ドラッグストアチェーンの「ダイコク」が、納入業者に不当な返品を求めていた問題で改善計画を発表し、先月、公正取引委員会の認定を受けた。コロナ禍でインバウンド客が減ったことを理由に、売れ残った医薬品や化粧品を納入業者に引き取らせていたという。“被害”業者はおよそ80社、額は7億5000万円にもおよぶ。
【写真を見る】完売でローソンに“お詫び文”掲載…爆売れコスメ 仕入れるだけ仕入れ、売れなかったから返品……。ふつうのビジネス感覚では理解しがたい行為だが、じつはドラッグストア業界では、そう珍しいことではないという。

さる化粧品メーカーの関係者が「業者別の返品率データ」を提供してくれた。そこには誰もが知るドラッグストアチェーンやGMS(総合スーパー)、バラエティストアおよそ20社の名前が並んでおり、全体の返品率は平均して3%ほどとなっている。だが業態別にみるとGMSは2%、バラエティストアは1%ほどだが、ドラッグストアはチェーンによって10%に及ぶ社もあり、全体の返品率を押し上げていることがわかる。数ある小売業態のなかでも、ドラッグストア業界だけ返品が“許されている”のだ。巨額の返品問題はなぜ起きたのか(ダイコクドラッグ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)「うちは化粧品で回転率が低く在庫があまりがちなので、回転率の高い洗剤やヘアケア商品より返品率が高いというのはあります。それでもGMSやバラエティストアにくらべるとドラッグストアさんの返品率が突出して高いのは間違いない。これはうちに限った話ではなく、どこのメーカーもそうですよ。返品契約など当然結んでいません。『そういうもの』として、ドラッグストアだけ返品が許されているのです」 こうした返品事情は、まわりまわって商品価格の上昇につながるというのだから、われわれ消費者としても看過できない。「返品された商品を再生することはあるのですが、かかるコストは低くありません。戻ってきた商品を仕分けする人手や、破損している箱の別途調達などが必要になってきます。そうしたコストのぶんは、当然、値段設定に影響します。もっともコストを考えると、返品されたもののうち再生できるのはせいぜい10%ほど。残りは破棄です。寄付したりセール販売したりすることもできなくはないですが、ブランドイメージの低下を考えるとなかなかやりにくいのです」 返品問題については、業界団体「日本チェーンドラッグストア協会」も2016年の会見で、池野隆光氏(ウエルシアホールディングス代表取締役兼会長)が言及している。「押し込むだけ押し込んで返品する、あるいは廃棄するという余裕はないはずだ。返品問題にはこれまでもずっと取り組んできたが、うまくいかなかったのは、やり方に問題があったのではないか」(薬事日報)。ダイコク問題がおきるはるか以前から、認識されていた問題であることがわかる。返品不可のメーカーも 先の化粧品メーカー関係者は取り引きがないためデータがなかったが、コンビニエンスストアの状況はどうか。元ローソンでマーケティングアナリストの渡辺広明氏は「コンビニでもドラッグストアレベルのような慣例はないですね。一部の季節商品などで返品はありますが、基本的には、きちんと返品契約または商談リストなど約定書として文章で残しています」という。「ですので、コンビニの日用品の棚をよく見ると、なかなか売れなくてホコリをかぶっている洗剤などが置かれていることがあります。モノによってはパッケージが変色してしまったりも……。これこそ返品ができない証拠で、ドラッグストアではこんな“劣化”した商品を見る機会はそう多くないのでは。『見切り品』として、石鹸や美容品を値引き販売しているコンビニもあります。これもまた、返品ができないゆえに、お店が泣く泣くとっている施策なのです」(渡辺氏) こうしたコンビニの「見切り品」同様、一部にはアウトレットで安く販売するコーナーを設けているドラッグストアもあるにはある。これまでの話を総合すると、値引きせずに返品してしまえばいいはずだが……。先のメーカー関係者はこんな内情を説明する。「そこもまた業界の“闇”ともいえるのですが、一部のメーカーはドラッグストアも返品できないのです。具体的には、日本のドラッグストアの常識が通用しないP&Gやユニリーバなどの外資系、ドラッグストアも逆らえない超有力な商品を持つDHCなどですね。この辺は個々のチェーンの契約の事情もあるので一概には言い切れませんが、こういったメーカーの商品は返品ができないため、こっそりと値引き販売されていることもあるにはあります」 会社名によって返品の可・不可が黙認されているとなれば、メーカー側としても不公平感は強いだろう。「ただ、われわれとしても“もちつもたれつ”という部分があるのも正直なところ。たとえば、年度末までに売上目標が達成できないようなときに、ドラッグストアさんに無理をいって仕入れてもらい、見せかけだけでも数字をごまかすことがある。で、あとから返品してもらうんです。これは“押し込み”といいます。たとえば仕入れのときに30円の特別納入価だとすると、二か月後に返品するときは通常の納入価の50円で戻す。そんな悪質なケースも一部あります。ドラッグストアさんにしてみれば、仕入れて返品するだけで儲かるのです」 とはいえ売上目標達成のために生じるコストも、当然、商品に上乗せされる。やはり消費者の立場からは容認できるものではない。協会も頭を抱える 先の渡辺氏は、ドラッグストアの返品問題に別の観点から厳しい見方を示す。「まず、他の小売業と比較してフェアなビジネスではありません。また、返品の常態化は廃棄を増やすことにつながっており、SDGsの観点からも問題があります。なにより返品が可能な前提になっていると、とりあえずお店には仕入れてはもらえるわけで、メーカー側にも緊張感が生まれません。モノづくりを疲弊させるともいえます」 日本チェーンドラッグストア協会にとっても、返品は悩ましい問題のようだ。本件についての見解を尋ねると、「各社の取り引きについて中身まで把握はしていませんが、昔からの商習慣として『返品』があったのは事実です。取り扱い品目や量が多いために、ほかの業態に比べて返品率は高いと認識しています。ただし、それを良しとしているつもりはまったくありません。協会としても取り組んでいますし、個々の業者さんでも返品削減に取り組む動きは見られます。ある大手チェーンでは、15年度には5%だった返品率を22年度には1.3%まで減らしました。業界としても努力はしているのです」デイリー新潮取材班
仕入れるだけ仕入れ、売れなかったから返品……。ふつうのビジネス感覚では理解しがたい行為だが、じつはドラッグストア業界では、そう珍しいことではないという。
さる化粧品メーカーの関係者が「業者別の返品率データ」を提供してくれた。そこには誰もが知るドラッグストアチェーンやGMS(総合スーパー)、バラエティストアおよそ20社の名前が並んでおり、全体の返品率は平均して3%ほどとなっている。だが業態別にみるとGMSは2%、バラエティストアは1%ほどだが、ドラッグストアはチェーンによって10%に及ぶ社もあり、全体の返品率を押し上げていることがわかる。数ある小売業態のなかでも、ドラッグストア業界だけ返品が“許されている”のだ。
「うちは化粧品で回転率が低く在庫があまりがちなので、回転率の高い洗剤やヘアケア商品より返品率が高いというのはあります。それでもGMSやバラエティストアにくらべるとドラッグストアさんの返品率が突出して高いのは間違いない。これはうちに限った話ではなく、どこのメーカーもそうですよ。返品契約など当然結んでいません。『そういうもの』として、ドラッグストアだけ返品が許されているのです」
こうした返品事情は、まわりまわって商品価格の上昇につながるというのだから、われわれ消費者としても看過できない。
「返品された商品を再生することはあるのですが、かかるコストは低くありません。戻ってきた商品を仕分けする人手や、破損している箱の別途調達などが必要になってきます。そうしたコストのぶんは、当然、値段設定に影響します。もっともコストを考えると、返品されたもののうち再生できるのはせいぜい10%ほど。残りは破棄です。寄付したりセール販売したりすることもできなくはないですが、ブランドイメージの低下を考えるとなかなかやりにくいのです」
返品問題については、業界団体「日本チェーンドラッグストア協会」も2016年の会見で、池野隆光氏(ウエルシアホールディングス代表取締役兼会長)が言及している。「押し込むだけ押し込んで返品する、あるいは廃棄するという余裕はないはずだ。返品問題にはこれまでもずっと取り組んできたが、うまくいかなかったのは、やり方に問題があったのではないか」(薬事日報)。ダイコク問題がおきるはるか以前から、認識されていた問題であることがわかる。
先の化粧品メーカー関係者は取り引きがないためデータがなかったが、コンビニエンスストアの状況はどうか。元ローソンでマーケティングアナリストの渡辺広明氏は「コンビニでもドラッグストアレベルのような慣例はないですね。一部の季節商品などで返品はありますが、基本的には、きちんと返品契約または商談リストなど約定書として文章で残しています」という。
「ですので、コンビニの日用品の棚をよく見ると、なかなか売れなくてホコリをかぶっている洗剤などが置かれていることがあります。モノによってはパッケージが変色してしまったりも……。これこそ返品ができない証拠で、ドラッグストアではこんな“劣化”した商品を見る機会はそう多くないのでは。『見切り品』として、石鹸や美容品を値引き販売しているコンビニもあります。これもまた、返品ができないゆえに、お店が泣く泣くとっている施策なのです」(渡辺氏)
こうしたコンビニの「見切り品」同様、一部にはアウトレットで安く販売するコーナーを設けているドラッグストアもあるにはある。これまでの話を総合すると、値引きせずに返品してしまえばいいはずだが……。先のメーカー関係者はこんな内情を説明する。
「そこもまた業界の“闇”ともいえるのですが、一部のメーカーはドラッグストアも返品できないのです。具体的には、日本のドラッグストアの常識が通用しないP&Gやユニリーバなどの外資系、ドラッグストアも逆らえない超有力な商品を持つDHCなどですね。この辺は個々のチェーンの契約の事情もあるので一概には言い切れませんが、こういったメーカーの商品は返品ができないため、こっそりと値引き販売されていることもあるにはあります」
会社名によって返品の可・不可が黙認されているとなれば、メーカー側としても不公平感は強いだろう。
「ただ、われわれとしても“もちつもたれつ”という部分があるのも正直なところ。たとえば、年度末までに売上目標が達成できないようなときに、ドラッグストアさんに無理をいって仕入れてもらい、見せかけだけでも数字をごまかすことがある。で、あとから返品してもらうんです。これは“押し込み”といいます。たとえば仕入れのときに30円の特別納入価だとすると、二か月後に返品するときは通常の納入価の50円で戻す。そんな悪質なケースも一部あります。ドラッグストアさんにしてみれば、仕入れて返品するだけで儲かるのです」
とはいえ売上目標達成のために生じるコストも、当然、商品に上乗せされる。やはり消費者の立場からは容認できるものではない。
先の渡辺氏は、ドラッグストアの返品問題に別の観点から厳しい見方を示す。
「まず、他の小売業と比較してフェアなビジネスではありません。また、返品の常態化は廃棄を増やすことにつながっており、SDGsの観点からも問題があります。なにより返品が可能な前提になっていると、とりあえずお店には仕入れてはもらえるわけで、メーカー側にも緊張感が生まれません。モノづくりを疲弊させるともいえます」
日本チェーンドラッグストア協会にとっても、返品は悩ましい問題のようだ。本件についての見解を尋ねると、
「各社の取り引きについて中身まで把握はしていませんが、昔からの商習慣として『返品』があったのは事実です。取り扱い品目や量が多いために、ほかの業態に比べて返品率は高いと認識しています。ただし、それを良しとしているつもりはまったくありません。協会としても取り組んでいますし、個々の業者さんでも返品削減に取り組む動きは見られます。ある大手チェーンでは、15年度には5%だった返品率を22年度には1.3%まで減らしました。業界としても努力はしているのです」
デイリー新潮取材班