M&Nコンサルティング社会保険労務士・行政書士事務所代表で、のべ1万人以上に対してキャリアカウンセリング事業、並びに数百社の人事労務コンサルティング事業を手掛けてきた中谷充宏氏に、“やる気のある若者が敬遠するダメなホワイト企業”について話を伺った(以下、「」内は中谷氏のコメント)。
前編【努力して入った大手企業、「ホワイトすぎる」という理由で退職する若者が“急増”しているワケ】
ではそんなホワイト企業ならではの理由で、社員の成長を促せなくなる要因は何か挙げられるのだろうか。
「適切な目標管理を設定できていない企業が、人材育成に失敗するイメージがありますね。個人的な所感ですが、ホワイト企業は社員に負荷をかけさせたくないあまりに、がんばらなくてもいいと思わせてしまう低めの目標やノルマを作りがちなんです。
昭和の営業マンは20時を回って契約が1件も取れていないと、上長から怒鳴られ再度営業に向かわせられるなんてことが当たり前でして、多少の無理をさせてでも契約させることが是とされてきました。現代的な価値観にそぐわないやり方なのは自明ですし、推奨する気もありませんが、社員のやる気を引き出すという意味では多少の効果はあったのかもしれません」
残業禁止といった企業も増えているが、それもやる気ある社員のモチベーションを下げる要因になるのだとか。
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「向上心の高い若者だと、調子がいいときには残業してまで業務を終わらせたいとやる気になる日もあると思いますが、それが禁止されるとなると興ざめしますよね。日本版ホワイトカラーエグゼンプションとして、高度プロフェッショナル制度(職務の範囲が明確な高度専門職で高所得者を対象として、労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする制度)の導入も進めている企業も増えてきましたが、これは一部の高度プロフェッショナル人材のみが対象となっているので、一介の新入社員、ましてやホワイト企業の一般社員にはまだまだ縁のない領域です。また業種にもよりますが、分業が徹底されていてマニュアルどおりの業務をこなすだけで一定のクオリティーを出せる企業であれば、成長の機会も少なくなってしまいます。マニュアルどおりだけの作業は、人間の機械化なんて揶揄もされますし、将来が不安になる若者が出てきても不思議ではないでしょう」大手や協会職員などはユルすぎてやる気が出ない?ここでホワイトな労働環境すぎて、仕事に熱が入らなくなる業界や業種について中谷氏に聞いてみたい。「自動車メーカーやインターネット系のインフラ事業を手掛ける大企業は、日本の産業界をリードする存在ですので、率先して社内環境をホワイト化しなければいけませんでした。具体的な社名を挙げるとすれば、トヨタやNTTなどの企業ですね。そのような大企業ですと年功序列や終身雇用といった古い体質がいまだに根付いており、若くして出世コースに乗ることが難しくなっています。そのためモチベーションの高い若者たちのなかには、歯がゆい思いをする人もいるでしょうね。ちなみに元トヨタ若手人事で現サイボウズ人事の高木一史氏が発行した『拝啓人事部長殿』という書籍は、日本企業にいまだに根強い社員一律平等と、それによる閉塞感をありのままに綴った内容が話題となりました。若者が日本企業の慣習によって、不安に駆られる様子が克明に描かれていましたので、今のやる気ある若者には響く内容でしょうね」また一般的な知名度は低いが、「○○協会」といった業界の発展などを目的とした団体、組織の職員も思った以上にホワイトな仕事に該当するのだという。Photo by iStock 「協会職員の仕事は、政策提言を行うなど業界の最前線で奔走するような仕事を想像する若者も多いでしょう。しかし、実際は業界関係のお偉いさんが一堂に会す会合のセッティングをするバックオフィス業務や、広告活動など裏方系の仕事となっている場合がほとんど。仕事自体は比較的ホワイトなようですが、物足りなさを感じてしまう人も多いと考えられます。若者は『この業界の未来のために』、『よりよい業界を作るために』といった文言に誘われて入職するケースが多いと聞きます。ですが現実の仕事が主に裏方業務となると、自分の理想や入職する前の想像とかけ離れてしまう。おまけに協会の上層部は業界内トップの人材が天下りしているケースが大部分を占めるので、より一層ギャップに悩まされるかもしれません」負荷をかけるどうかの判断は個々に行うべきホワイト企業に就職できても、自らが置かれている現状を顧みて、今の会社に居続けていいのかと悩む人は多い。それは若者に限らず、壮年世代も同じだと中谷氏は指摘する。「終身雇用制のホワイト企業に就職していても、法律や社内制度が変わり会社を追い出されたときの可能性を憂慮して、キャリアアップのために転職する壮年世代も珍しくはありません。特に30代のなかには自分が近い将来、何のスキルを持たないジェネラリスト的な管理職へと上がり、働かないおじさん化してしまうのではという不安を強く持っている人もいるでしょう」このままだとホワイト企業なのにも関わらず、人材がどんどん流出するということも起きてきそうだ。企業側はどのように人材離れを防ぐべきなのか。 「社員を一律で管理するのではなく、会社が求める業務量と本人が求めるレベルを照らし合わせて、個々のタスクのキャパシティに応じて上司が適切な負荷をかけられるかどうかが肝要になります。その時点での実力や今後のキャリアを加味したうえで、あくまで本人視点に立って業務の指示出し、方針を提案するべきですね。また採用の際にどのようなレベルの人材がほしいのか、慎重に検討するべきです。会社が求めるレベル以上の人材を採用してしまうと、ミスマッチが起こりかねませんし、入社後にギャップを感じてすぐに退職してしまうことも考えられます。とりあえず、仕事ができる・できないはさておき、社員の人間性やモチベーションを評価軸にしたほうが、社風に合う人材を獲得しやすいでしょう」(取材・文=文月/A4studio)
「向上心の高い若者だと、調子がいいときには残業してまで業務を終わらせたいとやる気になる日もあると思いますが、それが禁止されるとなると興ざめしますよね。
日本版ホワイトカラーエグゼンプションとして、高度プロフェッショナル制度(職務の範囲が明確な高度専門職で高所得者を対象として、労働時間、休憩、休日・深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする制度)の導入も進めている企業も増えてきましたが、これは一部の高度プロフェッショナル人材のみが対象となっているので、一介の新入社員、ましてやホワイト企業の一般社員にはまだまだ縁のない領域です。
また業種にもよりますが、分業が徹底されていてマニュアルどおりの業務をこなすだけで一定のクオリティーを出せる企業であれば、成長の機会も少なくなってしまいます。マニュアルどおりだけの作業は、人間の機械化なんて揶揄もされますし、将来が不安になる若者が出てきても不思議ではないでしょう」
ここでホワイトな労働環境すぎて、仕事に熱が入らなくなる業界や業種について中谷氏に聞いてみたい。
「自動車メーカーやインターネット系のインフラ事業を手掛ける大企業は、日本の産業界をリードする存在ですので、率先して社内環境をホワイト化しなければいけませんでした。具体的な社名を挙げるとすれば、トヨタやNTTなどの企業ですね。
そのような大企業ですと年功序列や終身雇用といった古い体質がいまだに根付いており、若くして出世コースに乗ることが難しくなっています。そのためモチベーションの高い若者たちのなかには、歯がゆい思いをする人もいるでしょうね。
ちなみに元トヨタ若手人事で現サイボウズ人事の高木一史氏が発行した『拝啓人事部長殿』という書籍は、日本企業にいまだに根強い社員一律平等と、それによる閉塞感をありのままに綴った内容が話題となりました。若者が日本企業の慣習によって、不安に駆られる様子が克明に描かれていましたので、今のやる気ある若者には響く内容でしょうね」
また一般的な知名度は低いが、「○○協会」といった業界の発展などを目的とした団体、組織の職員も思った以上にホワイトな仕事に該当するのだという。
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「協会職員の仕事は、政策提言を行うなど業界の最前線で奔走するような仕事を想像する若者も多いでしょう。しかし、実際は業界関係のお偉いさんが一堂に会す会合のセッティングをするバックオフィス業務や、広告活動など裏方系の仕事となっている場合がほとんど。仕事自体は比較的ホワイトなようですが、物足りなさを感じてしまう人も多いと考えられます。若者は『この業界の未来のために』、『よりよい業界を作るために』といった文言に誘われて入職するケースが多いと聞きます。ですが現実の仕事が主に裏方業務となると、自分の理想や入職する前の想像とかけ離れてしまう。おまけに協会の上層部は業界内トップの人材が天下りしているケースが大部分を占めるので、より一層ギャップに悩まされるかもしれません」負荷をかけるどうかの判断は個々に行うべきホワイト企業に就職できても、自らが置かれている現状を顧みて、今の会社に居続けていいのかと悩む人は多い。それは若者に限らず、壮年世代も同じだと中谷氏は指摘する。「終身雇用制のホワイト企業に就職していても、法律や社内制度が変わり会社を追い出されたときの可能性を憂慮して、キャリアアップのために転職する壮年世代も珍しくはありません。特に30代のなかには自分が近い将来、何のスキルを持たないジェネラリスト的な管理職へと上がり、働かないおじさん化してしまうのではという不安を強く持っている人もいるでしょう」このままだとホワイト企業なのにも関わらず、人材がどんどん流出するということも起きてきそうだ。企業側はどのように人材離れを防ぐべきなのか。 「社員を一律で管理するのではなく、会社が求める業務量と本人が求めるレベルを照らし合わせて、個々のタスクのキャパシティに応じて上司が適切な負荷をかけられるかどうかが肝要になります。その時点での実力や今後のキャリアを加味したうえで、あくまで本人視点に立って業務の指示出し、方針を提案するべきですね。また採用の際にどのようなレベルの人材がほしいのか、慎重に検討するべきです。会社が求めるレベル以上の人材を採用してしまうと、ミスマッチが起こりかねませんし、入社後にギャップを感じてすぐに退職してしまうことも考えられます。とりあえず、仕事ができる・できないはさておき、社員の人間性やモチベーションを評価軸にしたほうが、社風に合う人材を獲得しやすいでしょう」(取材・文=文月/A4studio)
「協会職員の仕事は、政策提言を行うなど業界の最前線で奔走するような仕事を想像する若者も多いでしょう。しかし、実際は業界関係のお偉いさんが一堂に会す会合のセッティングをするバックオフィス業務や、広告活動など裏方系の仕事となっている場合がほとんど。仕事自体は比較的ホワイトなようですが、物足りなさを感じてしまう人も多いと考えられます。
若者は『この業界の未来のために』、『よりよい業界を作るために』といった文言に誘われて入職するケースが多いと聞きます。ですが現実の仕事が主に裏方業務となると、自分の理想や入職する前の想像とかけ離れてしまう。おまけに協会の上層部は業界内トップの人材が天下りしているケースが大部分を占めるので、より一層ギャップに悩まされるかもしれません」
ホワイト企業に就職できても、自らが置かれている現状を顧みて、今の会社に居続けていいのかと悩む人は多い。それは若者に限らず、壮年世代も同じだと中谷氏は指摘する。
「終身雇用制のホワイト企業に就職していても、法律や社内制度が変わり会社を追い出されたときの可能性を憂慮して、キャリアアップのために転職する壮年世代も珍しくはありません。特に30代のなかには自分が近い将来、何のスキルを持たないジェネラリスト的な管理職へと上がり、働かないおじさん化してしまうのではという不安を強く持っている人もいるでしょう」
このままだとホワイト企業なのにも関わらず、人材がどんどん流出するということも起きてきそうだ。企業側はどのように人材離れを防ぐべきなのか。
「社員を一律で管理するのではなく、会社が求める業務量と本人が求めるレベルを照らし合わせて、個々のタスクのキャパシティに応じて上司が適切な負荷をかけられるかどうかが肝要になります。その時点での実力や今後のキャリアを加味したうえで、あくまで本人視点に立って業務の指示出し、方針を提案するべきですね。また採用の際にどのようなレベルの人材がほしいのか、慎重に検討するべきです。会社が求めるレベル以上の人材を採用してしまうと、ミスマッチが起こりかねませんし、入社後にギャップを感じてすぐに退職してしまうことも考えられます。とりあえず、仕事ができる・できないはさておき、社員の人間性やモチベーションを評価軸にしたほうが、社風に合う人材を獲得しやすいでしょう」(取材・文=文月/A4studio)
「社員を一律で管理するのではなく、会社が求める業務量と本人が求めるレベルを照らし合わせて、個々のタスクのキャパシティに応じて上司が適切な負荷をかけられるかどうかが肝要になります。その時点での実力や今後のキャリアを加味したうえで、あくまで本人視点に立って業務の指示出し、方針を提案するべきですね。
また採用の際にどのようなレベルの人材がほしいのか、慎重に検討するべきです。会社が求めるレベル以上の人材を採用してしまうと、ミスマッチが起こりかねませんし、入社後にギャップを感じてすぐに退職してしまうことも考えられます。とりあえず、仕事ができる・できないはさておき、社員の人間性やモチベーションを評価軸にしたほうが、社風に合う人材を獲得しやすいでしょう」
(取材・文=文月/A4studio)