先進7か国首脳会議(G7サミット)に合わせ、バイデン米大統領ら各国首脳が広島入りしている。
普段は東京で警視庁を取材している記者が、緊迫の現場を報告する。(東京社会部 菅原智)
■「一人旅」
サミット開幕前日の18日朝。羽田発の航空機で広島空港(広島県三原市)に降り立つと、最初に目に入ったのは、ずらりと並ぶ機動隊のバスだった。制服に「神奈川県警」と書かれた警察官があちこちに立っている。神奈川県警が空港の警備を割り当てられているのだろう。車道には、爆発物の撤去に使われる専門機材もあり、「非日常」の緊張感が漂っていた。
「お客さん、あと少し遅れていたら、危なかったですね」
空港での取材を終えてタクシーに乗り、広島市内に向かうため山陽自動車道に入ると、運転手さんからそう話しかけられた。どういうこと?と思って聞くと、「ほら、後ろを見てください」。
後部座席で身をよじると、私が乗ったタクシーの後ろに車が1台も走っていなかった。どうやら、岸田首相が広島空港から広島市内に向かう時間帯と重なり、車両の流入をストップさせたのだろう。
私と首相の目的地は同じで、サミット主会場のホテルがある宇品(うじな)島(広島市南区)。高速道路はその近くまで延びており、タクシーでの道中は思いがけない「一人旅」となった。
車内から目に付いたのは、高所から車両を狙うテロへの警戒だ。山陽道の上をまたぐ陸橋には、あちらこちらに警察官が立っていて、車を止めて職務質問を行う様子も見えた。道路脇のマンションの屋上にも、警察官の姿があった。
■荷物は地面に!
一般道に入ると、沿道には、青色シャツ姿の人、人、人――。いずれも警戒のために配置された警察官だ。
宇品島の手前でタクシーを降り、歩いて島の入り口に向かった。市民の数より、警察官の方がはるかに多い。「こんなにたくさんのお巡りさんは、なかなか見られない」と言って、スマートフォンで警察官を撮影している住民もいた。
きょろきょろしている私の様子が不審だったのだろう。警察官から職務質問を受けた。制服には「三重県警」の文字があった。2016年の伊勢志摩サミットの開催県だけに、積極的な警備が身についているのかもしれない。
私が「取材パス」を見せて記者であることを明かすと、「ご存じの通り、(首相の演説中に)爆発物を投げ込まれる事件もあったので」と丁寧に説明してくれた。
まもなく岸田首相の車両が到着したが、その直前、待ち構える報道陣や市民に対し、警察官から「ペットボトルはカバンにしまってください」「荷物はチャックを閉めて地面に置いてください」と立て続けに要請があった。不審な動きをする人物に、すぐ気づけるようにするための対策だろう。
ポリ袋を手に、道路のゴミを拾う警察官もいた。きれいな町並みで首脳らを迎える準備ではなく、これも路上に置かれた不審物を見つけやすくするための警備対策だった。
私は警視庁を担当するようになって以来、日米豪印4か国の「クアッド」首脳会談(昨年5月)の警備などを東京都心で取材してきたが、ここまで徹底した対策を目の当たりにしたのは初めてで、思わず「ここまでやるのか」とつぶやいた。
■現れた「野獣」
この日の夜には、バイデン大統領が日米首脳会談のため広島市中心部のホテルに入った。
装甲車並みの鋼板で知られる「ビースト(野獣)」と呼ばれる大統領専用車を一目見ようと、市中心部の沿道に多くの人が集まっていた。報道機関のヘリコプターも、空から車列を追う注目ぶりだった。
20日には、ウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れ、サミット主会場に入った。宇品島の入り口では、直前に警察官が増員され、車道と歩道の間に人垣を作るなど、岸田首相の時よりもさらに厳しい警備態勢が敷かれた。各国の首脳が日本を離れるまで、警備に目が離せない。