2月2日、日本で唯一の国立総合藝術大学である「東京藝術大学」の学生を名乗る人物の、あるTwitter投稿が物議を醸した。
予算削減のためにピアノが撤去されたとのことで、同校の財政がかなり厳しくなっているという指摘をしていたのだ。国内の藝術大学の最高峰として知られる東京藝大が、学生にとってデメリットとなるような節約対策を講じざるをえなくなった理由とは?
そこで今回は、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏に、東京藝大が陥っている危機的な現状やその原因について解説していただいた。(以下、「」内は石渡氏のコメント)
まずは、東京藝大がどのような立ち位置の大学なのかについて、おさらいしておこう。
「東京藝大は、日本初の官立美術学校として1887年に創立された『東京美術学校』がその前身で、1949年に東京美術学校と東京音楽学校が合併する形で誕生しました。日本の芸術系大学のなかではトップと言われており、国内唯一の芸術を専門とする国立大学です。偏差値自体はそこまで高くはない印象ですが、実技試験の難易度が非常に高く、2浪、3浪して入学する学生も少なくない、芸術専攻学生にとっての最難関校のひとつですね」
それほど由緒ある東京藝大が、経費削減の一環としてピアノ撤去を行ったわけだ。
Photo by iStock
「今回撤去されたピアノは音楽学部のピアノ専攻のものではなく、弦楽専攻の練習室にあったものだそうです。ですが弦楽専攻であっても副科で多くの学生はピアノを学びます。その練習時間が削られるということは学生にとって直接的なデメリットです。そんなことを大学側が嬉々としてやるはずはありませんので、まさに苦渋の決断だったと思います」
では本題だが、なぜそれほどの財政難に陥ってしまったのか。
「東京藝大の運営に欠かせないのが国から出ている運営交付金で、平均すると年間50億円ほど支給されていますが、この額ではギリギリだったことが大きな理由でしょう。
もともと国立大学は国が運営していましたが、経済の停滞に伴って2004年に国立大学は独立法人化。運営は各大学が独自に行なうようになりました。ただ、いきなり“自分たちで稼いでね”というのも酷ですので、国から運営交付金がもらえる制度も同時に始まっていました。
2021年度の東京藝大の経常収益内訳を見ると、運営交付金は全体の56%も占めています。
東京藝大の経常経費の内訳を見ると、教職員人件費は59%かかっていますが、こうした東京藝大の教育の根幹を支える経費の大部分は運営交付金で賄われているわけです。運営交付金が年間約50億円も支給されていると聞くと、一見潤沢に思えるかもしれませんが、そもそもこの額で運営していくこと自体が厳しかったのでしょう。
つまり、東京藝大の財政難は近年にはじまったことではなく、独立法人化以降ずっとギリギリの状態が続いていたのだと思います」
あまり世間に明るみになっていなかっただけで、水面下では約20年前から綱渡り状態の運営を続けており、たまたま今回のピアノ撤去などをきっかけに、その危機的状況が露呈したということか。
【後編】『「東京藝大」が「日本政府」の方針と「藝大ブランド」の間で苦しんでいる「驚愕の理由」』では、東京藝大の財政難の要因と現状を打破する方法についてさらにお話を聞いた。
(文=TND幽介〈A4studio〉)