学生の“大量留年問題”を指摘する声が相次いでいる私大の歯学部。3月8日配信の「週刊文春 電子版」では、神奈川県横浜市にある私立鶴見大学歯学部で起こった事件を詳報。多くの学生や保護者から「意図的に卒業させないことで歯科医師国家試験の合格率を上げ、国からの補助金を得た上で学費収入も増やす“留年商法”ではないか」という指摘が上がっていること、また病院長を務める教授が授業中に学生に「殺すぞ」と発言するなどアカハラが横行していることなどを音声と共に報じた。
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そんな中、岐阜県瑞穂市にある私立朝日大学歯学部は、別の形で合格率をかさ上げしているとの情報提供が、「週刊文春」に寄せられた。
朝日大学
1971年に「岐阜歯科大学」として設立された朝日大学。当初は歯学部のみでスタートし、1985年に名称を「朝日大学」に改めた後、経営学部や法学部など文系学部も開設された。歯学部(6学年)の学生数は2022年5月1日現在で817人。年間の学費は1年生が353万円、2年生以降は312万円となっている。
今年実施された歯科医師国家試験における朝日大学の「新卒合格率」は86%。これは他大学と比べても高い数字である。しかし、注目すべきは「出願者数123人、受験者数86人」という数字だ。
「卒業見込みの6年生は出願するので、123人の“卒業見込み者”がいたことになります。ところが、その123人のうち86人しか国家試験を受けさせてもらえなかった。つまり、残りの37人は、大学が国家試験合格率を高く見せるために卒業を先延ばしにさせられた可能性がある。受験できなかった6年生の数で見ると、朝日大学は全国で4番目に多いのです」(同前)
ちなみに鶴見大学は、小誌既報の通り今年度の6年生88人のうち、卒業が認められた44人だけが受験。36人が合格したため、新卒合格率は81.8%となった。朝日大学も86人が受験して74人が合格し、新卒合格率は86%である。
なぜ各大学は「新卒合格率」にこだわるのか。それは、新卒合格率が70%を上回った大学は『大学院高度化推進特別経費』という国の補助金の交付対象となるからだ。学生減少に苦しむ大学にとって、この経済的メリットは大きい。歯科医になるか、あきらめて無職になるか「鶴見大学は『国家試験を受けられない6年生=全員留年』でしたが、朝日大学はちょっと異なり、彼らはいわゆる“卒業延期”という扱いになる。もちろん普通に留年する6年生はいますが、可哀そうなのは『卒業見込みのはずなのに、国試には受かりそうにない学生たち』。彼らは強制的に留年させられることはありませんが、春以降に遅れて卒業証書を渡され、翌年に『既卒者』として国試を受ける形にさせられます。見せかけの新卒合格率を高めたい大学側によって、彼らは巧妙にその年の『卒業者』から外されてしまうわけです。学生たちの間では“裏卒業”などとも呼ばれています。“裏卒業者”の中には歯科医になることを諦めたり、別の大学に入り直す人も稀にいますが、高い学費を6年間支払っているので、多くの学生は既卒になって何度でも国試を受け直す。歯科医になるか、あきらめて無職になるか歯学部に入ったら、事実上、この2つの選択肢しかないのです」(同前) 朝日大学の場合、新卒合格率は86%だが、既卒合格率になると25%まで下がる(2022年度)。これは全国で2番目に低い数値だ。 歯科医師を巡っては「医師のレベルを高く保つために国試の合格ラインを厳しくすべき」という意見に一理あるのは確か。ただ、大学側が新卒合格率を高く見せるため、国試合格を半ば卒業の条件とすることで、学生たちは“歯科医師以外の進路”–例えば新卒で一般企業に入社することなど–が閉ざされてしまうのだ。 朝日大学に質問状を送ったところ、メールで回答があった。「“国試合格率ありき”ではないか」と指摘されている卒業判定の制度については、〈本学では「歯学教育の質的改善」の一環として、科目ごとに教育目標の明示、講義実施、試験後の学生の理解度評価を行うことで、とくにこの10年の間、教育の質的改善に努めて参りました。その結果として、文部科学省による歯学教育の評価において、国家試験合格率(新卒)、修業年限(6年)での国家試験合格率(編入学者を除く)、在籍学生総数に占める留年・休学者の割合といった項目でも改善を認め、私大平均値を上回っております。 そのなかで卒業試験の精度についても検討を重ねて参りました。(中略)つまり本学の卒業試験に合格すれば、全員が国家試験にも合格するように教育の精度管理を行っていく方針を示しました。もしも誤解をされた方がいらっしゃるようであれば、再度、丁寧に説明責任を果たして参ります〉 と回答した。 しかし、朝日大を巡る問題はそれだけではなかった。わずか3カ月で2人の学生が自ら命を絶つ悲劇が起こっていたのだ。 現在配信中の「週刊文春 電子版」では、〈歯学部留年問題〉を詳しくレポート。また、自殺した2人の学生への大学側の対応、歯学部長や学年指導教員の教授との一問一答など、朝日大学で何が起きているのかを詳報する。(「週刊文春」編集部/週刊文春)
なぜ各大学は「新卒合格率」にこだわるのか。それは、新卒合格率が70%を上回った大学は『大学院高度化推進特別経費』という国の補助金の交付対象となるからだ。学生減少に苦しむ大学にとって、この経済的メリットは大きい。
「鶴見大学は『国家試験を受けられない6年生=全員留年』でしたが、朝日大学はちょっと異なり、彼らはいわゆる“卒業延期”という扱いになる。もちろん普通に留年する6年生はいますが、可哀そうなのは『卒業見込みのはずなのに、国試には受かりそうにない学生たち』。彼らは強制的に留年させられることはありませんが、春以降に遅れて卒業証書を渡され、翌年に『既卒者』として国試を受ける形にさせられます。見せかけの新卒合格率を高めたい大学側によって、彼らは巧妙にその年の『卒業者』から外されてしまうわけです。学生たちの間では“裏卒業”などとも呼ばれています。“裏卒業者”の中には歯科医になることを諦めたり、別の大学に入り直す人も稀にいますが、高い学費を6年間支払っているので、多くの学生は既卒になって何度でも国試を受け直す。歯科医になるか、あきらめて無職になるか歯学部に入ったら、事実上、この2つの選択肢しかないのです」(同前)
朝日大学の場合、新卒合格率は86%だが、既卒合格率になると25%まで下がる(2022年度)。これは全国で2番目に低い数値だ。
歯科医師を巡っては「医師のレベルを高く保つために国試の合格ラインを厳しくすべき」という意見に一理あるのは確か。ただ、大学側が新卒合格率を高く見せるため、国試合格を半ば卒業の条件とすることで、学生たちは“歯科医師以外の進路”–例えば新卒で一般企業に入社することなど–が閉ざされてしまうのだ。
朝日大学に質問状を送ったところ、メールで回答があった。「“国試合格率ありき”ではないか」と指摘されている卒業判定の制度については、
〈本学では「歯学教育の質的改善」の一環として、科目ごとに教育目標の明示、講義実施、試験後の学生の理解度評価を行うことで、とくにこの10年の間、教育の質的改善に努めて参りました。その結果として、文部科学省による歯学教育の評価において、国家試験合格率(新卒)、修業年限(6年)での国家試験合格率(編入学者を除く)、在籍学生総数に占める留年・休学者の割合といった項目でも改善を認め、私大平均値を上回っております。
そのなかで卒業試験の精度についても検討を重ねて参りました。(中略)つまり本学の卒業試験に合格すれば、全員が国家試験にも合格するように教育の精度管理を行っていく方針を示しました。もしも誤解をされた方がいらっしゃるようであれば、再度、丁寧に説明責任を果たして参ります〉
と回答した。
しかし、朝日大を巡る問題はそれだけではなかった。わずか3カ月で2人の学生が自ら命を絶つ悲劇が起こっていたのだ。 現在配信中の「週刊文春 電子版」では、〈歯学部留年問題〉を詳しくレポート。また、自殺した2人の学生への大学側の対応、歯学部長や学年指導教員の教授との一問一答など、朝日大学で何が起きているのかを詳報する。(「週刊文春」編集部/週刊文春)
しかし、朝日大を巡る問題はそれだけではなかった。わずか3カ月で2人の学生が自ら命を絶つ悲劇が起こっていたのだ。
現在配信中の「週刊文春 電子版」では、〈歯学部留年問題〉を詳しくレポート。また、自殺した2人の学生への大学側の対応、歯学部長や学年指導教員の教授との一問一答など、朝日大学で何が起きているのかを詳報する。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)