「今の看護師数では、患者さんの安全は到底守れません。病院としても人を増やしたいのですが、本部の許可が下りない」
【写真】この記事の写真を見る(4枚)「声を上げても、本部に潰されてきた。看護の現場が崩壊した一番の元凶は、機構本部の体質です」 こう語るのは、独立行政法人国立病院機構(NHO)の病院幹部たちである。◆ ◆ ◆職員が大量退職する“ブラック労働”の根本原因「週刊文春」が4週にわたって報じてきたNHO傘下の病院看護師の“ブラック労働”問題。全国140の旧国立病院が所属し、「地域医療の基盤」とされるNHOの看護師らが、サービス残業や過重労働などに耐えかね、大量退職しているのだ。

「年度末で計100人の看護師が辞め、来年度の募集も定員割れ。もう持ちません」(東京医療センター看護師)「ナースコールが鳴っても皆忙しくて駆けつけられず、放置された患者さんがしょっちゅう転倒している」(大阪医療センター元看護師) これまで情報提供窓口「文春リークス」に寄せられた告発は、3月6日時点で171人分。その中には看護師だけでなく、病院幹部や事務職、NHO本部の関係者らの声も含まれる。 現場を俯瞰できる彼らが、“ブラック労働”の根本原因として訴えるのが、NHO本部による徹底したコスト面での「締め付け」である。「本部はとにかくコストを絞る。各病院の看護師の定員は本部が指示してくるのですが、診療報酬とのバランスで本当に必要最低限の配置しか認めてくれない。増員を要請すると、まるで嫌がらせのような量の資料を作らされ、結局いつも不許可。『業務改善で頑張って』の一点張りです」(NHO病院幹部)「50万円以上の医療機器は、本部の許可がないと買えない。しかも、許可されるのは修理不能の証明書が出た機械の買い替えのみ。NHOは旧国立病院時代の古い建物も多いのですが、築60年級の、耐用年数をとっくに超えた設備を使い続けろと平気で言ってきます。衛生を徹底すべき手術室でも漏水する有様ですが、『改修したら使えるでしょ』と」(NHO病院事務職)「あちこちに水漏れ用のバケツを置いて、パソコンにはビニールシートをかぶせて帰っていました。仮眠中に汚水が降ってきたことも。空調も効かず、夏は患者が熱中症になりそうです」(大阪医療センター元看護師)「残業は月に100~180時間」 予算の縮減は、医療を支える事務方にも及ぶ。「病院事務をしていますが、残業は月に100~180時間。三六協定で月45時間しか残業を認められませんから、残り130時間は勤務を記録させてもらえず無給です。皆、昼休みは食事もとらず仮眠にあてている。明らかに人が足りませんが、増員は認められないままです」(別の事務職) 人員の抑制が人命を奪ったこともある。宮崎県の都城医療センターでは2016年、当時20代の事務職の男性が3カ月で計約440時間もの残業の末、自宅で自殺。労災に認定され、NHO本部と病院の当時の上司が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。国立とは名ばかりで「実際にお金がない」 NHO本部はなぜ、これほどまでコスト削減にひた走るのか。本部関係者が背景にある事情を明かす。「一言でいうと、実際にお金がない。『国立』とは名ばかりで、国が行政法人の運営のために交付する『運営費交付金』を、診療事業においては12年度から1円も貰っていません。一方、民間病院では『儲からない』と敬遠される難病患者や、重症心身障害の患者の受け入れは、国の要望に応えて続けている。不採算で当然の部門を抱えつつ、自らの収入のみで経営を成り立たせようとしているんです」 国の支援がない一方、機構が生んだ利益を国が「吸い上げる」仕組みはある。「5年ごとに中期目標を定め、5年の終了時に残っている利益は国庫に返す決まりです。なので、病院を建て替えるための長期的な内部留保を増やすのも厳しい。コロナの補助金でここ数年はなんとか持っていますが、五類になればすぐに赤字でしょう」(前出・病院幹部) さらにこんな追い打ちも。「岸田政権の打ち出した防衛費大幅増額の財源として、NHOの積立金422億円が国に徴収されようとしています。中期目標の5年間でコツコツと積み立て、来年には建て替えや賃金引上げの資金として使われるはずのお金です」(医労連・森田進書記長) 国からは負担増と利益返納を強いられ、そのしわ寄せを本部が病院の現場に押し付けているというわけだ。 前出の病院幹部が憤る。「利益を出せない医療も提供していますから、国からの運営費補助はあって当然。それなのに、本部は交付金の復活も交渉せず、厚労省の無茶な方針に全く逆らおうともしません。『議論はしました』と言って、結局いつも言いなりなのです」 職員や幹部らによると、この“絶対服従”には、構造的な原因があるという。厚労省に“絶対服従”の構造的原因「NHOの職員が非公務員化されたのは15年度から。公務員時代の名残から、厚労省とNHO本部の間では人事交流や“天下り”が根強く残っています。その上、本部の企画経営部長や財務部長といったヒト、モノ、カネの主要部署のトップは、医療現場に出たこともない厚労省の役人ばかりで占められている」(同前) 本部職員が続ける。「彼らは2、3年でまた厚労省に戻りますから、その後の自分の立場さえ守れればいい。病院がどうなろうと、看護師がどうなろうと、とにかく人件費等の固定費を削減し、目先の経営成績を少しでも良く見せたいだけ。病院の現状を国に伝え、現場を守るはずの本部が、厚労省と一緒に現場を壊してきたのです」 現在、NHO本部には5人の常勤理事がおり、うち副理事長を含む2人が厚労省のキャリア官僚だ。昨年末まではもう1人、厚生省のノンキャリアが天下りで役員に就いていた。 その中の“ドン”が副理事長職で、19年3月から古川夏樹氏が就いている。「理事長は歴代、学者や研究者ですので、実務のトップは実質、副理事長です。副理事長の席は厚労省のキャリアが代々座るという『暗黙のルール』があります」(別の事務職)「本部職員も古川氏のハンコをもらうため、日々彼の目の前でサービス残業しています。ただ、『長時間労働は現場のマネジメント不足』『金も資源も削れるだけ削る』という考えなので、現状よりコストをかける案はなかなか通りません」(別の本部職員)「文春の報道も当時の本部は『まあ、いつものこと』という認識。『一部で大きな声を上げる人がいるから、全体として“ブラックだ”みたいな印象になってしまう』と言っている役員もいます」(前出・本部関係者)取材に応じた古川副理事長の回答は 3月5日夜、古川副理事長の自宅を訪ねると、対面での取材に応じた。「とにかく万全の態勢で医療をしたいという現場の気持ちはわかります。でも医療が高度・多様化し、対応しきれないところは、人も増やしながら、より効率化できればと。私が来たときは収支は赤字でしたが、いまは工夫して均衡まで持ってきている。NHOの立場を厚労省に説明し、フェアにやっているつもりです」――NHOとして国に運営費を要請すべきでは?「いただければ、それはありがたいですけど……国は国のお考えがあります。(防衛費も)うちは医療が大事と説明はしましたけど、我々がどっちが優先だという立場じゃないので」看護師たちの悲鳴は本部に届くか そしてこうも付け加えた。「取材にお答えするのも、結構おっかないところはあるんですけど。報道にあった事案は全て確認して、逃げずにちゃんとやっていければと思ってます」 国が真剣に取り組まねば、看護師たちは救われない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号)
「声を上げても、本部に潰されてきた。看護の現場が崩壊した一番の元凶は、機構本部の体質です」
こう語るのは、独立行政法人国立病院機構(NHO)の病院幹部たちである。
◆ ◆ ◆
「週刊文春」が4週にわたって報じてきたNHO傘下の病院看護師の“ブラック労働”問題。全国140の旧国立病院が所属し、「地域医療の基盤」とされるNHOの看護師らが、サービス残業や過重労働などに耐えかね、大量退職しているのだ。
「年度末で計100人の看護師が辞め、来年度の募集も定員割れ。もう持ちません」(東京医療センター看護師)
「ナースコールが鳴っても皆忙しくて駆けつけられず、放置された患者さんがしょっちゅう転倒している」(大阪医療センター元看護師)
これまで情報提供窓口「文春リークス」に寄せられた告発は、3月6日時点で171人分。その中には看護師だけでなく、病院幹部や事務職、NHO本部の関係者らの声も含まれる。
現場を俯瞰できる彼らが、“ブラック労働”の根本原因として訴えるのが、NHO本部による徹底したコスト面での「締め付け」である。「本部はとにかくコストを絞る。各病院の看護師の定員は本部が指示してくるのですが、診療報酬とのバランスで本当に必要最低限の配置しか認めてくれない。増員を要請すると、まるで嫌がらせのような量の資料を作らされ、結局いつも不許可。『業務改善で頑張って』の一点張りです」(NHO病院幹部)「50万円以上の医療機器は、本部の許可がないと買えない。しかも、許可されるのは修理不能の証明書が出た機械の買い替えのみ。NHOは旧国立病院時代の古い建物も多いのですが、築60年級の、耐用年数をとっくに超えた設備を使い続けろと平気で言ってきます。衛生を徹底すべき手術室でも漏水する有様ですが、『改修したら使えるでしょ』と」(NHO病院事務職)「あちこちに水漏れ用のバケツを置いて、パソコンにはビニールシートをかぶせて帰っていました。仮眠中に汚水が降ってきたことも。空調も効かず、夏は患者が熱中症になりそうです」(大阪医療センター元看護師)「残業は月に100~180時間」 予算の縮減は、医療を支える事務方にも及ぶ。「病院事務をしていますが、残業は月に100~180時間。三六協定で月45時間しか残業を認められませんから、残り130時間は勤務を記録させてもらえず無給です。皆、昼休みは食事もとらず仮眠にあてている。明らかに人が足りませんが、増員は認められないままです」(別の事務職) 人員の抑制が人命を奪ったこともある。宮崎県の都城医療センターでは2016年、当時20代の事務職の男性が3カ月で計約440時間もの残業の末、自宅で自殺。労災に認定され、NHO本部と病院の当時の上司が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。国立とは名ばかりで「実際にお金がない」 NHO本部はなぜ、これほどまでコスト削減にひた走るのか。本部関係者が背景にある事情を明かす。「一言でいうと、実際にお金がない。『国立』とは名ばかりで、国が行政法人の運営のために交付する『運営費交付金』を、診療事業においては12年度から1円も貰っていません。一方、民間病院では『儲からない』と敬遠される難病患者や、重症心身障害の患者の受け入れは、国の要望に応えて続けている。不採算で当然の部門を抱えつつ、自らの収入のみで経営を成り立たせようとしているんです」 国の支援がない一方、機構が生んだ利益を国が「吸い上げる」仕組みはある。「5年ごとに中期目標を定め、5年の終了時に残っている利益は国庫に返す決まりです。なので、病院を建て替えるための長期的な内部留保を増やすのも厳しい。コロナの補助金でここ数年はなんとか持っていますが、五類になればすぐに赤字でしょう」(前出・病院幹部) さらにこんな追い打ちも。「岸田政権の打ち出した防衛費大幅増額の財源として、NHOの積立金422億円が国に徴収されようとしています。中期目標の5年間でコツコツと積み立て、来年には建て替えや賃金引上げの資金として使われるはずのお金です」(医労連・森田進書記長) 国からは負担増と利益返納を強いられ、そのしわ寄せを本部が病院の現場に押し付けているというわけだ。 前出の病院幹部が憤る。「利益を出せない医療も提供していますから、国からの運営費補助はあって当然。それなのに、本部は交付金の復活も交渉せず、厚労省の無茶な方針に全く逆らおうともしません。『議論はしました』と言って、結局いつも言いなりなのです」 職員や幹部らによると、この“絶対服従”には、構造的な原因があるという。厚労省に“絶対服従”の構造的原因「NHOの職員が非公務員化されたのは15年度から。公務員時代の名残から、厚労省とNHO本部の間では人事交流や“天下り”が根強く残っています。その上、本部の企画経営部長や財務部長といったヒト、モノ、カネの主要部署のトップは、医療現場に出たこともない厚労省の役人ばかりで占められている」(同前) 本部職員が続ける。「彼らは2、3年でまた厚労省に戻りますから、その後の自分の立場さえ守れればいい。病院がどうなろうと、看護師がどうなろうと、とにかく人件費等の固定費を削減し、目先の経営成績を少しでも良く見せたいだけ。病院の現状を国に伝え、現場を守るはずの本部が、厚労省と一緒に現場を壊してきたのです」 現在、NHO本部には5人の常勤理事がおり、うち副理事長を含む2人が厚労省のキャリア官僚だ。昨年末まではもう1人、厚生省のノンキャリアが天下りで役員に就いていた。 その中の“ドン”が副理事長職で、19年3月から古川夏樹氏が就いている。「理事長は歴代、学者や研究者ですので、実務のトップは実質、副理事長です。副理事長の席は厚労省のキャリアが代々座るという『暗黙のルール』があります」(別の事務職)「本部職員も古川氏のハンコをもらうため、日々彼の目の前でサービス残業しています。ただ、『長時間労働は現場のマネジメント不足』『金も資源も削れるだけ削る』という考えなので、現状よりコストをかける案はなかなか通りません」(別の本部職員)「文春の報道も当時の本部は『まあ、いつものこと』という認識。『一部で大きな声を上げる人がいるから、全体として“ブラックだ”みたいな印象になってしまう』と言っている役員もいます」(前出・本部関係者)取材に応じた古川副理事長の回答は 3月5日夜、古川副理事長の自宅を訪ねると、対面での取材に応じた。「とにかく万全の態勢で医療をしたいという現場の気持ちはわかります。でも医療が高度・多様化し、対応しきれないところは、人も増やしながら、より効率化できればと。私が来たときは収支は赤字でしたが、いまは工夫して均衡まで持ってきている。NHOの立場を厚労省に説明し、フェアにやっているつもりです」――NHOとして国に運営費を要請すべきでは?「いただければ、それはありがたいですけど……国は国のお考えがあります。(防衛費も)うちは医療が大事と説明はしましたけど、我々がどっちが優先だという立場じゃないので」看護師たちの悲鳴は本部に届くか そしてこうも付け加えた。「取材にお答えするのも、結構おっかないところはあるんですけど。報道にあった事案は全て確認して、逃げずにちゃんとやっていければと思ってます」 国が真剣に取り組まねば、看護師たちは救われない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号)
現場を俯瞰できる彼らが、“ブラック労働”の根本原因として訴えるのが、NHO本部による徹底したコスト面での「締め付け」である。
「本部はとにかくコストを絞る。各病院の看護師の定員は本部が指示してくるのですが、診療報酬とのバランスで本当に必要最低限の配置しか認めてくれない。増員を要請すると、まるで嫌がらせのような量の資料を作らされ、結局いつも不許可。『業務改善で頑張って』の一点張りです」(NHO病院幹部)
「50万円以上の医療機器は、本部の許可がないと買えない。しかも、許可されるのは修理不能の証明書が出た機械の買い替えのみ。NHOは旧国立病院時代の古い建物も多いのですが、築60年級の、耐用年数をとっくに超えた設備を使い続けろと平気で言ってきます。衛生を徹底すべき手術室でも漏水する有様ですが、『改修したら使えるでしょ』と」(NHO病院事務職)
「あちこちに水漏れ用のバケツを置いて、パソコンにはビニールシートをかぶせて帰っていました。仮眠中に汚水が降ってきたことも。空調も効かず、夏は患者が熱中症になりそうです」(大阪医療センター元看護師)
予算の縮減は、医療を支える事務方にも及ぶ。
「病院事務をしていますが、残業は月に100~180時間。三六協定で月45時間しか残業を認められませんから、残り130時間は勤務を記録させてもらえず無給です。皆、昼休みは食事もとらず仮眠にあてている。明らかに人が足りませんが、増員は認められないままです」(別の事務職)
人員の抑制が人命を奪ったこともある。宮崎県の都城医療センターでは2016年、当時20代の事務職の男性が3カ月で計約440時間もの残業の末、自宅で自殺。労災に認定され、NHO本部と病院の当時の上司が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。国立とは名ばかりで「実際にお金がない」 NHO本部はなぜ、これほどまでコスト削減にひた走るのか。本部関係者が背景にある事情を明かす。「一言でいうと、実際にお金がない。『国立』とは名ばかりで、国が行政法人の運営のために交付する『運営費交付金』を、診療事業においては12年度から1円も貰っていません。一方、民間病院では『儲からない』と敬遠される難病患者や、重症心身障害の患者の受け入れは、国の要望に応えて続けている。不採算で当然の部門を抱えつつ、自らの収入のみで経営を成り立たせようとしているんです」 国の支援がない一方、機構が生んだ利益を国が「吸い上げる」仕組みはある。「5年ごとに中期目標を定め、5年の終了時に残っている利益は国庫に返す決まりです。なので、病院を建て替えるための長期的な内部留保を増やすのも厳しい。コロナの補助金でここ数年はなんとか持っていますが、五類になればすぐに赤字でしょう」(前出・病院幹部) さらにこんな追い打ちも。「岸田政権の打ち出した防衛費大幅増額の財源として、NHOの積立金422億円が国に徴収されようとしています。中期目標の5年間でコツコツと積み立て、来年には建て替えや賃金引上げの資金として使われるはずのお金です」(医労連・森田進書記長) 国からは負担増と利益返納を強いられ、そのしわ寄せを本部が病院の現場に押し付けているというわけだ。 前出の病院幹部が憤る。「利益を出せない医療も提供していますから、国からの運営費補助はあって当然。それなのに、本部は交付金の復活も交渉せず、厚労省の無茶な方針に全く逆らおうともしません。『議論はしました』と言って、結局いつも言いなりなのです」 職員や幹部らによると、この“絶対服従”には、構造的な原因があるという。厚労省に“絶対服従”の構造的原因「NHOの職員が非公務員化されたのは15年度から。公務員時代の名残から、厚労省とNHO本部の間では人事交流や“天下り”が根強く残っています。その上、本部の企画経営部長や財務部長といったヒト、モノ、カネの主要部署のトップは、医療現場に出たこともない厚労省の役人ばかりで占められている」(同前) 本部職員が続ける。「彼らは2、3年でまた厚労省に戻りますから、その後の自分の立場さえ守れればいい。病院がどうなろうと、看護師がどうなろうと、とにかく人件費等の固定費を削減し、目先の経営成績を少しでも良く見せたいだけ。病院の現状を国に伝え、現場を守るはずの本部が、厚労省と一緒に現場を壊してきたのです」 現在、NHO本部には5人の常勤理事がおり、うち副理事長を含む2人が厚労省のキャリア官僚だ。昨年末まではもう1人、厚生省のノンキャリアが天下りで役員に就いていた。 その中の“ドン”が副理事長職で、19年3月から古川夏樹氏が就いている。「理事長は歴代、学者や研究者ですので、実務のトップは実質、副理事長です。副理事長の席は厚労省のキャリアが代々座るという『暗黙のルール』があります」(別の事務職)「本部職員も古川氏のハンコをもらうため、日々彼の目の前でサービス残業しています。ただ、『長時間労働は現場のマネジメント不足』『金も資源も削れるだけ削る』という考えなので、現状よりコストをかける案はなかなか通りません」(別の本部職員)「文春の報道も当時の本部は『まあ、いつものこと』という認識。『一部で大きな声を上げる人がいるから、全体として“ブラックだ”みたいな印象になってしまう』と言っている役員もいます」(前出・本部関係者)取材に応じた古川副理事長の回答は 3月5日夜、古川副理事長の自宅を訪ねると、対面での取材に応じた。「とにかく万全の態勢で医療をしたいという現場の気持ちはわかります。でも医療が高度・多様化し、対応しきれないところは、人も増やしながら、より効率化できればと。私が来たときは収支は赤字でしたが、いまは工夫して均衡まで持ってきている。NHOの立場を厚労省に説明し、フェアにやっているつもりです」――NHOとして国に運営費を要請すべきでは?「いただければ、それはありがたいですけど……国は国のお考えがあります。(防衛費も)うちは医療が大事と説明はしましたけど、我々がどっちが優先だという立場じゃないので」看護師たちの悲鳴は本部に届くか そしてこうも付け加えた。「取材にお答えするのも、結構おっかないところはあるんですけど。報道にあった事案は全て確認して、逃げずにちゃんとやっていければと思ってます」 国が真剣に取り組まねば、看護師たちは救われない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号)
人員の抑制が人命を奪ったこともある。宮崎県の都城医療センターでは2016年、当時20代の事務職の男性が3カ月で計約440時間もの残業の末、自宅で自殺。労災に認定され、NHO本部と病院の当時の上司が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。
NHO本部はなぜ、これほどまでコスト削減にひた走るのか。本部関係者が背景にある事情を明かす。
「一言でいうと、実際にお金がない。『国立』とは名ばかりで、国が行政法人の運営のために交付する『運営費交付金』を、診療事業においては12年度から1円も貰っていません。一方、民間病院では『儲からない』と敬遠される難病患者や、重症心身障害の患者の受け入れは、国の要望に応えて続けている。不採算で当然の部門を抱えつつ、自らの収入のみで経営を成り立たせようとしているんです」
国の支援がない一方、機構が生んだ利益を国が「吸い上げる」仕組みはある。
「5年ごとに中期目標を定め、5年の終了時に残っている利益は国庫に返す決まりです。なので、病院を建て替えるための長期的な内部留保を増やすのも厳しい。コロナの補助金でここ数年はなんとか持っていますが、五類になればすぐに赤字でしょう」(前出・病院幹部)
さらにこんな追い打ちも。
「岸田政権の打ち出した防衛費大幅増額の財源として、NHOの積立金422億円が国に徴収されようとしています。中期目標の5年間でコツコツと積み立て、来年には建て替えや賃金引上げの資金として使われるはずのお金です」(医労連・森田進書記長)
国からは負担増と利益返納を強いられ、そのしわ寄せを本部が病院の現場に押し付けているというわけだ。
前出の病院幹部が憤る。
「利益を出せない医療も提供していますから、国からの運営費補助はあって当然。それなのに、本部は交付金の復活も交渉せず、厚労省の無茶な方針に全く逆らおうともしません。『議論はしました』と言って、結局いつも言いなりなのです」
職員や幹部らによると、この“絶対服従”には、構造的な原因があるという。厚労省に“絶対服従”の構造的原因「NHOの職員が非公務員化されたのは15年度から。公務員時代の名残から、厚労省とNHO本部の間では人事交流や“天下り”が根強く残っています。その上、本部の企画経営部長や財務部長といったヒト、モノ、カネの主要部署のトップは、医療現場に出たこともない厚労省の役人ばかりで占められている」(同前) 本部職員が続ける。「彼らは2、3年でまた厚労省に戻りますから、その後の自分の立場さえ守れればいい。病院がどうなろうと、看護師がどうなろうと、とにかく人件費等の固定費を削減し、目先の経営成績を少しでも良く見せたいだけ。病院の現状を国に伝え、現場を守るはずの本部が、厚労省と一緒に現場を壊してきたのです」 現在、NHO本部には5人の常勤理事がおり、うち副理事長を含む2人が厚労省のキャリア官僚だ。昨年末まではもう1人、厚生省のノンキャリアが天下りで役員に就いていた。 その中の“ドン”が副理事長職で、19年3月から古川夏樹氏が就いている。「理事長は歴代、学者や研究者ですので、実務のトップは実質、副理事長です。副理事長の席は厚労省のキャリアが代々座るという『暗黙のルール』があります」(別の事務職)「本部職員も古川氏のハンコをもらうため、日々彼の目の前でサービス残業しています。ただ、『長時間労働は現場のマネジメント不足』『金も資源も削れるだけ削る』という考えなので、現状よりコストをかける案はなかなか通りません」(別の本部職員)「文春の報道も当時の本部は『まあ、いつものこと』という認識。『一部で大きな声を上げる人がいるから、全体として“ブラックだ”みたいな印象になってしまう』と言っている役員もいます」(前出・本部関係者)取材に応じた古川副理事長の回答は 3月5日夜、古川副理事長の自宅を訪ねると、対面での取材に応じた。「とにかく万全の態勢で医療をしたいという現場の気持ちはわかります。でも医療が高度・多様化し、対応しきれないところは、人も増やしながら、より効率化できればと。私が来たときは収支は赤字でしたが、いまは工夫して均衡まで持ってきている。NHOの立場を厚労省に説明し、フェアにやっているつもりです」――NHOとして国に運営費を要請すべきでは?「いただければ、それはありがたいですけど……国は国のお考えがあります。(防衛費も)うちは医療が大事と説明はしましたけど、我々がどっちが優先だという立場じゃないので」看護師たちの悲鳴は本部に届くか そしてこうも付け加えた。「取材にお答えするのも、結構おっかないところはあるんですけど。報道にあった事案は全て確認して、逃げずにちゃんとやっていければと思ってます」 国が真剣に取り組まねば、看護師たちは救われない。(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号)
職員や幹部らによると、この“絶対服従”には、構造的な原因があるという。
「NHOの職員が非公務員化されたのは15年度から。公務員時代の名残から、厚労省とNHO本部の間では人事交流や“天下り”が根強く残っています。その上、本部の企画経営部長や財務部長といったヒト、モノ、カネの主要部署のトップは、医療現場に出たこともない厚労省の役人ばかりで占められている」(同前)
本部職員が続ける。
「彼らは2、3年でまた厚労省に戻りますから、その後の自分の立場さえ守れればいい。病院がどうなろうと、看護師がどうなろうと、とにかく人件費等の固定費を削減し、目先の経営成績を少しでも良く見せたいだけ。病院の現状を国に伝え、現場を守るはずの本部が、厚労省と一緒に現場を壊してきたのです」
現在、NHO本部には5人の常勤理事がおり、うち副理事長を含む2人が厚労省のキャリア官僚だ。昨年末まではもう1人、厚生省のノンキャリアが天下りで役員に就いていた。
その中の“ドン”が副理事長職で、19年3月から古川夏樹氏が就いている。
「理事長は歴代、学者や研究者ですので、実務のトップは実質、副理事長です。副理事長の席は厚労省のキャリアが代々座るという『暗黙のルール』があります」(別の事務職)
「本部職員も古川氏のハンコをもらうため、日々彼の目の前でサービス残業しています。ただ、『長時間労働は現場のマネジメント不足』『金も資源も削れるだけ削る』という考えなので、現状よりコストをかける案はなかなか通りません」(別の本部職員)
「文春の報道も当時の本部は『まあ、いつものこと』という認識。『一部で大きな声を上げる人がいるから、全体として“ブラックだ”みたいな印象になってしまう』と言っている役員もいます」(前出・本部関係者)
3月5日夜、古川副理事長の自宅を訪ねると、対面での取材に応じた。
「とにかく万全の態勢で医療をしたいという現場の気持ちはわかります。でも医療が高度・多様化し、対応しきれないところは、人も増やしながら、より効率化できればと。私が来たときは収支は赤字でしたが、いまは工夫して均衡まで持ってきている。NHOの立場を厚労省に説明し、フェアにやっているつもりです」
――NHOとして国に運営費を要請すべきでは?
「いただければ、それはありがたいですけど……国は国のお考えがあります。(防衛費も)うちは医療が大事と説明はしましたけど、我々がどっちが優先だという立場じゃないので」
看護師たちの悲鳴は本部に届くか
そしてこうも付け加えた。
「取材にお答えするのも、結構おっかないところはあるんですけど。報道にあった事案は全て確認して、逃げずにちゃんとやっていければと思ってます」
国が真剣に取り組まねば、看護師たちは救われない。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年3月16日号)