こんにちは。元ラブホ従業員の和田ハジメです。およそ6年もの間、渋谷区道玄坂にあるラブホテルにて受付業務および清掃業務に従事してきました。 ラブホの従業員と聞くとなんとなく暇そうな印象を抱く方も多いことかと思われますが、筆者が働いていたのは都内でも屈指の繁華街であり、なおかつ近隣他店と比較しても相当にリーズナブルな価格帯でお部屋を提供している激安店。
多少の繁閑差こそあれど、基本的にはせわしくお客様の応対に追われる日々を過ごしてきました。そして土地柄からか、“お行儀の悪い”お客様もかなりの頻度で来店され、トラブルを引き起こすこともしばしば……。 そこで今回は、元ラブホ従業員である筆者が遭遇した迷惑客というテーマで少しだけお話をさせていただければと思います。
◆迷惑客 П篦肯繕發了拱Гい鮟造蠡海韻慎鷆隋逃走を試みたお客様 筆者が勤務していたラブホは激安店。リーズナブルな価格帯で客室を提供しているぶん、延長料金に関しては割とシビアな徴収を行っておりました。
具体的には、退室予定時刻から1分でも過ぎたところで延長料金が発生し、以後30分刻みで1000円ずつ加算される仕組み。
例えば2時間延長した場合は、それだけで4000円の延長料金を支払うハメになってしまうのです。これほどまでに無駄な出費はありません。
とはいえ、ルールはルールです。大抵のお客様は延長分の料金をしっかりと支払ってくれるのですが、ごく一部、あらゆる策を弄して支払いを回避しようとする厄介な人間も存在しておりました。
その中でもとりわけ筆者が手を焼いたのは、“逃走を試みたお客様”でした。
◆見えすいた嘘、苦し紛れの言い訳、そして……
そのお客様は休憩利用の最短コースである“60分”を選択し、退室を促す連絡にも“居留守”を使って無視し続け、当初のチェックアウト時刻から3時間を過ぎても一向に退室するそぶりを見せませんでした。
「もしかしたら急病で倒れているのかもしれない」と考えた筆者はマスターキーを持って部屋に向かい、ノックもそこそこに扉を勢いよく開けました。 お客様はくつろいだ様子でAVを鑑賞していました。
思わず呆れてしまいましたが、筆者が語気を強めて内線電話に出なかった理由を問いただすと、回線が壊れているから不通だったとの返答が。
筆者はそのままフロントに戻り、再度内線電話を入れダッシュで客室へ。当然ながら着信音は部屋中に鳴り響いておりました。
◆「手持ちのお金がないから近くのコンビニまで……」
その後、半ば強引に退室させて延長料金を請求したところ、「今手持ちがないからコンビニでお金をおろさせてくれ」と言われました。この時点で完全にトンズラする気満々です。
筆者は、「構いませんが財布だけこちらで預からせていただきます。キャッシュカードだけ持ってコンビニへ行ってきてください」と伝えました。 すると、次の瞬間……お客様は出口に向かって猛ダッシュ!!
あまりにも突然の出来事だったので一瞬状況が飲み込めなかったものの、すぐさま追いかけ店外のそばで確保。「払わなかったら警察を呼ぶ」と伝えたところ、ついに観念し、延長料金分の7000円を支払っていただきました。
その際に財布の中身をちらっと覗いてみたところ、諭吉さんが3人確認できました。
◆迷惑客◆Г△蕕罎覬物で客室をコーティングしたお客様
都内有数の繁華街という立地の宿命なのか、朝方になると泥酔客がかなりの頻度で来店してきました。

とはいえ、あまりにも客入りが悪ければ選り好みなんてしていられません。これから紹介する“最悪の泥酔客”も、仕方なく入室させた結果、予想以上にやらかしてくれました。
◆コロナ禍でなければ絶対に入室させなかった
事件が起こったのはコロナ流行の初期。緊急事態宣言が発令され、普段あれだけ賑わっている渋谷でも、もぬけの殻の状態でした。
筆者が働いていたラブホも当然のようにその影響を受け、営業時間を短縮することに。平時であれば1日あたりおよそ80組ほどの来客数が、この時は5組来たらまだマシな方でした。
◆千鳥足で来店した青年
そんな状況下で来店してきた1人の若い泥酔客。
一昔前のホストのようないでたちで、身体中からアルコールの臭いを発していた。千鳥足で、手に持っていた(というよりは抱えていた)のは4リットルの「大五郎」です。
いつもであれば絶対に追い返すタイプなのですが、その日の客入りは“ゼロ”。仕方なく入室させることにしました。
ところで、その泥酔客は話してみるとかなり愛想が良くて、料金もしっかりと支払ってくれました。「もしかしたら爆睡してるかもしれないので所定の時間を過ぎたら叩き起こしてください」とまで言ってくれて、第一印象とは裏腹にかなりの好青年。筆者が抱えている不安も杞憂なのかもしれない。そう思い始めておりました。
◆マーライオン
泥酔客にルームキーを渡し、部屋に案内したあと、またしばらく暇な時間が続くだろうなと考えていた矢先、泥酔客がいる部屋から突然内線がかかってきました。
受話器を取ると「おにいさん、ちょっときてー」と呂律の回っていない声で話す泥酔客。備品の不備かなと思い客室に入ると、そこにはベッドの上で全裸で仁王立ちをしている泥酔客が。そしてそのまま勢いよく放尿したのです!
「見てー。マーライオン」
筆者は呆気にとられながらも、そんなことするなら出ていってくれとだけ言いました(それ以外に何を言えばいいのかも思いつきませんでした)。
その後泥酔客はすぐに謝り、「もう絶対しないから」というものの、こちらとしては今すぐにでも退室してほしい気持ちでした。フロントに戻ったあとに「マーライオンではなく小便小僧だろ」というツッコミが浮かびましたが、もうそんなことはどうでもよかったです。
◆延長もせずにサックリ退室。惨状としか言えないクッサイ客室
その後しばらくして退室予定時刻が迫ってきたので客室に内線を入れると、思いのほかしっかりとした口調で「かしこまりました」との返事が。チェックアウトの時間になり泥酔客がいくらかスッキリとした表情でフロントに鍵を返却してくれました。
「ありがとうございました!」とまるで高校球児かのような快活さで筆者にそう言ってくれたので、悪い気はしないなと思いつつ、泥酔客が使用していた客室に。
しかし部屋に入った瞬間、あの臭いが。すぐさま窓を開け換気をする筆者。床下には大量の吐瀉物……。なんとテレビにも吐瀉物がかかっておりました。ベッドは尿のシミ、そしてバスルームへ向かうと、浴槽に便が……。 明らかにわざとやっているとしか思えないほどの汚しっぷりに筆者は思わず泣きそうになりました。営業時間の短縮と並行して人件費の削減も行っていたため、この汚物にまみれた客室を掃除するのは筆者の役割となっていましたから……。
後続の従業員が来るまでにせめて臭いだけでもマシなものにしなければという思いでとりあえず窓を開け放し、少しでも負担が軽くなるように今のうちに清掃しておかなければと思うものの、あまりにも汚すぎてどこから手を付けるべきなのか全くわからず途方にくれた。その時できたことは、便器に差し込んであった大五郎を引っこ抜くことだけでした。
<文/和田ハジメ>
―[和田さんのラブホよもやま話]―