コロナ補助金の一部で’20年には1兆円の予算が組まれた事業再構築補助金。新たな試みを支援するのが主たる目的だったはずが、どうにもおかしな使われ方が目立っている。いったい何が起きているのか?◆約76兆円のコロナ予算の行方から見える無駄遣いの実態
’19~’21年度にかけて国が執行したコロナ予算は約76兆円に上る。単純計算で、国民一人当たり約60万円になる。
会計検査院の’21年度決算検査報告書によれば、’22年度への繰越額が約13兆円、不用額は約4兆円となった。これまでコロナ予算について取材を続けてきた民放キー局の山形健記者(仮名・30代)が語る。
「不用額が一番大きかったのはGoToトラベル事業でした。予算総額は約2兆円の4割に。執行率の低さが目立ったのは、約18%だった事業復活支援金です。売り上げが減った中小企業向けの支援金で、委託先の民間が審査業務の人員を6割強しか確保できなかったからです。案の定、審査が遅れました」
◆約55億円を過大給付していたコロナ病床の補助金
同報告書によれば、省庁別だと厚労省の約88億円が最高額だという。
「コロナ病棟を対象に病床の確保に追われた厚労省の補助金事業では、東京や大阪、福岡などの9都道府県にある32病院が、約55億円を過大受給していました。その4割が神奈川県にある関東労災病院だったのです。
具体的な内容は、誤った申請を見逃し、本来と異なる『病床区分』で支給したり、空きとはいえないのに受給していたケースでした」
事業の有効性を検証して、国民に報告するフェーズに来ているのではないだろうか。
◆元官僚の有識者2人が語る「あるべきコロナ予算」の姿
不要に使われたり、逆に使われなかったりした国の補助金や支援金。何か対応策はないのか。総務省課長補佐の経験も持つ、行政学の田村秀教授はこう指摘する。
「トレードオフという言葉があるように緊急時ということで、ある程度問題が出てくるのは仕方ありません。ただ、問題としては補助金や支援金のメニューが多すぎたことです。細かすぎて、管理が追いつかなかった面があります。
使い道を自由としたうえでもっと大きな枠組みを組んで、一括で補助金や支援金を出すべきでした。危機的状況なので、役所は事務的なチェックのみの柔軟な対応でよかったのでは。余った労力で、支援後の取り締まりを強化し、不正者には罪を厳罰化するなどすべきだったのです」
◆官公庁の人手が足りない現状
行政手続きの電子化を急ぐべきとの声もある。政策アナリストの石川和男氏。経産省の官僚として、大臣官房などを歴任してきた。
「官公庁の人が足りないんですよ。今回問題になった事業再構築補助金の管轄である中小企業庁の職員は約200人。だから、作業人数の多い民間に頼むしか選択肢はなくなるのです。民間がマニュアルだけで事業の有効性は判断できませんよ。
配った金額の行方を追うため、マイナンバーなどの電子化はもちろん、省庁や自治体間のやり取りも早急に電子化すべき。行政の縦割り問題も電子化である程度、改善できるのではないでしょうか。’70~’80年代の日本は道路のインフラ化に尽力しました。現在は電子のインフラ化に早急に全力で投資すべきです」
日本は今分岐点に立っているのではないだろうか。
【長野県立大学教授・田村 秀氏】’62年生まれ。東京大学卒業後、自治省(現総務省)に入省。総務省課長補佐のほか、三重県財政課長、新潟大教授を経て現職
【政策アナリスト・石川和男氏】’65年生まれ。東京大学卒業後、通産省(現経産省)に入省。資源エネルギー庁、中小企業庁、大臣官房等を歴任して、現職
【民放キー局記者・山形 健氏(仮名)】民放キー局の社会部を経て、’20年に政治部へ異動。コロナ禍におけるカネの動きを3年間追ってきた。粘り強い取材が得意
取材・文/週刊SPA!編集部