■[疲弊する教員]<上>
教員の長時間労働の是正が課題となっている。
文部科学省が先月末に公表した2022年度の教員勤務実態調査からも、依然として深刻な現実が浮かび上がった。業務が多様化する一方で、教員不足に直面する現場の今を報告し、改善策を考える。
■土日は部活
首都圏在住の女性(23)は、今年3月末で公立中学校の教員を辞めた。大学卒業と同時に教職に就いて、わずか1年。「想像以上の忙しさ」が理由だった。
専門の教科を四つのクラスで教え、副担任と運動部の顧問も受け持った。朝練で毎朝午前5時半に起き、放課後も部活を指導。練習が終わると学年ごとに開かれる会議が毎日のようにあった。「生徒同士がケンカした」「保護者から相談の電話があった」。そんな報告を聞き、対応を話し合った。
翌日の授業準備に手がつけられるのは午後8時過ぎ。行事が近付くと、その用意で帰宅は日付をまたいだ。「覚悟していた以上に勤務時間が長かった。学校にいる間は、一息つく間もなかった」と女性は振り返る。
「隠れ残業」も当たり前だった。金曜日、同僚の教員たちは紙袋に書類を詰めて家に持ち帰った。パソコン上で管理する出勤記録には、誰も実態通りに登録していなかった。「正確に登録しにくい雰囲気だった。管理職の教員からも、『早く帰って家で仕事しなよ』と言われていた」。土日もほぼ部活で、休みが2日だけだった月も。手帳のカレンダーのその日を蛍光ペンで囲み、踏ん張った。
それでも、やりがいを感じる時はあった。生徒の疑問に時間をかけて向き合い、「わかった!」と目を輝かせるのを見ると、疲れを忘れた。「先生の授業を毎日受けたい」と言ってくれる女子生徒もいた。
「私の教え方でいいのかな」。新任で仕事に押しつぶされそうになる中でも、授業の準備だけはおろそかにしないようにした。学校を離れる時、一人の女子生徒が手紙をくれた。「先生と一緒に受験を乗り越えたかったよ」。ほっとしたのと申し訳なさとで、胸が締め付けられた。
「働きやすい環境であれば、続けたかった」。女性はそう言って、唇をかむ。
■学習用端末の対応
学校現場で教員が対応する業務は増え、多様化している。2016年度の前回調査に比べ、平日1日あたりの勤務時間は中学校の教員で31分、小学校では30分減ってわずかに改善されたが、月に換算すると小中教員の6~7割が、国が指針で示す「月45時間」の残業上限を超えていた。
近年、増えた業務の一つに、政府のGIGAスクール構想で小中学生への1人1台配備が実現した学習用端末に関わるものがある。
東京都内の公立中学校でICT(情報通信技術)を担当する男性教員は端末の管理や操作の指導、不具合などの対応に追われる。今年4月の新学期前には、端末の管理番号とメールアドレスを割り当てる全校生徒数百人分のリストを2日かけて作った。
増え続ける不登校や発達障害、外国人の子どもらへの対応にも多くの時間が割かれる。学校経営に詳しい国士舘大の喜名朝博教授は「課題は多様化しているうえに複雑で、教員の負担感は増す一方だ」と指摘する。
■海外は分業
日本では学校現場の業務の多くを教員が負う一方、海外では授業を中心に限定されている。
文科省は21年度、外部の調査会社に委託して日本を含む10か国の小中学校教員の業務について調べた。日本の教員は最多の35業務に関わり、ドイツと韓国が29業務で続いた。米国とオーストラリアは19業務、英国は16業務と少なかった。「家庭訪問」「学校徴収金の管理」「校内巡視・安全点検」「登下校の指導・見守り」は、多くの国で受け持っていなかった。
国立教育政策研究所の藤原文雄・初等中等教育研究部長は「海外では業務スタッフとの分業体制を進め、ICT化で業務効率を高めるなど授業に集中できる環境を整備してきた。日本でも、教員の業務を選んでいくべきだ」と指摘している。
◆教員勤務実態調査=文部科学省が公立学校教員を対象に不定期で実施。2006年度の前々回調査での時間外勤務(残業)は月42時間だったが、前回16年度で小学校59時間、中学校81時間と急増し、改善が課題となっていた。22年度調査では小学校41時間(前回比18時間減)、中学校58時間(同23時間減)に減少した。