日本国民の多くは「日本は国家として独立している」という認識です。しかし、東京大学名誉教授の矢作直樹氏と、世界の金融や国際協議の実務にかかわる宮澤信一氏は、複数の明確な理由から「日本は真の独立国とはいえない」と断言します。いったいなぜなのか、ほとんどの国民が気づいていない「非独立国・ニッポン」の真相をみていきましょう。
【宮澤】日本は、本当の意味で連合国いわゆる国連に加盟の申請をし直す必要があります。どういうことかというと、いまだ締結されていないロシアとの平和条約の問題です。なるほど、確かにアメリカとは講和をしました。
日本の独立については、いろいろな学者がいろいろな見方をしています。大学などの高等教育機関で教えられる範囲はせいぜい、日本は主権国家であるから独立国家である、ということまでです。
サンフランシスコ平和条約は1952年に発効しましたが、その発効日4月28日が2013年(平成25年)に第二次安倍晋三内閣によって主権回復の日と定められました。
条約の第一章第一条(b)に、「連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する」とあります。しかし、このことについては裏の話を理解する必要があります。
日本の領域はどこからどこまででしょうか。戦前の地図では、北方諸島いわゆる北方領土から沖縄までです。戦前ということですから本当は台湾とやや高級な話としてはアラスカも入るのですが、それはレベルの違う話なので横においておきましょう。
沖縄は1972年に返還されました。これで一応、半分独立したようなもの、というかたちです。沖縄返還は、アメリカからの独立という見方もできます。同じ見方をすると、北方諸島についてはロシアからの独立、という話になります。
1991年にソビエト連邦が崩壊したあと、ロシアの初代大統領ボリス・エリツィンは日本と交渉を重ねました。彼は1993年に来日しています。うちは今、困っているからお金をくれれば北方領土はいい加減あなたのところに返す、それでおまえら独立しろよ、という話になっていたのですが、うまくいきませんでした。
2016年12月に、安倍首相がプーチンをまず山口県の長門市で迎え、その後に東京で首脳会談をやったことがありましたね。北方領土問題については千数百億円で、という話があった。あの時に払ってしまえばよかったんです。
北方諸島が返還されれば、日本の地図は晴れて完成で、それで済みです。日本は独立国家となるわけです。独立国家になれれば、ビルダーバーグ会議※に正式に加盟できるようにもなるのではないですか。日本は領土を回復していないのだからまともな国ではない、だから参加させない、というふうに見ることもできます。※ビルダーバーグ会議…毎年6月頃に開催される国際会議。公式のウェブサイトには「毎年約130人の、政治的指導者および産業界、金融界、労働界、学会、メディア界の専門家が招待されて開催される非公式な議論のためのフォーラム。参加者の3分の1は政治界及び政府からの参加。メンバーの約3分の2はヨーロッパ、残りは北米からの参加である」と説明されている。詳細な議題は設けられず、決議案も提案もされることはなく、投票的な行為はなく、政策声明も発表されない。本会議で決められる項目に「米ドル/円をはじめとした為替レート」「産油量」「金・ダイヤモンドなどの産出量」などが挙げられている。1954年の初開催から現在に至るまで、日本人が正式参加者として公式に招待された実績はない。水面下で行われた「北方領土」を巡るかけひき【矢作】それはやはり、世界を動かしている人たちのしきたりというものでしょうね。日本がどうこう言ってもしょうがないことです。独立できないしする必要もない日米同盟の考え方においての独立とは別に、国民的独立ということがあります。実務的、実際的な動きにおいては日米同盟で動けているけれども、日本が日本国としてすべきことをしてない、ということなのですが。こういった、しきたりというものを守れていないのですね。どれだけマッチョであっても、しきたりが守れていなければ会議には出してもらえない。日本は、ビルダーバーグ会議を運営している人たちの常識で言う独立国ではないということです。安倍首相の時には、ロシアが、北方領土に軍を置かないことは可能か、と聞いてきたんですね。それをなんというのか、聞くだけ野暮ですが、外務省にその質問を照会した。外務省は当然、それは無理です、と答えます。【宮澤】プーチンは頭にきたのではないですか。顔を潰されましたからね。【矢作】返してもらってしまえば、もうこっちのものです。あとでなにをしようが、約束を反ほ故ごにするのは国の常というものですから。【宮澤】アメリカからしても、北方諸島が日本に戻ることには、非常な軍事的メリットがあります。北方諸島の4つの島のどこかにミサイル中隊を1個置けば、それだけでロシアは南へ下りられません。緊張が高まるようなそんなことは、気をつかってアメリカもやらないと思いますが、予定はできます。第二次世界大戦終戦当時、戦勝国のアメリカとロシアつまりソ連は仲が良かったけれども、1946年のウィンストン・チャーチル英国首相の鉄のカーテン演説以降、アメリカとロシアは仲が悪くなった。日本の地図が中途半端なままになったのです。以降、ロシアは北方諸島を戦略的に持ち続けていたのだけれども、実はプーチンは親日家で、返してもいいよ、ということになった。元の日本地図に収まれば独立状態を回復できるのだから、という話までしていますよ。事情をちゃんと知っているのです。ビルダーバーグ会議からしてみても、そういうことがちゃんとできないような国は信用できませんよね。会議のメンバーに名を連ねる王族は特に帝王学を学んでいて、幼少より領土とはどういうことかというのを厳しく徹底的に仕込まれます。そういう人たちからすると、「なんだ、この国は?」となるのです。戦後70何年、経済的に豊かになって戦争を1回もしていない安定のなかにあるけれども、領土を元に戻すことすらできないのか、そんな国を信用できるか、ということでもあるでしょう。日本が「独立国」となるための“落としどころ”【矢作】まずは2島を返還してもらって、というような話をよく聞きますが、それは結局、領土とはなにかということから言うと的外れな議論ですね。賢い取引という感覚でいるのでしょうけれども。腕を落としちゃった。技術が進んで腕をくっつけられるようになった。でも、もしかしてくっつかないと困るから、様子見でとりあえず半分くっつけてもらいましょう。そう言っているようなものです。腕とはなにか、という議論が抜けてしまっています。国民に気合が入っていて、首相が決めたことを、良かったですねパチパチ拍手、と理解できるぐらいの民度であるなら、外務省も文句は言えなかったでしょう。【宮澤】日本には現在、6,852の島があります。本当は、6,856ないといけない。そして日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積が世界で第6位の海洋国家です。だからこそなお、海洋国家としての独立をちゃんと果たさなければ駄目だという話になるんです。独立の定義にはいろいろな議論がありますが、いずれにしても、本当の意味での主権国家として独立し、国連に登録し直すことが必要です。そのためには、北方諸島復帰と日本の軍事化が果たされなければなりません。日本は現在、軍事力という言葉を使ってはいけないことになっています。専守防衛という概念があるので、防衛力としか言えない。本当は軍事化しなければ駄目です。海上自衛隊は今、「いずも」と「かが」の護衛艦2隻を事実上の空母に改修する計画を進めていて、2024年度以降に配備される予定になっています。軍事化のひとつの足掛かりができましたが、本当の空母を空母として造らなければ駄目です。矢作 直樹東京大学名誉教授宮澤 信一国際実務家※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。
北方諸島が返還されれば、日本の地図は晴れて完成で、それで済みです。日本は独立国家となるわけです。独立国家になれれば、ビルダーバーグ会議※に正式に加盟できるようにもなるのではないですか。日本は領土を回復していないのだからまともな国ではない、だから参加させない、というふうに見ることもできます。
※ビルダーバーグ会議…毎年6月頃に開催される国際会議。公式のウェブサイトには「毎年約130人の、政治的指導者および産業界、金融界、労働界、学会、メディア界の専門家が招待されて開催される非公式な議論のためのフォーラム。参加者の3分の1は政治界及び政府からの参加。メンバーの約3分の2はヨーロッパ、残りは北米からの参加である」と説明されている。詳細な議題は設けられず、決議案も提案もされることはなく、投票的な行為はなく、政策声明も発表されない。本会議で決められる項目に「米ドル/円をはじめとした為替レート」「産油量」「金・ダイヤモンドなどの産出量」などが挙げられている。1954年の初開催から現在に至るまで、日本人が正式参加者として公式に招待された実績はない。
【矢作】それはやはり、世界を動かしている人たちのしきたりというものでしょうね。日本がどうこう言ってもしょうがないことです。
独立できないしする必要もない日米同盟の考え方においての独立とは別に、国民的独立ということがあります。実務的、実際的な動きにおいては日米同盟で動けているけれども、日本が日本国としてすべきことをしてない、ということなのですが。
こういった、しきたりというものを守れていないのですね。どれだけマッチョであっても、しきたりが守れていなければ会議には出してもらえない。日本は、ビルダーバーグ会議を運営している人たちの常識で言う独立国ではないということです。
安倍首相の時には、ロシアが、北方領土に軍を置かないことは可能か、と聞いてきたんですね。それをなんというのか、聞くだけ野暮ですが、外務省にその質問を照会した。外務省は当然、それは無理です、と答えます。
【宮澤】プーチンは頭にきたのではないですか。顔を潰されましたからね。
【矢作】返してもらってしまえば、もうこっちのものです。あとでなにをしようが、約束を反ほ故ごにするのは国の常というものですから。
【宮澤】アメリカからしても、北方諸島が日本に戻ることには、非常な軍事的メリットがあります。
北方諸島の4つの島のどこかにミサイル中隊を1個置けば、それだけでロシアは南へ下りられません。緊張が高まるようなそんなことは、気をつかってアメリカもやらないと思いますが、予定はできます。
第二次世界大戦終戦当時、戦勝国のアメリカとロシアつまりソ連は仲が良かったけれども、1946年のウィンストン・チャーチル英国首相の鉄のカーテン演説以降、アメリカとロシアは仲が悪くなった。日本の地図が中途半端なままになったのです。
以降、ロシアは北方諸島を戦略的に持ち続けていたのだけれども、実はプーチンは親日家で、返してもいいよ、ということになった。元の日本地図に収まれば独立状態を回復できるのだから、という話までしていますよ。事情をちゃんと知っているのです。
ビルダーバーグ会議からしてみても、そういうことがちゃんとできないような国は信用できませんよね。会議のメンバーに名を連ねる王族は特に帝王学を学んでいて、幼少より領土とはどういうことかというのを厳しく徹底的に仕込まれます。そういう人たちからすると、「なんだ、この国は?」となるのです。
戦後70何年、経済的に豊かになって戦争を1回もしていない安定のなかにあるけれども、領土を元に戻すことすらできないのか、そんな国を信用できるか、ということでもあるでしょう。
日本が「独立国」となるための“落としどころ”【矢作】まずは2島を返還してもらって、というような話をよく聞きますが、それは結局、領土とはなにかということから言うと的外れな議論ですね。賢い取引という感覚でいるのでしょうけれども。腕を落としちゃった。技術が進んで腕をくっつけられるようになった。でも、もしかしてくっつかないと困るから、様子見でとりあえず半分くっつけてもらいましょう。そう言っているようなものです。腕とはなにか、という議論が抜けてしまっています。国民に気合が入っていて、首相が決めたことを、良かったですねパチパチ拍手、と理解できるぐらいの民度であるなら、外務省も文句は言えなかったでしょう。【宮澤】日本には現在、6,852の島があります。本当は、6,856ないといけない。そして日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積が世界で第6位の海洋国家です。だからこそなお、海洋国家としての独立をちゃんと果たさなければ駄目だという話になるんです。独立の定義にはいろいろな議論がありますが、いずれにしても、本当の意味での主権国家として独立し、国連に登録し直すことが必要です。そのためには、北方諸島復帰と日本の軍事化が果たされなければなりません。日本は現在、軍事力という言葉を使ってはいけないことになっています。専守防衛という概念があるので、防衛力としか言えない。本当は軍事化しなければ駄目です。海上自衛隊は今、「いずも」と「かが」の護衛艦2隻を事実上の空母に改修する計画を進めていて、2024年度以降に配備される予定になっています。軍事化のひとつの足掛かりができましたが、本当の空母を空母として造らなければ駄目です。矢作 直樹東京大学名誉教授宮澤 信一国際実務家※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。
【矢作】まずは2島を返還してもらって、というような話をよく聞きますが、それは結局、領土とはなにかということから言うと的外れな議論ですね。賢い取引という感覚でいるのでしょうけれども。腕を落としちゃった。技術が進んで腕をくっつけられるようになった。でも、もしかしてくっつかないと困るから、様子見でとりあえず半分くっつけてもらいましょう。そう言っているようなものです。腕とはなにか、という議論が抜けてしまっています。国民に気合が入っていて、首相が決めたことを、良かったですねパチパチ拍手、と理解できるぐらいの民度であるなら、外務省も文句は言えなかったでしょう。【宮澤】日本には現在、6,852の島があります。本当は、6,856ないといけない。そして日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積が世界で第6位の海洋国家です。だからこそなお、海洋国家としての独立をちゃんと果たさなければ駄目だという話になるんです。独立の定義にはいろいろな議論がありますが、いずれにしても、本当の意味での主権国家として独立し、国連に登録し直すことが必要です。そのためには、北方諸島復帰と日本の軍事化が果たされなければなりません。日本は現在、軍事力という言葉を使ってはいけないことになっています。専守防衛という概念があるので、防衛力としか言えない。本当は軍事化しなければ駄目です。海上自衛隊は今、「いずも」と「かが」の護衛艦2隻を事実上の空母に改修する計画を進めていて、2024年度以降に配備される予定になっています。軍事化のひとつの足掛かりができましたが、本当の空母を空母として造らなければ駄目です。矢作 直樹東京大学名誉教授宮澤 信一国際実務家※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。
【矢作】まずは2島を返還してもらって、というような話をよく聞きますが、それは結局、領土とはなにかということから言うと的外れな議論ですね。賢い取引という感覚でいるのでしょうけれども。
腕を落としちゃった。技術が進んで腕をくっつけられるようになった。でも、もしかしてくっつかないと困るから、様子見でとりあえず半分くっつけてもらいましょう。そう言っているようなものです。腕とはなにか、という議論が抜けてしまっています。
国民に気合が入っていて、首相が決めたことを、良かったですねパチパチ拍手、と理解できるぐらいの民度であるなら、外務省も文句は言えなかったでしょう。
【宮澤】日本には現在、6,852の島があります。本当は、6,856ないといけない。そして日本は、領海を含めた排他的経済水域の面積が世界で第6位の海洋国家です。だからこそなお、海洋国家としての独立をちゃんと果たさなければ駄目だという話になるんです。
独立の定義にはいろいろな議論がありますが、いずれにしても、本当の意味での主権国家として独立し、国連に登録し直すことが必要です。そのためには、北方諸島復帰と日本の軍事化が果たされなければなりません。
日本は現在、軍事力という言葉を使ってはいけないことになっています。専守防衛という概念があるので、防衛力としか言えない。
本当は軍事化しなければ駄目です。海上自衛隊は今、「いずも」と「かが」の護衛艦2隻を事実上の空母に改修する計画を進めていて、2024年度以降に配備される予定になっています。軍事化のひとつの足掛かりができましたが、本当の空母を空母として造らなければ駄目です。
矢作 直樹
東京大学名誉教授
宮澤 信一
国際実務家
※本連載は、矢作直樹氏と宮澤信一氏の共著『世界を統べる者 「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。