学校で、職場で、地域のイベントで―。実に60年以上も親しまれてきた「国民的体操」であるラジオ体操。しかし「簡単な運動」と甘く見ていると、ふとした動作で思わぬ負担を身体にかけ、大ケガのもとにもなるリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。
前編記事『医師が警告!ラジオ体操は「ひざ」と「腰」を痛めます…「なんとなくひざが痛いなと」「前屈をすると急に」』より続く。
ちなみにラジオ体操のなかには、きちんと身体を使わなければ、あまり効果がない動作もある。
たとえば、体操第1の「身体を横に曲げる運動」は、しっかりと背骨まで曲げず、肘だけを曲げて身体を傾いているようにしているだけでは、背骨を柔軟にする効果がない。
また体操第1の「身体をねじる運動」も、腕をしっかりと振り上げることができなければ代謝を促進することにはならない。筋肉量が落ちたり、痛みがある部分があったりすると、ついごまかしながらやってしまいがちな動作なのである。
そもそも現在のラジオ体操第1・第2の放送がはじまったのは’51年のこと。この年の平均寿命は、男性60.8歳、女性64.9歳だった。つまり、そもそもラジオ体操の中身は、60歳以上の人が毎日行う前提では作られていないのだ。
また、60代の平均的な肥満度も、当時は男女ともに21前後だったのが、いまは男性24、女性23程度とやや増えている。体重が増加しているぶん、下半身への負担の程度も大きくなっている。
現在放送されているNHKのラジオ体操では、「ラジオ体操の前に筋肉をほぐすウォーミングアップ体操を行いましょう」と推奨している。つまり、高齢者にとってラジオ体操は手軽な運動ではなく、準備体操を要求するほどハードなものと捉えたほうがいいのだ。
そして特に60歳以上の人の場合、運動する「時間帯」にも気を配ったほうがいい。著書に『やってはいけないウォーキング』(SB新書)がある、東京都健康長寿医療センターの青冶幸利氏は、「朝の運動は注意するべき」と指摘する。
「朝は脳卒中や心筋梗塞の発症率が一番高い時間帯といわれています。人間は眠っている間に発汗や呼吸をすることで、かなりの量の水分を失っています。つまり寝起きは血中の水分量が少なくなり、血液がドロドロになっている状態なのです。
加齢とともに動脈硬化も進み、血管が詰まりやすくなっていますから、水を飲まずに運動をしはじめると、命取りになりかねません。少なくとも水を飲んでから30分以上は、汗をかくような運動はしないほうがいいのです。
また朝はまだ体温が上がりきっていないので、筋肉がこわばった状態になっています。そのようなタイミングで無理な動きをすると、重大な疾患を引き起こすこともある、と考えたほうがいいのです」
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同様に、前出・銅冶氏も早朝の運動にはリスクがあると語る。
「早朝にラジオ体操をされる方が多いと思いますが、できれば避けたほうがいいでしょう。というのも、朝は椎間板が寝ている間に水分を含み、めいっぱい空気を入れたタイヤのように膨れた状態になっているからです。ここで無理な動きをすると、椎間板を痛めやすくなってしまいます」
それでは、いつ運動するのが理想的なのか。前出・青冶氏は、もし身体を動かすならば「夕方」であるとアドバイスする。
「夕方に運動をすることによって、身体のバイオリズムを改善することができます。適度に身体を使うことで夜よく眠れるようになりますし、睡眠の質がよくなれば、脳の活性化を促し、ひいては認知症の予防にまでつながるのです」
もちろん、ラジオ体操すべての動きが身体に支障をきたすわけではない。
前出・橋本氏は次のように語る。
「もともとはきちんと考えて作られているものですから、ラジオ体操には健康上のメリットも当然あります。適切な動作をすることで、血圧や血行を改善したり、仲間と運動することで爽快感を得ることもできる。
ただ、立ってするのが危なければ座ってやる、肩が上がらなければ痛みが出ないところまで、と自分の限界を知っていくことが大切です」
そのようなことを考慮してか、’99年からNHKで放映が開始された「みんなの体操」は、運動量がラジオ体操よりも少なく、また立った状態で行うものと座って行うものと2通りの方法がある。より身体の負担に配慮したメニューになっているのだ。「高齢者の方が一度膝や腰を痛めてしまうと、急に行動量が減り、運動で血圧や血糖値をコントロールすることが難しくなってしまいます。昨今の健康ブームによって、筋力トレーニングや長時間のウォーキングに挑む人もいますが、『健康のため』と思ってやっていると逆効果になる。万人に合うような体操や運動というものはありませんから、身体が動けなくなるような部位に関しては、特に気をつけてほしいと思います」(前出・青冶氏)いくつになっても同じ運動が身体のためになるとは限らない。加齢とともに自分に合った動きをよく見極めるのが肝心だ。また、骨を強くするのに効果的な体操について関連記事『1日6分やるだけで骨が強くなる!日本整形外科学会が推薦…画期的効果を生む「ダイナミック・フラミンゴ体操」ってなんだ?』もぜひあわせてお読みください。「週刊現代」2017年6月24日号より
そのようなことを考慮してか、’99年からNHKで放映が開始された「みんなの体操」は、運動量がラジオ体操よりも少なく、また立った状態で行うものと座って行うものと2通りの方法がある。より身体の負担に配慮したメニューになっているのだ。
「高齢者の方が一度膝や腰を痛めてしまうと、急に行動量が減り、運動で血圧や血糖値をコントロールすることが難しくなってしまいます。昨今の健康ブームによって、筋力トレーニングや長時間のウォーキングに挑む人もいますが、『健康のため』と思ってやっていると逆効果になる。
万人に合うような体操や運動というものはありませんから、身体が動けなくなるような部位に関しては、特に気をつけてほしいと思います」(前出・青冶氏)
いくつになっても同じ運動が身体のためになるとは限らない。加齢とともに自分に合った動きをよく見極めるのが肝心だ。
また、骨を強くするのに効果的な体操について関連記事『1日6分やるだけで骨が強くなる!日本整形外科学会が推薦…画期的効果を生む「ダイナミック・フラミンゴ体操」ってなんだ?』もぜひあわせてお読みください。
「週刊現代」2017年6月24日号より