担させたという。
この高額の請求に川崎市には抗議が殺到。賠償請求の取り下げを求めるオンライン署名も実施されている。労働の過酷さによる「なり手不足」が話題となる中で、教員の側に同情が集まっているかっこうだ。
プールの水を出しっぱなしにするというと、重大な過失のように思えるが、都内の小学校に勤務する40代の教員は、こう語る。
「報道されていないだけで、ちょくちょく起きることです。私も勤務先の学校で2回起きたことがあります」
◆まるで季節の風物詩のようだ…
過去の新聞記事を調べてみると2012年の『読売新聞』に「水道水ムダ遣い110万円分 都立5校 夏休み中=東京」という記事が掲載されている。一部を引用してみよう。
=====都教育委員会は10日、都立学校5校で夏休み中、水道の蛇口を開けっ放しにしたため、推定1775立方メートルの水道水が無駄になったと発表した。25メートルプール3杯分の量で、金額にすると110万円の損失という。(『読売新聞』2012年9月11日付朝刊)=====
また2008年夏には、東京都の東久留米市内だけで市立小中学校4校でプールの水が出しっぱなしにされたことが、同年の市議会で報告されている。このケースでは過失の程度に応じて、校長と副校長、教員が損害額の2分の1から、4分の1を弁償している。
まるで季節の風物詩のように発生する、水の出しっぱなし。様々な事例を調べてみると、川崎市の件などたいしたことないと思えるようなものが次々と見つかった。
◆夏休みの間中、ずっと出しっぱなしになっていた事例も…
昨年発生した神奈川県横須賀市の中学校でのケースでは6月下旬から二ヶ月にわたって、プールの水が出しっぱなしになっている。その理由は、管理する教員がコロナ感染対策のために、プールの水を常に溢れさせる必要があると思い込んでいたというもの。横須賀市では損害額約350万円のうち、約174万円を校長と教員らに請求している。
報道されている限りで、もっとも損害額が大きかったのは2011年に愛媛県松山市の中学校でのものだ。このケースでは同年の7月20日から9月7日まで、夏休み中にわたってずっと、水が出しっぱなしになっていた。無駄になった水の量はプール24杯分相当の約9900立方メートル。実に約503万円の損害が出ている。
このケースが特異なのは、途中で市教委が水が異常に使用されていたことに気づいていたにも拘わらず、誰も確認しなかったことだ。市教委では異常使用に気づいた時点で、水道メーターの検針を指示したが、学校側はプールの確認を怠っていた。さらに、出しっぱなしが明らかになった後も、担当していた4人の教員は全員が「閉め忘れは自分ではない」と関与を否定。その無責任さゆえに、地元メディアでは大きく報じられ、完全な赤っ恥となってしまった。
◆弁償に至っているケースは校長の能力が低い?
栓の閉め忘れで、膨大な量の水を無駄にしたことは明らかな過失である。しかし、今回の川崎市の事例のように教員にすべての責任を負わせることを疑問視する声は強い。
先にコメントしてくれた小学校教員によれば、実際には、水の出しっぱなし程度では弁償もしないケースも多いという。
「多くのケースでは、校長の裁量で始末書を提出する程度です。民間企業だって、従業員が備品を壊しても弁償を求めることはそうそうないでしょう。弁償に至っているケースは校長の能力が低くて、内々で処理できなかったんだと思いますよ」
教員の労働環境がブラックとされる要因の一つとして部活動の交通費や、備品など、自腹で負担せざるを得ない部分が多いことはよく指摘される。ミスしたら弁償というのなら、自腹の分を精算して欲しいものだ。
<取材・文/昼間たかし>