都内高級ショッピングモールの地下駐車場。外車が並ぶ平置き駐車場の一角に、スペースギリギリに収まったスクールバスが窮屈そうに停まっている。
うっすらホコリ被ったこのスクールバスは、トラブルで揺れる港区西麻布の高級インターナショナルスクール「X」の送迎に使われていたものだったーー。
0歳から6歳の約100人の子供が通うプレスクール「X」は、外国人講師による国際感覚の英才教育や、オーガニック食材を使った食事などの特徴が注目を集めていた。創設者のリナ・ローズ氏はプラダなど国際的ブランドでキャリアを積み、多数のメディアに出演。キャリアウーマンな生活ぶりで自ら「広告塔」を担っていた。
日本の制度で言えば「認可外保育園」に該当するとみられるが、学費は一時金前払いで500万円、カリキュラムオプションによっては700万円を超えるケースもあるという。まさに選ばれし者が通える、セレブ校だ。
子供を「外交官」、先生を「大使」と呼ぶなど、さまざまな点で煌びやかなスクールライフを想像させるが、実際の管理はまるで異なっていたという。子供を「X」に通わせていた保護者が、「現代ビジネス」に実情を明かした。
西麻布にある「X」が入居していた建物。現在、人の姿はない/編集部撮影、画像は一部加工
「今年の3月20日に突然、『X』から施設を移転すると連絡がありました。メールには『スタッフが地主から暴力を受けた』『地主に監視カメラを壊された』との説明があり、安全を考えて一時的に“避難する”と記載されていました。
ただ実際は、家賃滞納により2017年には校舎の明け渡しが決まっており、その後も滞納を続けた末に強制退去になっていました。当時はその説明はなく、学費の返還もされていません」
「X」が西麻布でスクールを開業したのは2015年。創設者のリナ氏はシングルマザーとして息子を育て上げ、大手芸能事務所が手掛けたアイドルグループのメンバーとして活動させていた。
「手厚いサービスが魅力で、家の前まで車で子供を送迎してくれたり、アフタースクールが充実していたりと、共働きの家庭にはうってつけでした。カリキュラムも特徴的で、子供を『外交官』、先生を『大使』と呼び、“世界中を旅する”というコンセプトで、外国語の授業に力を入れていました。
創設者のリナ氏の経歴に憧れていたママも多く、開校当時は『VOGUE JAPAN』など数多くの媒体にも名前があり、学費が高いのは教育がしっかりしている証拠だと信じ込んでしまったんです」(Aさん)
だがいざ子供の通園が始まると、不審に感じる点が多々あったという。
「最初に感じたのは、『施設が汚い』ということでした。モノが散らかっている、床が汚れている。でも、インターナショナルスクールということもあって、『これがアメリカ式なのかな』と妙に納得してしまっていました。
通園が始めると、契約したカリキュラム通りに授業が進んでいないことに気づきました。はじめはプリントが配られていましたが途中からなくなり、当初受けていた説明と授業のペースが違うなと。
海外の先生が3ヵ月ほどで交代することもあり、問いただすと『ホームシックになって辞めました』と、腑に落ちない説明をされたこともありました」
「現代ビジネス」は、保護者に配られた資料を入手した。そこには以下のような記載があった。〈ランチ:スクールでは、お昼頃にインハウスのオーガニックランチをご提供しています。〉〈スクールでは100%オーガニックフードと健康的な食生活をご提供します。キャンディなどの糖分の多い食べ物や、過剰な添加物の入った食べ物は学校に持ち込まないよう強くお願いいたします。〉
「100%」オーガニックフードを提供することが念押しされている。だが、騒動後に保護者が「X」で勤めていたシェフに質すと、これもウソだったという。
「学校側はオーガニック食材から安価な食材に差し替えて原価を抑え、利益をかさ増ししていたようです。このシェフも、給料未払いがあるとしてスクールの運営と揉めていました。
不審な点に気づかなかったのは、保護者同士の連絡先交換が禁止されていたこともあります。当時は、高額なスクールなだけに有名人の子供もいるだろうし、こういうご時世ですから、個人情報は慎重に取り扱っているんだと思い込んでいました」
スクールの資料には、以下のような項目もあった。
〈外交官、もしくはその保護者が迷惑行為を行う、または迷惑行為に参加した場合、プライバシーの侵害、これらを引き起こす行為(中略)があった場合、外交官はペナルティを課されるか、契約を解除され、(中略)上記の行為から生じた損害賠償の対象となります〉
どのような行為が「アウト」なのか曖昧なまま、契約解除のみならず損害賠償まで請求されるとあって、スクール運営自体に疑問を投げかけることすら難しい状況が出来上がっていたのだ。
そして前述の通り、3月20日に「事件」は起きる。詳しい顛末および保護者の悲しみの声、その後の「X」の対応について後編〈「この記者を訴えて」保護者に口封じ、渦中の西麻布「高級インターナショナルスクール」が送ってきた「回答」〉にて詳述しよう。
取材・構成/佐藤隼秀