客による迷惑行為が世間を騒がせている。飲食店やコンビニでの迷惑客が世間的に悪目立ちしているが、都内の動物病院で院長を務める獣医師のS氏は「動物病院にも多くの迷惑客がいます」と話す。◆深夜に電話をかけ続ける迷惑客
S氏が院長を務める動物病院の診療時間は午後7時までだが、時間外でもなるべく電話対応するように心がけているとのこと。一刻を争う動物の命を守るために対応しているのだが、一度も来院したことのない飼い主の身勝手な電話に振り回されたことがあるようだ。
「数年前の冬のある日、就寝中の深夜3時すぎに一度も来院されたことのない女性の方から電話がきました。さすがにこの時間は……と思いましたが、『車で行ける範囲の動物病院に片っ端から電話したんですが、全然出てくれなくて……。もしかしたら診てくれるんじゃないかと思って電話しました!』と、とても焦った感じだったので話を聞くことにしたんです。いつも通っている動物病院があるとのことでしたが、『朝まで待ってこの子が助かるかわからないんで!!』と、とにかく動揺されているようだったので、すぐに診察することにしました」
◆真冬の夜に病院に向かった結果…
深夜3時に初診の対応はさすがに躊躇したようだが、口調から緊急事態であることを察知し、病院に向かうことにしたS氏。しかし、向かっている最中に再び電話が鳴り、驚愕の言葉を聞いたという。
「僕も急いで準備して、パジャマにダウンだけの格好で出発しました。寒いなか病院へと向かっていると、もうすぐ着くという頃にその方から再度電話があり、『やっぱり大丈夫そうなんでやめときます』と、なんの悪気もない口調で言ってきたのです。この時はさすがに腹が立ちましたね。動物の命に関わる仕事をしているので、深夜に寝ていても電話が鳴ったら出るようにしていましたが、たまにこういった自分勝手な人からの電話があるので、このスタイルはやめようかと思っています……」
◆毒味をするトンデモ飼い主
また、S氏の病院では入院する設備も整っているため、病状が深刻なときは犬・猫が入院するケースもあるとのこと。もちろん、飼い主である人間は泊まることができないのだが、そうなると『何をされるかわからない』という理由で、ペットの入院を拒否されるケースもあるという。
「40代くらいの女性のお客さんで、飼っている犬が入院しなくてはいけない状況になりました。まずは点滴をすることを伝えたところ、『先生に預けて私の見えないところで点滴とか薬を飲まされるのは嫌なので……』と言って、診察室の扉を空けて待合室からずっと見守ることになったんです。それで結果的には朝7時半から夜11時半までずっと待合室に居座っていましたね。治療している犬が深刻な状態なのに、結局入院は拒否され、診療時間の朝から晩まで治療する日が続きました。ずっと見られている看護師さんもキツかったでしょうし、他の飼い主さんたちも気を遣っていましたし、正直かなり迷惑でしたね」
◆「それ、毒味させてください」と言われ、看護師ドン引き…
その飼い主は、ペットに対する愛がねじ曲がっているのか、よほど動物病院の獣医を信じられないのか、「その場にいた看護師がみんなドン引きする行動をしていました」とS氏は語った。

◆入院せずに3ヶ月間通院した結果
犬用の薬や食べ物を一度口に含み、それを愛犬に与えていたという常軌を逸する行動をとっていた飼い主は、結果的に3ヶ月もの間、ほぼ毎日通い続けたという。
「結果的にそのワンちゃんは病院を移すことになって、移った先で亡くなったそうです。早い段階で任せてもらえて、入院していたらよくなる可能性はあったと思うんですけど……。病気のときはゆっくり休むことが大切なんですが、診察室の扉が開きっぱなしで飼い主に見られるのもストレスになっていたんだと思います。ペットへの愛が強いことは悪いことではありませんが、愛が強すぎるゆえに苦しめてしまうケースがあるということを知ってほしいです」
動物病院や動物愛護団体の現場には、犬猫はモノではなく「命である」ということを理解できていない人がしばしば現れる。犬や猫は喋れないからこそ、人間側の都合のいいように解釈し、結果的に苦しめている人も多くいるだろう。ある程度の知識と常識がないとペットを飼えないような世の中に変わっていくことを祈るばかりである。
文/セールス森田