交際相手の男性が、実は既婚者だった――。
マッチングアプリを通じた出会いが増える中、そんな「独身偽装」の被害に遭う女性がいる。ネットでの出会いは共通の知人がいないことから、既婚者かどうか見抜きにくい。妊娠して初めて発覚するなど深刻なケースもある。(野口恵里花)
■まさかの告白
東京都内のデザイナーの女性(35)は2019年夏、友人がアプリで会った人と婚約したと聞き同じアプリに登録した。半年後、2歳年上の男性と知り合った。気取らない写真に好感を抱き、「いいね」を押してマッチングが成立。4か月のメッセージのやりとりを経て会うことになった。
映像関係の仕事をしている男性はおとなしい印象で、仕事や趣味の映画の話で意気投合。週に1度の頻度で会食し、まもなく交際に発展した。「彼女がいるとか、ないですか?」と確認し、フェイスブックも見た。恋人や妻がいる様子はなかった。会えない日も多かったが仕事が忙しい様子で、不審に思わなかった。
約2年間交際し、昨年末に妊娠がわかった。男性から「子どもはほしくない」と言われ、未婚で産むことを決意。男性も子どもを認知し、養育費を払うことは承諾した。だが認知に必要な戸籍謄本を求めると激しく抵抗し、問い詰めると、妻子がいると告白した。
「まさかと思い血の気が引いた。独身の人の子を産むのと、既婚者の子を産むのでは全く気持ちが違う」。ショックと不安で、死も頭をよぎった。おなかの子の存在や、SNSでつながった同じ境遇の女性たち十数人に救われた。男性に慰謝料を請求する訴訟を起こし、子どもの認知を求める調停も準備している。
■「詐称」9・5%
ネットで手軽に友人や交際相手を探せるマッチングアプリは近年、急速に利用が拡大している。
明治安田生命保険の調査では、昨年結婚した人の22・6%が出会いのきっかけにアプリを挙げ、「職場の同僚・先輩・後輩」(20・8%)、「学校の同級生・先輩・後輩」(同)を抜いて初めてトップになった。
運営各社は、トラブル防止のため規約で利用者を独身に限ったり、市町村などが発行する「独身証明書」を任意で提出できる仕組みを設けたりしている。違反が判明した場合は、利用停止などの措置を取る。
だが、独身かどうかなどを見抜くのは簡単ではない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが21年にマッチングアプリ利用者約500人を対象に行った調査では、交際者の存在や婚姻の事実を詐称された経験がある人は9・5%に上った。
■身を守るには
男女間トラブルに詳しい太田啓子弁護士は「かたくなに自宅に入れたがらなかったり、住所を言わなかったりした場合、理由をしっかり聞いて相手を信用できるか見極めた方がいい」と指摘。詐称を完全に見抜くのは難しいというが、「独身証明書を提出している人だけに会うのも、一定の対策になる」と話す。
被害に遭った場合、「独身と偽って体の関係を持たせることは性的尊厳の侵害で、民法上の不法行為に該当する。慰謝料を請求できる」とする。一方、既婚と知った後も交際を続ければ、相手の配偶者から不貞行為で訴えられる可能性があるという。
アプリの利用を巡ってはこのほか、デート時に睡眠薬入りの飲み物を飲まされてわいせつ行為をされるなどの被害も確認されており、注意が必要だ。