死産した赤ちゃんの遺体を遺棄した罪に問われたベトナム人元技能実習生、リンさんに対し、最高裁は、逆転無罪判決を言い渡した。
【写真を見る】死産した双子を箱に入れ33時間自宅に置いたのは「犯罪」か。逆転無罪判決のリンさんが訴え続けたこと技能実習生だったベトナム人のリンさん(24)は2020年、熊本県の自宅で、死産した双子の赤ちゃんの遺体を遺棄した罪に問われ、一・二審で執行猶予付きの有罪判決を言い渡された。しかし、最高裁はリンさんが遺体をタオルで包み段ボール箱にいれ、自宅の棚に置いた行為について「『遺棄』には当たらない」として逆転無罪を言い渡したのだ。

リンさんは、妊娠を周りに相談することはなく、病院にも一度も行ってなかった。2020年11月、一晩中「家が壊れるほどの激痛」に何度も見舞われながら、自宅でひとり双子の赤ちゃんを死産した。「血まみれのマットレスの上に子どもたちを置いておけない」。遺体をタオルで包み、段ボール箱に入れて棚に置いた。赤ちゃんは男の子。ベトナム語で「強くたくましく」などの願いを込めて「コイ」「クオイ」と名付けた。翌日訪れた病院で、死産を打ち明けた。すると医師に通報され、死体遺棄の罪で逮捕・起訴された。死産から約33時間、遺体を自宅に置いていたことが罪に問われたのだ。「絶対に子どもたちの体を傷つけたり、捨てたり、隠したりしていません。精神的にも肉体的にも非常に苦しい中、できる限りのことをしました」(リンさん)リンさん側は「後で埋葬するつもりだった」と一貫して無罪を主張してきた。一審の熊本地裁は懲役8か月・執行猶予3年の有罪。二審の福岡高裁は、遺体を置いていたのは短時間で「放置していたとは言えない」として一審判決を破棄したが懲役3か月・執行猶予2年を言い渡した。弁護側は最高裁に上告した。無罪求める9万筆以上の署名 出産経験者「命がけの弔いだった」リンさんの行為が罪に問われるのは「理不尽」。無罪判決を求める署名は約9万5000筆に上り、出産を経験した女性たちも声をあげた。弁護側は最高裁に対し出産経験者ら127人の意見書を提出した。熊本に住む坂本春香さん(31)もその一人だ。「私が同じ立場だったらリンさんがしたような弔いはできなかったと思う」(坂本さん)2021年、娘を出産。初めての育児に追われる中、裁判を知った。自分は無事に出産できた一方、リンさんは死産し罪に問われていた。「その差はどこで生まれたのか」。意見書には、妊娠中つわりで苦しんだこと、産後の病院で飲食もままならず思うように起き上がれなかったこと、ホルモンバランスの急激な変化で孤独を感じたこと等をつづった。「自分の経験から、リンさんは文字通り命がけで“弔い”を行ったと思います。その行為が“社会の課題”としてと捉えられず“個人の責任”と結論付けられるのは、あまりに理不尽です」(坂本さん)「孤立出産は外国人実習生だけの問題ではない」。こう語るのは、親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」を設置する慈恵病院(熊本市)の院長だ。「虐待やDVの被害者など、望まない妊娠により病院を受診しないまま、孤立出産にいたる女性もいます。“弱い立場”の人たちです。リンさんのした行為が罪に問われれば、多くの孤立出産で死産したケースも犯罪とみなされかねません」(蓮田健院長)「働くだけの機械ではなく人間」2月24日に開かれた最高裁の弁論。争点となっていたのは、リンさんが遺体を二重の段ボール箱にいれ、テープでふたをし部屋に置いた行為が「遺棄」にあたるか、だ。【検察側の主張】「一般の荷物であるかのように装った隠匿」「周囲に助けを求めれば、一般人も納得する形で弔うことが容易にできた」【弁護側の主張】「箱を二重にしたのは『我が子が寒くないように』と棺としての丈夫さを与えたもので隠匿ではない」「遠い異国の地で葬祭する意思を持ち続けていた」リンさんは傍聴席の最前列でその様子を見守っていた。「妊娠を誰にも言えずに苦しんでいる技能実習生や一人で子どもを出産せざるをえないすべての女性のためにも、無罪判決を願っています」「私や外国人技能実習生は、働くだけの機械ではなく人間であり、女性です」(リンさん)逮捕されたことで双子の遺体は警察署に引き取られた。リンさんは「早く埋葬したい」と引き取りを願い続けたが、検察の許可が下りたのは死産から6か月も後のことだった。そして言い渡された、今回の逆転無罪判決。判決後、リンさんは、「私のように妊娠して悩んでいる技能実習生や女性たちが、相談でき、安心して出産できる社会に変わってほしい」と訴えた。
技能実習生だったベトナム人のリンさん(24)は2020年、熊本県の自宅で、死産した双子の赤ちゃんの遺体を遺棄した罪に問われ、一・二審で執行猶予付きの有罪判決を言い渡された。
しかし、最高裁はリンさんが遺体をタオルで包み段ボール箱にいれ、自宅の棚に置いた行為について「『遺棄』には当たらない」として逆転無罪を言い渡したのだ。
リンさんは、妊娠を周りに相談することはなく、病院にも一度も行ってなかった。2020年11月、一晩中「家が壊れるほどの激痛」に何度も見舞われながら、自宅でひとり双子の赤ちゃんを死産した。「血まみれのマットレスの上に子どもたちを置いておけない」。遺体をタオルで包み、段ボール箱に入れて棚に置いた。赤ちゃんは男の子。ベトナム語で「強くたくましく」などの願いを込めて「コイ」「クオイ」と名付けた。
翌日訪れた病院で、死産を打ち明けた。すると医師に通報され、死体遺棄の罪で逮捕・起訴された。死産から約33時間、遺体を自宅に置いていたことが罪に問われたのだ。
「絶対に子どもたちの体を傷つけたり、捨てたり、隠したりしていません。精神的にも肉体的にも非常に苦しい中、できる限りのことをしました」(リンさん)
リンさん側は「後で埋葬するつもりだった」と一貫して無罪を主張してきた。一審の熊本地裁は懲役8か月・執行猶予3年の有罪。二審の福岡高裁は、遺体を置いていたのは短時間で「放置していたとは言えない」として一審判決を破棄したが懲役3か月・執行猶予2年を言い渡した。弁護側は最高裁に上告した。
リンさんの行為が罪に問われるのは「理不尽」。無罪判決を求める署名は約9万5000筆に上り、出産を経験した女性たちも声をあげた。弁護側は最高裁に対し出産経験者ら127人の意見書を提出した。熊本に住む坂本春香さん(31)もその一人だ。
「私が同じ立場だったらリンさんがしたような弔いはできなかったと思う」(坂本さん)
2021年、娘を出産。初めての育児に追われる中、裁判を知った。自分は無事に出産できた一方、リンさんは死産し罪に問われていた。「その差はどこで生まれたのか」。意見書には、妊娠中つわりで苦しんだこと、産後の病院で飲食もままならず思うように起き上がれなかったこと、ホルモンバランスの急激な変化で孤独を感じたこと等をつづった。
「自分の経験から、リンさんは文字通り命がけで“弔い”を行ったと思います。その行為が“社会の課題”としてと捉えられず“個人の責任”と結論付けられるのは、あまりに理不尽です」(坂本さん)
「孤立出産は外国人実習生だけの問題ではない」。こう語るのは、親が育てられない子どもを匿名で預かる「赤ちゃんポスト」を設置する慈恵病院(熊本市)の院長だ。
「虐待やDVの被害者など、望まない妊娠により病院を受診しないまま、孤立出産にいたる女性もいます。“弱い立場”の人たちです。リンさんのした行為が罪に問われれば、多くの孤立出産で死産したケースも犯罪とみなされかねません」(蓮田健院長)
2月24日に開かれた最高裁の弁論。争点となっていたのは、リンさんが遺体を二重の段ボール箱にいれ、テープでふたをし部屋に置いた行為が「遺棄」にあたるか、だ。
【検察側の主張】「一般の荷物であるかのように装った隠匿」「周囲に助けを求めれば、一般人も納得する形で弔うことが容易にできた」
【弁護側の主張】「箱を二重にしたのは『我が子が寒くないように』と棺としての丈夫さを与えたもので隠匿ではない」「遠い異国の地で葬祭する意思を持ち続けていた」
リンさんは傍聴席の最前列でその様子を見守っていた。
「妊娠を誰にも言えずに苦しんでいる技能実習生や一人で子どもを出産せざるをえないすべての女性のためにも、無罪判決を願っています」「私や外国人技能実習生は、働くだけの機械ではなく人間であり、女性です」(リンさん)
逮捕されたことで双子の遺体は警察署に引き取られた。リンさんは「早く埋葬したい」と引き取りを願い続けたが、検察の許可が下りたのは死産から6か月も後のことだった。
そして言い渡された、今回の逆転無罪判決。
判決後、リンさんは、「私のように妊娠して悩んでいる技能実習生や女性たちが、相談でき、安心して出産できる社会に変わってほしい」と訴えた。