青森市の県営浅虫水族館が、受精卵から孵化(ふか)させたクロマグロの稚魚の飼育に挑戦している。
国内の水族館では珍しい取り組みで、今年は記録的な猛暑の影響のためか稚魚が死滅してしまったが、来年以降も新たな稚魚を育て、一般公開することを目指す。「大間のマグロ」などが全国的に知られる青森県で、展示を通じてマグロの資源管理などに関心を持ってもらいたい考えだ。(古林隼人)
■資源管理の大切さ考えるきっかけに
夏休み中の子供たちでにぎわう水族館のバックヤードでは7月末、500~1000リットルの円柱状の水槽計3個が並んでいた。泳いでいたのは体長約9ミリの稚魚約2万5000匹。稚魚は、養殖マグロの研究に取り組む近畿大水産研究所奄美実験場(鹿児島県瀬戸内町)から購入した。受精卵約6万個が7月中旬に空路で運ばれ、翌日に孵化したという。
マグロ養殖は国や企業の研究機関では成功例があるが、飼育担当の三浦弘毅さん(31)は「養殖下でも稚魚の生存率は低く、資金や設備、ノウハウが限られる水族館での飼育は特にハードルが高い」と話す。
浅虫水族館は2019年、水族館では国内初となる完全養殖のマグロの稚魚の展示を計画。ところが約2900匹を公開する前にほとんどが死んでしまい、十数匹を展示したものの、約2か月で全滅した。水質の変化や、稚魚が音や光に驚いて水槽の壁に衝突したことなどが原因とみられている。
水族館はその後も、マグロを確保できなかった22年を除き、毎年夏に非公開で搬入を続けた。19年は稚魚だったが、20年以降は受精卵の状態で入手。稚魚から育てるより難度は高くなるが、受精卵は養殖マグロのいけすで大量に採れるため、有効活用する狙いがある。
21年に育てた稚魚は最長で約2か月半生きたが、壁への衝突で死滅した。今年は、水槽の内側を黄色と黒のネットで囲み、稚魚が壁にぶつからないよう工夫。孵化から約3か月で体調30センチほどに成長すれば、衝突死の可能性は少なくなり、展示用水槽に移す予定だった。
だが、8月24日、体長4センチまで育っていた稚魚約30匹が死滅しているのが確認された。異常な暑さで水温が上昇し、水質を維持できなかった可能性があるという。水族館は詳しい原因を調べ、来年以降の飼育に生かす方針だ。
太田守信館長によると、19年に稚魚が全滅した際は「無謀だった」との批判が相次いで寄せられたが、観光客の女性から「取り組みに勇気づけられた」と励ましの手紙をもらったことで、挑戦を続けることを決めたという。太田館長は「魚類の中でもマグロの飼育は極めて難しいが、いずれは水槽で泳ぐ姿を県民に見てもらい、資源管理の大切さについて考えるきっかけにしたい」と話している。