「大学生の我が娘、ご近所の蕎麦うどん屋などの「出前」という仕組みがどうしても腑に落ちないらしい。プラ容器でなく、熱々の重い丼で届けてくれ、しかも後で丼をとりに来てくれて2往復になるのに手数料無料の意味が全くわからない、と。Uberが当たり前の世代は、出前がありがたすぎて混乱するらしい」
5月8日にTwitterでそんなツイートがされると、じわじわといいねやリツイートがつき、2~3日後には1.5万いいねを超えるプチバズリ状態を見せていた。
手前味噌で恐縮だが、実はこれ、筆者自身のツイートである。
基本的に普段は仕事の告知のみの無味無臭なつぶやきばかりで、フォロワー数も少なく、ツイートへのリアクションは毎度ほぼ無風。SNS不得手な辺境アカウントなのに、突然何があったのか。不思議に思い、リプライやリツイートを確認していくと、意外な事実が見えて来た。
「いいね」やリツイートをしたアカウントやリプ等を見る限り、この話題に関心を示したのは「UberEats世代」と「出前世代」の双方に幅広くまたがっていたよう。
アカウントのプロフで「大学生」「成人済み」などと記載があるものをはじめ、若い世代と思しき人たちからの反応で多かったのが、「え! 出前って、送料無料だったの?」「おじいちゃんちで出前頼んでもらったことあるけど、送料無料なんて全然知らなかった」「出前って送料無料だったのか…確かにわけわからん」「お得すぎて意味がわからない」と、娘と同様、「送料無料」であることが理解できないというもの。
コロナ禍で急速に浸透したUberEatsしか知らない若い世代は、「出前」という未知のシステムに驚き、混乱したり感動したりしている様子が多数見られた。
その一方で、中高年など、出前に馴染みのある世代からは、出前に対する若い世代の反応を新鮮に、あるいは衝撃的に受け止める声が続出。
一方、出前に馴染みのある世代からは、「逆にその世代の者はUberとかそもそもの価格設定も高い上に配達料払うなら自分で買いに行くか食べに行くか諦めるのよね」「逆に出前を知る世代だと、手数料とかとられるUberはもったいなくて頼めない」「出前が普通にあった世代だと『UberEatsは高い』イメージが抜けない」という声も多数あがっていた。
また、ツイートの盛り上がりの一端を担っていたのは、「手数料無料」がなぜ成立していたかについての様々な見解だ。どれも一理ある分析である。
さらに、「出前」という、ノスタルジーを感じさせるコンテンツ力の高さが、一人一人の思い出語りを引き出した面も大きい。
また、少子高齢化、核家族化、単身世帯をはじめとした「孤食」が進み、時代の変化に応じて、やむを得ないととらえる声も多数。
UberEats世代と出前世代のそれぞれに響くジェネレーションギャップネタであり、時代の変化を感じさせるビジネス要素アリ、ノスタルジックな思い出要素アリで、思いがけず盛り上がった「出前」に関するツイート。
ちなみに、マイボイスコム株式会社による「デリバリー」に関するインターネット調査(’22年10月1日~5日)によると、「食事のデリバリーサービス利用頻度」(UberEats、出前館などの総合フードデリバリーサービスや、各飲食店で実施するデリバリー・宅配サービス)で「利用しない」と答えたのは、’18年に50.4%だったところ、’20年には52.8%、’22年には60.0%と、デリバリーそのものの利用は、コロナ以降にまさかの減少傾向が見られた。こうした動向は不況と無関係とは思えない。
しかし、注文方法に関する調査項目を見ると、「各店舗のWebサイト・アプリなど」は’18年では29.9%、’20年は39.2%、’22年は42.8%と大きく増加。「デリバリーサービスのWebサイト・アプリ」も’18年では23.4%、’20年は28.4%、’22年37.2%と増加し、コロナ禍ですっかりネット注文が定着したのに対し、「店舗に電話」と答えたのは、’18年で60.2%、’20年で47.0%、’22年で35.3%と、大きく減少している。
コロナ禍の外出自粛などの影響で、外食産業は大きな打撃を受け、中でも体力のない個人の飲食店は続々と休業・廃業していった。
そんな中、大手チェーン店をはじめとした多くの飲食店と契約し、システムに組み込んでいった出前館や、コロナ禍以降に一気に拡大・浸透したUberEatsの影響を受けつつも、出前利用者が減る現状において、今もご近所付き合いの延長線上の顧客サービスとして続いている個人経営の飲食店の「出前」。
やっぱりどう考えても割に合わない、利用者側からすると非常にありがたい仕組みだと思えてならないのだ。
取材・文:田幸和歌子1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kids おわりなき道』『Hey! Say! JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。