5月19日、平和記念公園周辺を完全封鎖する全体未聞の警戒態勢の中で、G7広島サミット(先進7カ国首脳会議。以下、広島サミット)が始まった。 各国の首脳が次々と広島市に来訪する一方で、市内ではサミット反対を主張する陣営のデモや集会も多数繰り広げられている。
このサミット開催を前に、メンバーが次々と逮捕されSNSでもトレンド入りしたのが、世間では「暴力革命を主張する過激派」とされている中核派だ。同派は「核戦争のための帝国主義会議=G7サミット粉砕!広島行動」として、開催前の17日から21日まで市内各地で集会やデモをSNSや街頭でのビラ配布を通じて呼びかけている(この原稿を書いていたら、さらに現地のデモで逮捕者が出ていた)。
いま、彼らはなにを目的に「広島サミット粉砕」を主張しているのか。現地で活動中の、中核派全学連副委員長の矢嶋尋さんが取材に応じてくれた。
◆合計8人のメンバーが逮捕
既に多くのメディアで報じられているが、広島サミットを前に報道された中核派メンバーの逮捕は次のようなものだ。ひとつは4月27日、2018年に友人のクレジットカードで高速バスのチケットをまとめて購入したことが「電子計算機使用詐欺」にあたるとして2人が逮捕されたもの。もうひとつは5月11日、今年2月に成田空港用地内の空港反対派やぐらの強制撤去を妨害したとして6人が逮捕されたものだ。
この合計8人ものメンバーの逮捕を、矢嶋さんは「敵の弱さの表れ」だと率直に語る。
「メディアの報道では、どこも中核派が広島サミット粉砕を主張していることが書かれていましたよね。つまり、今回の逮捕が広島サミット反対への弾圧だと、向こうのほうが認めているわけじゃないですか」
◆追い詰められているのは「弾圧せざるを得ない政府」のほう
これは、政府のほうが広島サミット反対の声を押しつぶさないといけないところまで、追い込まれているために「弾圧」という手段をとらざるをえなくなっていることを示すものだ、というのが矢嶋さんの分析だ。
「もしも、政府の力が圧倒的ならば反対の声もあがらないですよね。ところが、実際には広島サミットのために2万4000人もの警察官を動員しなければならなくなっています。広島に来て実感していますけれど、政府はまったく歓迎ムードをつくることもできなかったんです。もう、反対の声を押しつぶさないと開催できないところまで追い込まれているわけです」
◆平和記念公園が完全封鎖されたのは…
矢嶋さんの弁によれば、政府が追い込まれていることを、如実に示すのが広島サミット開催中に原爆ドームを含め平和記念公園がフェンスで完全封鎖されたことだという。
「G7の首脳が平和公園に来るのは19日の午前中だけなんです。なのに期間中ずっと閉鎖されることになっています。広島サミットの最中にどんどん人が集まって、東京五輪や国葬の時のような声をあげられることを、恐れているわけです」
そうした情勢分析を語った上で、矢嶋さんは今の心境を、こうまとめた。
「弾圧されるほど、敵を倒せる日は近いなと思っています」
◆そうはいっても「粉砕」できるのかという問いには
とはいえ、仲間が次々と逮捕され次は自分も……という怯えはないのだろうか。それを訊ねると、少し考えた矢嶋さんは確信に満ちた感じで、語り始めた。
「活動を続ける中で、いつか弾圧は来るのだろうなとは思っていました。今は、本当に戦争に向かってのプロセスが始まっていく中で、特高警察が(戦争に反対する)『はだしのゲン』のお父さんを、捕まえたのと同じ状況が来ているんだなと感じています」

筆者が小学生の頃に国鉄分割民営化反対闘争で、総武線の浅草橋駅を焼き討ちにしたり、1986年の東京サミットに反対し迎賓館にロケット弾を打ち込み緊迫したニュース映像が流れていたのを記憶している。そこまでしてもなお、状況は覆られなかったことを顧みると、とても、今回も粉砕できるとは思えないのだが……。
「重要なのは実力で粉砕しようとする意志です。体制内の左翼は広島サミットそのものには反対せず、広島の現実を世界に伝える機会だとか主張しています。でも、私たちは、これは帝国主義者の戦争会議で絶対に止めるしかないと考えています。だから、その姿勢を明らかにするために粉砕を掲げているんです」
◆活動に加わったきっかけは…
舌鋒鋭く語ってくれた矢嶋さんだが、本媒体が彼女に取材するのは今回が2度目である。前回は『週刊SPA!』5月2日・9日合併号の特集「大学サークルの危険なウラ側」で、昨今の新人獲得の事情などを話してもらったのである。近年、中核派は、YouTubeやTwitterを用いた宣伝、さらには同人誌即売会・コミックマーケットに出展し「会いにいける過激派」として存在感を強めている。矢嶋さんも、活動に加わったきっかけは「音楽の趣味が一緒だったTwitterのフォロワーに誘われたから」である。
しかも、最初に参加したのは2020年9月の革共同政治集会だ。デモや学習会ではなく、いきなり本気の集会に誘われたわけである。しかも、参加を決意した決定的場面も意外なものだ。
「そこで見たのは、51年ぶりに公然と姿を現した清水丈夫議長が『自己批判』をして、メチャクチャに野次られている光景でした。その時、ああ、この団体には権威主義がないんだなと思ったんです」
◆現在の情勢は「既に戦争が始まっている」状態
以来、活動に参加した矢嶋さんは自身が通う学習院大学でも頻繁にビラをまき、今や学内では有名人。ビラを撒いていると「いつも見てます」と声をかけられることも多い。活動のきっかけとなったTwitterは、尖った政治的なツイートばかりかと思いきや、合間に自撮りも欠かさないあたりが、実に現代的だ。
そんなデジタルネイティブ世代の活動家である矢嶋さんは、これからの展望をこんなふうに語った。
「軍事費2倍化や南西諸島へのミサイル配備など、既に戦争は始まっています。広島サミット粉砕の活動を通じて反対勢力が存在することを世界中にみせることで、新たな選択肢ができるわけじゃないですか。全力で戦って、これから戦争が始まっても一緒に戦える運動をつくっていきたいと思っています」
彼らの主張を支持する、しないを問わず、なにか気になってしまうのは、諦観に満ちた現代には希な強固な意志ゆえだろうか。
<取材・文/昼間たかし>