醤油差しを舐めたり、勝手に食べ物を食べるなど、チェーン店系飲食店における迷惑客の“テロ行為”が問題となったが、飲食店にとっての迷惑客はこうした“映える”ものばかりではない。飲食店で働く人たちが目の当たりにした呆れた迷惑客の話を紹介していこう。 ◆食べながらの実況する迷惑ユーチューバー
都内でいわゆる“町中華”を営むAさんは、昨今の町中華ブームによって客足が増えたことにうれしさと共に戸惑いを感じている。
「ウチなんか昔っからの中華料理屋で狭いし、たいしてキレイじゃないし、食材もそんなにこだわりはないし、俺もオヤジから継いでやってて有名な店で修行もしてない。数年前まで地元の人しか来ないような店だったの。それがさ、最近は“そういうのがイイ!”って人が増えて、お客さんも増えたんだよ。売上? そりゃ上がったから嬉しいけど、ちょっと変な人も増えちゃったりもしてね……」
駅からは歩いて15分の住宅街にあり、地元の人しか来ない店だったにもかかわらず、ここ数年の町中華ブームによってAさんのお店には週末になるとわざわざ遠方から来る客もいるという。Aさんを悩ませるのは、そんなファンに混じってやって来るYouTuberなどの存在だ。
「動画や撮影はいいんだけど、撮りながら実況とかされるとほかのお客さんはギョッとしちゃうんだよ。俺はいいけど、他のお客さんはイイ顔しないからヤメてって言ってる。入ってくるなり、メニューにスマホを向けて『壁に掛かってるメニューから年季が感じられますね~。ここのイチオシはラーメンとチャーハンのセット』って実況が始まって、ラーメン食べながら『あぁ~懐かしい』って。お前初めてだろ、ウチ来たのはって(笑)」
◆自撮り棒で厨房の撮影を始める人も
さらにAさんは、無許可で厨房までズカズカと入ってくる迷惑なYouTuberに対しても苦言を呈した。
「一度、断りもなくカウンターから自撮り棒みたいなのを差し出して、厨房の撮影を始めたのがいたんだけど、そのときはさすがに怒鳴りつけちゃった。そういう人たちには『撮影してもいいけど、ちゃんと連絡してから来て』って言ってる。雑誌とかテレビなら事前に連絡してきて取材はこういうふうに……って段取りを決めて撮影するじゃない。でも、いきなり来て厨房の中まで撮らせてほしいって言われてもさ、昼メシ時にそんなもん無理だって」
Aさんは「俺はまだ優しいけどさ、ランチの忙しい時間帯って飲食店は“戦場”だから、おっかない大将ならたたき出されるかもよ」と。くれぐれも撮影の際は他のお客さんだけでなく、店の迷惑にならないように注意したほうがいいだろう。
◆フォロワー数をたてにタダ食いを試みたインスタグラマー
動画や写真を撮るだけならまだしも、押し売りのように振る舞うヤカラもいるようだ。都内で串焼き店を営むBさんは、こんな困った客の話をしてくれた。
「一見で入ってきた客なんだけど、やけにいろいろ話しかけてきたんだよ。その日は口開けからたいして忙しくなかったから相手してたんだ。その流れでさ、一杯奢らせてくれなんて言ってきたもんだから、こっちも嬉しくなるじゃない。

◆メニューにないトッピングを無茶振り 「お客さまは神様です」を自認する横柄な客も、店にとっては迷惑な存在だ。カネさえ払えばワガママもなんとかなると思う客は意外と多いのだとか。都内の私鉄沿線で洋食屋を営むCさんは客からの無茶振りに呆れ顔だ。 「メニューにないものを注文してくる人ってたまにいるんですが、あれは本当に困る。なんで注文できると思うんでしょうかね。しかも『できますか?』って聞かれるならまだしも、唐突に注文してきたから、『あれ? ウチ、こんなメニューあったっけ?』って混乱したこともありましたね。しかも、そういうことする人って、何でかしんないですけど横柄なんですよ」
◆メニューにないトッピングを注文する客 そんなCさんが出会った迷惑客で最も印象に残っている者の話をしてくれた。 「ウチはハンバーグに目玉焼きとチーズのトッピングができるんですが、それ以外のトッピングは手間もかかるしやってないんです。でも、その人は『ハンバーグセットにから揚げトッピングで』って言ってきました。バイトのコは聞き間違えたと思って、『ハンバーグセットとから揚げ単品ですか?』って聞き返したんです」 するとその客は急に声を荒げ、バイトのコに向かってまくし立てるように言い放った。 「ハンバーグのセットにから揚げを2個トッピングでって言ったんだよ! ハンバーグセットとから揚げなんて2皿も食べきれねぇよ!」
◆カネは払うからトッピングしろ!と…… バイトのコは「トッピングは目玉焼きやチーズしかありません」と説明するも、「できるか聞いてこいよ」とその男は言い捨てたという。 「バイトのコが厨房に来て、『から揚げをトッピングで2個ってできますか?』って怯えながら言うので、私が出て行ってから揚げのトッピングはやってないし、できませんと伝えたのですが『カネは払うからやってほしい』と。なので、提供する際に手間も掛かるし、他のメニューにも支障が出るから、そういうのはやってませんと返したら、『じゃあ、から揚げランチとハンバーグセット頼んだ客がいたら、お前は断るのか!』って。 さすがに私も頭に来て、『ウチの店はこういうルールでやってるので、それがイヤならお引き取りください』と伝えたら、『ネットの書き込みでから揚げのトッピングができたってあったけど、ウソなのか!』ってヒートアップ。私、そんなトッピングは今まで一度もやったことないんですよ。たぶん、2人で来た方がハンバーグセットとから揚げランチをシェアした写真をSNSに上げてて、それを見たのかなぁと。最後は警察呼びますって言って、追い返しました」 カネさえ払えばなんとかなると思ったら大きな間違い。店にはルールがあって、それを守れないなら客として扱ってもらえないのは当たり前である。
◆メニューにないものを注文する客たち この「出していないメニュー・トッピング」については、さまざまな飲食店の店主から話が聞けた。 「メニューにないトッピングや注文をしてくる人はけっこういますね。ウチは淡麗な醤油ラーメンの店なのに『麺堅めで味濃い目で!』とか、家系とか二郎系と勘違いしてるんでしょうか」(都内ラーメン店店主) 「ウチはチェーン店系の寿司屋なんで、握れるネタは全部メニューに書いてるんです。でも、メニューにないネタを得意気に注文される“自称・通”の人ってけっこういるんです。ありませんって断ると『やっぱチェーン店系だとなぁ~』ってこれ見よがしに言われると、腹立ちますね」(寿司チェーン板前) 「メニューにないドリンクを注文されると、ホント困ります。芋焼酎のソーダ割りくらいならいいんですが、凝ったカクテルとか言われても、そんなのチェーンの居酒屋のバイトができるわけないじゃないですか」(大手居酒屋チェーンアルバイト) ◆お客さまは神様ではない
明文化されて書かれているものもあれば、暗黙の了解的なものまで、店にはルールがある。仮にそれが理不尽なことであっても、郷に入っては郷に従うのは当たり前で、受け入れられなければ行かなければいいだけのことだ。
カネを払えばいいだろうと考えるのは、なんともさもしい考えではなかろうか。
文/谷本ススム