健康診断の結果で、「A」(異常なし)判定と書かれていたのに実は「C」(要経過観察)だった――。
胸部X線の検査結果を誤って記載され、肺がんの発見が遅れたとして、大阪府内の会社員女性(57)が、医療法人に損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁で争われている。法人側は通知の過程に不備があったことは認めたが、「法的な責任はない」と主張している。(田中俊之)
■1年で悪化に疑問
女性は2016年9月、同府高槻市内の医療機関で勤務先の定期健診を受け、胸部X線でA判定の通知を受けた。しかし、翌17年の健診では、精密検査が必要な「D2」とされ、「右肺に浸潤影の疑い」とあった。
女性はすぐに大学病院を受診。17年12月にステージ3の肺がんと診断された。その後、手術をしたが、19年に再発。ステージ4に進行し、治療を続けている。
「1年でそこまで悪化するのか」。健診を受けた医療機関に説明を求めたところ、16年の健診で肺に影が見つかっていたことが明らかになった。
■修正反映されず
運営する医療法人側の女性への説明や訴訟資料によると、健診当日、2人の医師が女性のレントゲン画像を見て「異常なし」と判断し、健診結果を管理するシステムにA判定と入力した。しかし、慎重を期すため、1人が後日に再度レントゲン画像を確認して肺に影を見つけ、治療が必要な状態の手前にあたるC判定に修正した。しかし、システムには自由に判定を変更できないロック機能があったため、修正は反映されず、女性に届いた通知はA判定のままだった。
法人は医師らにロック解除の手順を説明しておらず、この医師は修正されたと思い込んでいたという。
■責任は
女性は20年11月、「発見が1年遅れてがんが進行し、治癒が困難になった」とし、約4180万円の損害賠償を求めて提訴した。
法人側は訴訟で、再確認の結果がシステムに反映されなかった経緯を認め、「事後的に見れば、C判定が診断として正しかったと考えられる」と言及した。
一方で、当初のA判定は明らかな肺がんの見落としではないと主張。さらに、16年の時点で女性がC判定と知っていたとしても「精密検査を受けて治療を始めていたかもわからない」とし、「法的な過失はない」として請求棄却を求めた。
判定を修正する手順を医師らに周知していなかった点は「後日に医師が判定を変更することは想定していなかった」とした。
女性は夫と暮らし、大手金属メーカーの系列会社で勤務する。合併症の痛みに苦しめられ、体力の低下が著しいといい、「もっと早くがんが見つかっていればと悔やんでいる。責任を認めてほしい」と話す。
医療法人は取材に対し、「訴訟についてはコメントできない」としている。
◆健康診断=病気の早期発見や予防が目的で、職場については労働安全衛生法で、事業者に年1回の実施を義務付けている。厳しい労働環境や深夜業務といった「特定業務」の場合は半年に1回。健診の実施を怠ると罰則が科せられる。このほか、学校は学校保健安全法で年1回と定めているほか、市町村国民健康保険などの制度がある。