今回、相談に来たのは、ある地方都市で美容院のチェーンを経営する男性の妻・Aさんです。夫の思わぬ行いによって、将来の相続に暗雲が立ち込めてしまったといいます。
Aさんの夫は、美容師として経験を積み、店舗を任されて仕事をしてきました。Aさんも美容師として働いていた時に3歳上の夫と出会い、職場結婚したのです。子どもができたときにAさんは職場を辞めて、子育てに専念するようになりました。
その後、夫は独立して、美容院を経営するようになりました。会社も設立して社長として張り切っていた時代です。1店舗目が成功し、2店舗、3店舗と少しずつ増やしていき、どの店舗も順調だったといいます。
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夫はお店をどんどん増やして仕事中心の日々でしたが、Aさんは二人目の子どもにも恵まれて、子育てに忙しく、夫の会社や仕事の手伝いはとてもできずに、夫任せにしてきました。
そんな中、上の子が高校生になったとき、夫に婚外子ができたことが発覚しました。相手の女性が認知を迫ってきたことから、当然、Aさんや夫の親も巻き込んで、家族は大変な状況になりました。夫も婚外子ができたことは事実だと、自分の不貞を認めたのです。結果、夫は婚外子を認知し、成人するまで養育費を払うと公正証書を作成して約束し、なんとか事は収まったといいます。離婚するより自宅土地を自分名義にただ、夫は離婚するつもりはなく、Aさんも二人の子どもを連れて離婚には踏み切れず、婚姻関係を継続することにしたといいます。収まらないのはAさんの気持ちです。弁護士に相談したところ、「自宅に仮登記をつける方法もある」とアドバイスをされたそうなのですが、具体的にどうすればいいかわからず、当社に相談に来られたのです。 Aさんの自宅は最寄駅から徒歩8分ほどのところにある一戸建てで、土地、建物は夫名義です。子どもが小学校に入るときに土地を購入し、注文住宅として建てたものです。土地は50坪、建物は40坪で、建てるときにAさんの希望も容れてキッチンやリビングを広く作っており、快適な生活ができています。将来的に夫の相続のとき、認知した子とこの家をめぐってトラブルになり、手放すことになったり、住むところがなくなったりしては不本意だという思いがAさんにはあります。婚姻20年超なら“おしどり贈与”が使えるAさん夫婦が結婚何年目か確認したところ、21年目ということでした。そこで提案したのは、配偶者の特例を利用し、自宅の土地を評価額2000万円分まで夫からAさんに生前贈与をしてもらう方法です。つまり、“おしどり贈与”と言われる特例を利用するわけです。自宅の土地の路線価評価をすると、ぎりぎり2000万円以内と確認できましたので、土地全部をAさん名義にすることが可能だと判断できました。建物は減価償却していきますし、建て替えるときにAさん名義にすればいいと考え、まずは土地をAさんの名義にしておくことで、将来夫が亡くなったときの相続では問題がなくなります。 さらに、夫とAさんには公正証書遺言も作成するようにアドバイスしました。これで夫の相続のときに、婚外子やその母親と遺産分割協議をしなくてもすむようにできるのです。Aさんは早速、夫に話をして了解を得て、贈与手続きと、公正証書遺言の作成を進めると言って帰られました。婚姻20年以上の夫婦間で使える“おしどり贈与”とは?“おしどり贈与”とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用できます。通常、暦年贈与と呼ばれる贈与をした場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されますが、“おしどり贈与”の適用を受ければ、基礎控除とは別に2000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができるのです。おしどり贈与のメリット“おしどり贈与”を利用するメリットの1つは、1人の人が保有する財産を配偶者に先渡しすることで、相続税の節税ができることです。たとえば、夫婦で保有する財産のほとんどを夫が保有している場合、夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、“おしどり贈与”を適用して居住用不動産の一部を妻に移しておくと、相続税が発生しない状態にできる場合があるのです。通常の暦年贈与が相続発生前3年以内にされていた場合は、相続財産にその贈与した財産を加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、おしどり贈与は確実に相続財産を減らすことができるのです。 さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。一方で、おしどり贈与にはデメリットや、適用されるためにいくつかの要件があります。後編『「エリート社長の夫に婚外子発覚」した妻が選んだ「おしどり贈与」の意外な落とし穴』では、その詳細についてお伝えしましょう。
そんな中、上の子が高校生になったとき、夫に婚外子ができたことが発覚しました。相手の女性が認知を迫ってきたことから、当然、Aさんや夫の親も巻き込んで、家族は大変な状況になりました。夫も婚外子ができたことは事実だと、自分の不貞を認めたのです。
結果、夫は婚外子を認知し、成人するまで養育費を払うと公正証書を作成して約束し、なんとか事は収まったといいます。
ただ、夫は離婚するつもりはなく、Aさんも二人の子どもを連れて離婚には踏み切れず、婚姻関係を継続することにしたといいます。収まらないのはAさんの気持ちです。
弁護士に相談したところ、「自宅に仮登記をつける方法もある」とアドバイスをされたそうなのですが、具体的にどうすればいいかわからず、当社に相談に来られたのです。
Aさんの自宅は最寄駅から徒歩8分ほどのところにある一戸建てで、土地、建物は夫名義です。子どもが小学校に入るときに土地を購入し、注文住宅として建てたものです。土地は50坪、建物は40坪で、建てるときにAさんの希望も容れてキッチンやリビングを広く作っており、快適な生活ができています。将来的に夫の相続のとき、認知した子とこの家をめぐってトラブルになり、手放すことになったり、住むところがなくなったりしては不本意だという思いがAさんにはあります。婚姻20年超なら“おしどり贈与”が使えるAさん夫婦が結婚何年目か確認したところ、21年目ということでした。そこで提案したのは、配偶者の特例を利用し、自宅の土地を評価額2000万円分まで夫からAさんに生前贈与をしてもらう方法です。つまり、“おしどり贈与”と言われる特例を利用するわけです。自宅の土地の路線価評価をすると、ぎりぎり2000万円以内と確認できましたので、土地全部をAさん名義にすることが可能だと判断できました。建物は減価償却していきますし、建て替えるときにAさん名義にすればいいと考え、まずは土地をAさんの名義にしておくことで、将来夫が亡くなったときの相続では問題がなくなります。 さらに、夫とAさんには公正証書遺言も作成するようにアドバイスしました。これで夫の相続のときに、婚外子やその母親と遺産分割協議をしなくてもすむようにできるのです。Aさんは早速、夫に話をして了解を得て、贈与手続きと、公正証書遺言の作成を進めると言って帰られました。婚姻20年以上の夫婦間で使える“おしどり贈与”とは?“おしどり贈与”とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用できます。通常、暦年贈与と呼ばれる贈与をした場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されますが、“おしどり贈与”の適用を受ければ、基礎控除とは別に2000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができるのです。おしどり贈与のメリット“おしどり贈与”を利用するメリットの1つは、1人の人が保有する財産を配偶者に先渡しすることで、相続税の節税ができることです。たとえば、夫婦で保有する財産のほとんどを夫が保有している場合、夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、“おしどり贈与”を適用して居住用不動産の一部を妻に移しておくと、相続税が発生しない状態にできる場合があるのです。通常の暦年贈与が相続発生前3年以内にされていた場合は、相続財産にその贈与した財産を加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、おしどり贈与は確実に相続財産を減らすことができるのです。 さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。一方で、おしどり贈与にはデメリットや、適用されるためにいくつかの要件があります。後編『「エリート社長の夫に婚外子発覚」した妻が選んだ「おしどり贈与」の意外な落とし穴』では、その詳細についてお伝えしましょう。
Aさんの自宅は最寄駅から徒歩8分ほどのところにある一戸建てで、土地、建物は夫名義です。子どもが小学校に入るときに土地を購入し、注文住宅として建てたものです。土地は50坪、建物は40坪で、建てるときにAさんの希望も容れてキッチンやリビングを広く作っており、快適な生活ができています。
将来的に夫の相続のとき、認知した子とこの家をめぐってトラブルになり、手放すことになったり、住むところがなくなったりしては不本意だという思いがAさんにはあります。
Aさん夫婦が結婚何年目か確認したところ、21年目ということでした。そこで提案したのは、配偶者の特例を利用し、自宅の土地を評価額2000万円分まで夫からAさんに生前贈与をしてもらう方法です。つまり、“おしどり贈与”と言われる特例を利用するわけです。
自宅の土地の路線価評価をすると、ぎりぎり2000万円以内と確認できましたので、土地全部をAさん名義にすることが可能だと判断できました。
建物は減価償却していきますし、建て替えるときにAさん名義にすればいいと考え、まずは土地をAさんの名義にしておくことで、将来夫が亡くなったときの相続では問題がなくなります。
さらに、夫とAさんには公正証書遺言も作成するようにアドバイスしました。これで夫の相続のときに、婚外子やその母親と遺産分割協議をしなくてもすむようにできるのです。Aさんは早速、夫に話をして了解を得て、贈与手続きと、公正証書遺言の作成を進めると言って帰られました。婚姻20年以上の夫婦間で使える“おしどり贈与”とは?“おしどり贈与”とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用できます。通常、暦年贈与と呼ばれる贈与をした場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されますが、“おしどり贈与”の適用を受ければ、基礎控除とは別に2000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができるのです。おしどり贈与のメリット“おしどり贈与”を利用するメリットの1つは、1人の人が保有する財産を配偶者に先渡しすることで、相続税の節税ができることです。たとえば、夫婦で保有する財産のほとんどを夫が保有している場合、夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、“おしどり贈与”を適用して居住用不動産の一部を妻に移しておくと、相続税が発生しない状態にできる場合があるのです。通常の暦年贈与が相続発生前3年以内にされていた場合は、相続財産にその贈与した財産を加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、おしどり贈与は確実に相続財産を減らすことができるのです。 さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。一方で、おしどり贈与にはデメリットや、適用されるためにいくつかの要件があります。後編『「エリート社長の夫に婚外子発覚」した妻が選んだ「おしどり贈与」の意外な落とし穴』では、その詳細についてお伝えしましょう。
さらに、夫とAさんには公正証書遺言も作成するようにアドバイスしました。これで夫の相続のときに、婚外子やその母親と遺産分割協議をしなくてもすむようにできるのです。
Aさんは早速、夫に話をして了解を得て、贈与手続きと、公正証書遺言の作成を進めると言って帰られました。
“おしどり贈与”とは、正式には「贈与税の配偶者控除の特例」という名称の制度です。婚姻期間が20年以上の夫婦間で、一定の要件を満たす居住用不動産あるいは居住用不動産の購入資金を贈与した場合に適用できます。
通常、暦年贈与と呼ばれる贈与をした場合、年間110万円の基礎控除を上回った金額について贈与税が課されますが、“おしどり贈与”の適用を受ければ、基礎控除とは別に2000万円の控除が受けられます。そのため、最大で2110万円まで非課税で居住用不動産やその取得資金を贈与することができるのです。
“おしどり贈与”を利用するメリットの1つは、1人の人が保有する財産を配偶者に先渡しすることで、相続税の節税ができることです。
たとえば、夫婦で保有する財産のほとんどを夫が保有している場合、夫が先に亡くなると、妻が夫の財産を相続する際に相続税が発生することがあります。しかし、“おしどり贈与”を適用して居住用不動産の一部を妻に移しておくと、相続税が発生しない状態にできる場合があるのです。
通常の暦年贈与が相続発生前3年以内にされていた場合は、相続財産にその贈与した財産を加算しなければなりません。しかし、おしどり贈与により移転した財産については、相続財産に足し戻す必要がありません。そのため、おしどり贈与は確実に相続財産を減らすことができるのです。
さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。一方で、おしどり贈与にはデメリットや、適用されるためにいくつかの要件があります。後編『「エリート社長の夫に婚外子発覚」した妻が選んだ「おしどり贈与」の意外な落とし穴』では、その詳細についてお伝えしましょう。
さらに自宅を売却する場合、居住用財産の譲渡の特別控除として、所得金額から3,000万円が控除されます。自宅の名義が夫だけであれば、売却による所得は夫だけに発生するため、3,000万円だけが控除されることとなります。
けれども、おしどり贈与を利用して妻にその持分を贈与しておいた場合、夫と妻の両方とも3,000万円控除が適用できます。そのため、売却時に譲渡所得が発生せず、所得税がゼロになる可能性もあります。
一方で、おしどり贈与にはデメリットや、適用されるためにいくつかの要件があります。後編『「エリート社長の夫に婚外子発覚」した妻が選んだ「おしどり贈与」の意外な落とし穴』では、その詳細についてお伝えしましょう。