不倫をしていた女性が涙した理由とは……(写真:Fast&Slow/PIXTA)
有名人の不倫がスクープされると、マスコミは多方面からあらゆる取材をして、当事者たちの私生活を暴露する。それによって新たな問題が発覚することもあり、ネットの書き込みは大炎上する――。
一般の人もこれほどではないが、不倫がバレたら大きな代償を背負うことになる。それでも不倫をする人たちが後を絶たないのはなぜか。
仲人として婚活現場に関わる者が、婚活者に焦点を当てて苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。男性と不倫をしていた女性が、ケジメをつけて婚活を決意、その後、2つ年上の男性と成婚した。その足取りを追いながら、不倫と結婚の違いを考えたい。
会員のやよい(35歳、仮名)は6カ月間の活動の末、たつお(37歳、仮名)と成婚退会をした。彼女は32歳から35歳になる直前まで、会社の直属の上司と約2年半、不倫をしていた。
入会面談のときに、やよいが言っていた。
「先日、大学時代の友人の結婚式に出たんです。すごく幸せそうだった。式の最後に彼女がご両親に向けての手紙を読んで、そして、彼女がご主人のご両親に、ご主人が彼女のご両親に花束を渡した。花束を渡すほうも渡されたほうも涙ぐんでいて。その光景を見ていたら、“私、もうじき35歳になるのに、こんなことしていていいのかな”と、我に返ったんです」
“こんなこと”というのは、32歳から始まっていた上司との不倫だ。結婚式に出たのは、これが2度目。最初は不倫が始まったばかりの頃で、同僚の結婚式に出たという。
「そのときは、不倫していた上司も参列していたんです。もしかしたら数年後は、上司とこうして結婚式を挙げる日が来るかもしれないって、今から考えると本当に浅はか。頭の中がお花畑でした」
上司は5つ年上。不倫が始まったときの上司の結婚生活は、10年にもなっていた。得意先への営業に社用車で出向くことも多く、2人だけの空間の中で仕事以外の話もするようになった。
やよいには、当時2年間ほど付き合っていた5つ年下の男性がいた。
「彼はクリエイティブ系の仕事をしているフリーランスで、収入が不安定。お付き合いしていても、結婚の“け”の字も出てこなかった。 “このままでいいのかな”と漠然と思っていて、そんな話を上司にしたんです」
一方で、上司は家庭生活では妻とうまくいっていないことを話してきた。
「カミさんは『娘を有名私立小に入れる』と言って、遊びたい盛りの娘を塾や習いごとに連れ回している。俺は子どもはもっとのびのび育てて、高校までは公立でいいと思っているんだけどね」
しかし、娘の教育のことで口出しをしようものなら、ヒステリックに言い返してくる。それで夫婦ゲンカが絶えなくなってきたので、最近は口を出さない。会話も少なくなり、夫婦関係が冷え切っているという。
そんなふうにお互いの話をしながら営業回りを終え、その後に時間のあるときには、夕食を一緒にするようになった。
進展のない恋人関係にげんなりしていたやよい。ヒステリックな妻のせいで家庭生活が楽しくなかった上司。そんな2人がひかれあい、不倫にのめり込んでいくには、時間がかからなかった。
やよいは、いつしか年下の恋人とは連絡を取らなくなっていた。夢を追っているのはいいが、いつもお金がなく、デートをすればきっちり割り勘かやよいが支払うかどちらかだ。お金がないから、男女の行為も一人暮らしをしているどちらかの家。そして、そのやり方もマンネリ化していた。
「上司と初めてホテルに行ったときには、自分の中で眠っていた欲情が叩き起こされたというか。それに、恋愛って始まったばかりの頃は何をしても新鮮だし、楽しいし、ドキドキするじゃないですか」
とやよい。“不倫はいけないこと”と冷静に判断するよりも、“好き”という感情が勝っていた。
「不倫なので、“必ず結婚できる”という確約がないのはわかっていました。ただ、人って好きという恋愛感情が生まれてしまうと、自分の都合のいいように、そのときの状況を考えるようになるんですよね」
年下の恋人と付き合っていたときは、お金がかからないように互いの家を行き来する貧乏デートが嫌だったはずなのに、いつしか上司とのデートでもやよいの家で会うのが定番となっていた。
「けれど、それで満足していました。彼が私の家に来るときには、その日に2人で食べる夕食やお酒をたくさん買ってきてくれて、私にはお金を使わせない。そんなところも年下の恋人とは違っているように感じたんです」
やよいはそう言うが、男性に家庭があり、子どもがいれば、自由に使えるお金は限られる。そんなときに女性が一人暮らしだったら、そこがデート場所となってしまうのは自明の理だ。そして、それが不倫を長引かせる原因にもなる。
ただ、燃え上がっていた恋愛感情も、月日の流れとともになだらかになっていくものだ。男女の行為もマンネリ化して、最初のドキドキ感はなくなっていく。それが恋愛の宿命だろう。
そして、2年半が経った。友人の結婚式で、みんなから祝福され、幸せの涙を流す花嫁の姿と、不倫をしている自分を重ね合わせたときに、我に返った。
「実はここ1年くらいは、いい出会いがないか、いい人が現れたら新しい恋愛を始めようかと思っていました。でも、歳を重ねるほど出会いなんてなくなる。あと、いったん人と縁を結んでしまうと、そこを断ち切るのってなかなかできない」
特に、不倫相手とは会社で顔を合わせているので、前の恋人のようにだんだんと連絡を取らなくなって縁を薄くし、自然消滅に持ち込むことも難しかった。
「ただ、35歳になるという節目と、友人の結婚式に出たというきっかけが、私の背中を押しました。付き合い始めて2年を過ぎた頃から、相手が離婚する気がないことは、なんとなくわかった。このままズルズルと関係を続けていたら、私は、結婚も出産もあきらめる人生になる。40代になったら、一生後悔するかもしれないと思ったんです」
そして、結婚相談所での婚活を始めようと、筆者の元に入会面談にやってきた。面談に来たときに、まだ上司との関係が続いているのかを聞くと、やよいは言った。
「関係が始まったばかりの頃は、毎週のように会っていたのですが、最近は、私の家に来るのも、月に1回程度になっていて。先月は、一度も来ていません。向こうも私の変化を感じているだろうし、お互いが、“そろそろ潮時”だと思っているのではないでしょうか」
そして、続けた。
「まだ動き出していないから、何とも言えないですけど、新しい男性にお会いしていくうちに、私の彼に対する気持ちもどんどん薄くなっていくと思うんです。お付き合いする男性が現れたら、上書きもできる。そうなったら、不倫の恋にはきっちり決別できる気がします」
そして入会し、果敢にお見合いを始め、6人目に出会ったのが、成婚を決めたたつおだった。真剣交際に入り、結婚まで駒を進めていたとき、やよいが泣きながら電話をかけてきたことがあった。
「たつおさんに、お断りをされるかもしれません」
何があったのか事情を聞いてみると、“お互いにこれまでどんな恋愛をしてきたのか”という話になったという。やよいは、夢を追っているお金のない年下の恋人と付き合っていたことをまずは話した。そして、その後に付き合った人には、「妻子がいた」と口を滑らせてしまった。
すると、それまでにこやかだったたつおの顔から笑みが消えた。
「えっ? それって、どういうこと? 不倫をしていたの?」
まずいと思ったが、もう遅かった。たつおは「もうそれ以上、聞きたくないな」と言い、2人の間に険悪な空気が漂った。そして、その日はそのまま別れた。
「不倫をしていたから、バチが当たったのかもしれません」
電話口で泣いているやよいに、筆者は言った。
「言ってしまったことは取り消せないので、不倫がきっちりと終わっていることを説明しましょう。そして、今は、“たつおさんを誰よりも大切に思っていること”と、“失いたくない”という気持ちを正直に伝えてみましょうね」
それから数日後また連絡があり、「たつおさんがわかってくれました」という報告が来た。
「『過去はどうでもいい。今のやよいちゃんが好きだし、これからの2人の時間を大事にしていこう』と言ってくださいました」
その後、たつおからプロポーズをされ、それを受けてやよいは成婚退会していった。そのときにこんなことを言っていた。
「たつおさんと結婚できることになったとき、もしたつおさんが不倫したら? って考えたんです。そのときに子どもがいたら、私はどんなにつらかっただろうって。私は、そのつらさを不倫していた上司のご家族に味わわせていたんですよね。長い結婚生活のなかで、これからいろいろあると思うけれど、たつおさんを裏切るようなことは、絶対にしたくないです」
結婚するときには、誰もがこう誓って夫婦になっていくのだが、年月の流れとともに、この初心を忘れてしまう人が多いのだ。
不倫によって家族が崩壊するという話はよく聞く。社内不倫であれば、さらに職場を追われたりすることもあるだろう。
芸能人や有名人が不倫した場合、大きな仕事や契約がキャンセルとなったり、番組を降板させられたり、出演作品がお蔵入りになったり、多額の損害を被ったりする。さらに、ネット社会の今は、まったく関係のない一般の人たちからも誹謗中傷されたりする。脅迫じみた電話や嫌がらせを受けることもあるかもしれない。
不倫には多大なリスクが伴うのに、不倫する人たちは後を絶たない。
誰もが、“不倫はしてはいけない恋愛”と頭でわかっているはずなのに、当事者になると不倫に夢中になる。それは、人を好きになる感情というのが、理屈や理性では止められないからだろう。そして、相手に夢中になっているときというのは、それが不倫であっても、自分の都合のいいようにその状況を解釈し、気持ちを燃え上がらせていく。
しかし、恋愛の情熱は独身同士の恋愛でも、不倫でも、永遠に続くわけではない。いつかはなだらかになり、緩やかに下降線をたどっていく。
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独身者同士が恋愛し、それが結婚につながった場合、高まった情熱はなだらかになり下降線になったとしても、そこには“家族愛”という別の形として築かれている。
現在独身で不倫をしている人たちは、10年後、20年後の自分をイメージしてほしい。そのときに不倫相手に変わらぬ気持ちでいられるかどうか。
筆者は仲人だからあえて言うのだが、恋愛をするなら独身相手を選び、結婚をして家族を作り、家族の愛を育てたほうが幸せではないだろうか。
(鎌田 れい : 仲人・ライター)