古都・奈良に新たな歴史が刻まれた。9日、投開票された奈良県知事選。自民党県連が現新2氏への推薦を巡って分裂し、支持層も割れる中、初めて公認候補を立てた日本維新の会が「漁夫の利」を得た。県政刷新を掲げて当選を確実にした新人で弁護士の山下真氏(54)は、公選の奈良県知事では初の民間出身となる。山下氏を押し上げたのは、したたかで抜け目のない維新の政治戦略だった。
奈良知事選 維新新人の山下氏が当選確実 他の有力候補が1月初旬までに出馬表明を終える中、維新の出足は遅れた。2021年衆院選で公職選挙法違反(事前運動など)の罪に問われた同党の前川清成衆院議員(比例近畿)が知事選出馬に意欲を見せ、判決を待つ必要があったからだ。奈良地裁が1月18日、前川氏に有罪判決(控訴中)を言い渡すと、維新は絞り込んでいた数人の候補から山下氏に白羽の矢を立てた。アナウンサーや芸能人の名も挙がったが、06年から15年まで同県生駒市長を務めた山下氏の行政手腕を評価した。

山下氏も政界復帰のタイミングを模索していた。生駒市長を辞職して臨んだ15年知事選では、現職の荒井正吾氏(78)に敗北。17年には奈良市長選にも挑んだが、現職に競り負けた。いずれも無所属での戦い。政党や団体の支援を受けない「市民派」を掲げていたが、組織力を頼れぬことに「限界も感じていた」。 一方、維新内部には山下氏の擁立に反対する声もあった。原因は維新の看板政策だった「大阪都構想」。15年の住民投票で否決された後、大阪府知事・大阪市長のダブル選で再挑戦を掲げた維新の対応を、山下氏が批判した過去があったからだ。関係者によると、山下氏は1月20日に東京都内で馬場伸幸代表と面談した。馬場代表は山下氏で知事選を戦うことを了承し、全面支援の意向を示した。 ところが、山下氏が立候補を表明した翌日、維新創設者の橋下徹氏がツイッターで「維新スピリッツのかけらもない」と酷評。「とりあえず勝てばいいという腹なのか」と執行部の対応を批判し、「勢力を大阪以外に広げ、政権を取るにはこれくらいのことをやらなければいけないのかもしれない」と続けた。山下氏はその日のうちにツイッターを更新。「都構想に対する誤解があったと反省しています」と公認候補として維新の政策に精通することを誓った。馬場代表にも謝罪し、吉村洋文共同代表はこれ以上問題視しない考えを示した。 「私と維新は薩長同盟」。こうした経緯について、山下氏は集会で、敵対していた薩摩藩と長州藩が同盟を結んで倒幕を目指した例になぞらえて語り、4期16年にわたる荒井県政の転換を訴えた。改革を掲げる維新が目を付けたのが、奈良県の歴代知事の経歴だ。旧運輸省出身の荒井氏をはじめ、戦後の公選知事5人全員が官僚か県庁出身。さらに、高市早苗・経済安全保障担当相が擁立を主導した対抗馬、平木省氏(48)も出馬表明直前まで総務省の課長だった。 大阪で弁護士事務所を共同経営する山下氏は「官僚にはお金を稼ぐ発想や財源を生み出す考えがない。奈良を発展させるには民間目線の改革が必要だ」と強調。行財政改革や教育無償化など、維新が大阪で実行した政策を奈良でも実現させるとアピールした。税金の使い道にも厳しい目を向ける。奈良市が新設した火葬場の用地買収を巡る住民訴訟では、住民側代理人として勝訴に導いた。選挙戦でも大型公共事業に多額の税金を投じる荒井県政を批判し、有権者の支持を取り付けた。 維新は知事選とともに投開票された県議選(定数43)にも、前回選の4倍となる16人を擁立した。しかし、全員が当選しても過半数には及ばず、山下氏が公約を実現するには他会派の協力が不可欠だ。まずは議会運営で、その手腕が試される。【稲生陽、久保聡】
他の有力候補が1月初旬までに出馬表明を終える中、維新の出足は遅れた。2021年衆院選で公職選挙法違反(事前運動など)の罪に問われた同党の前川清成衆院議員(比例近畿)が知事選出馬に意欲を見せ、判決を待つ必要があったからだ。奈良地裁が1月18日、前川氏に有罪判決(控訴中)を言い渡すと、維新は絞り込んでいた数人の候補から山下氏に白羽の矢を立てた。アナウンサーや芸能人の名も挙がったが、06年から15年まで同県生駒市長を務めた山下氏の行政手腕を評価した。
山下氏も政界復帰のタイミングを模索していた。生駒市長を辞職して臨んだ15年知事選では、現職の荒井正吾氏(78)に敗北。17年には奈良市長選にも挑んだが、現職に競り負けた。いずれも無所属での戦い。政党や団体の支援を受けない「市民派」を掲げていたが、組織力を頼れぬことに「限界も感じていた」。
一方、維新内部には山下氏の擁立に反対する声もあった。原因は維新の看板政策だった「大阪都構想」。15年の住民投票で否決された後、大阪府知事・大阪市長のダブル選で再挑戦を掲げた維新の対応を、山下氏が批判した過去があったからだ。関係者によると、山下氏は1月20日に東京都内で馬場伸幸代表と面談した。馬場代表は山下氏で知事選を戦うことを了承し、全面支援の意向を示した。
ところが、山下氏が立候補を表明した翌日、維新創設者の橋下徹氏がツイッターで「維新スピリッツのかけらもない」と酷評。「とりあえず勝てばいいという腹なのか」と執行部の対応を批判し、「勢力を大阪以外に広げ、政権を取るにはこれくらいのことをやらなければいけないのかもしれない」と続けた。山下氏はその日のうちにツイッターを更新。「都構想に対する誤解があったと反省しています」と公認候補として維新の政策に精通することを誓った。馬場代表にも謝罪し、吉村洋文共同代表はこれ以上問題視しない考えを示した。
「私と維新は薩長同盟」。こうした経緯について、山下氏は集会で、敵対していた薩摩藩と長州藩が同盟を結んで倒幕を目指した例になぞらえて語り、4期16年にわたる荒井県政の転換を訴えた。改革を掲げる維新が目を付けたのが、奈良県の歴代知事の経歴だ。旧運輸省出身の荒井氏をはじめ、戦後の公選知事5人全員が官僚か県庁出身。さらに、高市早苗・経済安全保障担当相が擁立を主導した対抗馬、平木省氏(48)も出馬表明直前まで総務省の課長だった。
大阪で弁護士事務所を共同経営する山下氏は「官僚にはお金を稼ぐ発想や財源を生み出す考えがない。奈良を発展させるには民間目線の改革が必要だ」と強調。行財政改革や教育無償化など、維新が大阪で実行した政策を奈良でも実現させるとアピールした。税金の使い道にも厳しい目を向ける。奈良市が新設した火葬場の用地買収を巡る住民訴訟では、住民側代理人として勝訴に導いた。選挙戦でも大型公共事業に多額の税金を投じる荒井県政を批判し、有権者の支持を取り付けた。
維新は知事選とともに投開票された県議選(定数43)にも、前回選の4倍となる16人を擁立した。しかし、全員が当選しても過半数には及ばず、山下氏が公約を実現するには他会派の協力が不可欠だ。まずは議会運営で、その手腕が試される。【稲生陽、久保聡】