一生懸命説明をしているのに、相手に伝わらなくて悩んだ経験、誰にでも一度はあるはず。実は、説明上手な人は、共通して使っているキラーフレーズがあるというのは、株式会社Zenyum Japan(ゼニュムジャパン)社長を務める伊藤祐さん。 彼が、かつて外資系コンサルティングファームなどで学んだ「説明上手になれるキラーフレーズ」を1冊にまとめた著書『得する説明 損する説明』(SBクリエイティブ)。今回は本書より、明日からあなたも「話がわかりやすい」と言われるメソッドを紹介します(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)。
◆フレーズ1:[Talk Straight]率直に申し上げまして
いろいろと気を使いすぎて議論が前に進まなそうなときに投げ込むと、グググッと話が前に進むとともに、本質的な議論に集中できる魔法の枕詞です。20代の後輩から、「先輩、早い段階でチームを率いて経営層になりたいんですけど、どうすればいいですかね?」と相談を受けたとしましょう。
Talk Straightではない場合、こんな感じのアドバイスになりそうです。
「そうだね、確かにチームを率いて結果を出すというのは経営層への近道だよね。そのような気持ちを今の段階から持っているのは素晴らしいね。そのためにはもちろんコミュニケーションをしっかり取るとか、周りの人の話をちゃんと聞くとか、データをベースに数字を上げるための戦略を立てるとか、そういうことが必要になってくるかなと思うよ」
◆率直に言い換えると…
率直にいきましょう。
「率直に言って、まずは自分自身で結果を出すことに集中すべきかな。リーダーはなりたいと思ってなるものではなく、周りからの信頼を集めた人がなるもので、“この人にならついていきたい”と周りに心底思わせるような結果を出すことが一番重要だと思うよ」
みたいな感じ。
◆その場の空気は読みすぎるほど読んでから「率直に話す」
このTalk Straight、もしあなたと後輩が前述のように外資系コンサルティングファーム勤務なら問題ないですが(たぶん)、そうじゃない場合、ちょっとぎくしゃくしてしまう可能性がなくもないので注意が必要です。
Talk Straight は話の本質に一気に切り込める魔法の言葉ですが、このストレートっぷりに慣れていない人は、なんとなくイヤな気持ちになることがあるのです。また、常に歯に衣着せぬ物言いをする人は、なんだかんだで遠ざけられていってしまう傾向もあります。
婉曲に伝えても伝わらない場合、もしくは率直に言った後にたっぷりフォローアップするタイミングがある場合はTalk Straightで問題ないのですが、あまり濫用すると人間関係にひびが入りがちなので、「本当に問題ないか?」と自問自答してから使うようにしましょう。
【NG 損する説明】ポップアップストアを出して直接お客さんとコミュニケーションを取る、というアイデア自体は全然悪くないと思うんですが、私たちのサービスは結構単価も高いですし、ぱっと見で目立つものでもないので、もしかしたら効果はそんなに出ないかも?って思ったりします。
【OK 得する説明】率直に言うと、ポップアップストアの出店には反対です。その分の費用はデジタルマーケティングに割くべきと私は思います。
◆フレーズ2:[クッションエンド]……と私は思うのですが、いかがでしょうか?
さっきの「Talk Straight」と対極をなすフレーズ、それが「クッションエンド」です。Talk Straightのような正攻法に加えて、クッションエンドを使うことによって「ああ、この人の説明はわかりやすいなあ」という反応をばっちり受け取ることができるのです。

少しストレートすぎる意見表明をしてしまった後、“あくまで自分のイチ意見で恐縮です。あなたの意見も聞きたいな”という形で説明を終わらせることで、あなたへの好感度が一気に上がり、説得力が増していきます。
◆より受け入れやすい表現にしよう
「グローバルで景気が悪くなることがほぼ確実になっている今、売上が安定するとは思えませんよね。そんな中で新たに積極採用をする、という選択は確実に間違ってますよ。売上予想がつかないうちから固定費を増やしてどうするんですか?」
言っていることへの賛否はいったん置いておいて、正直あんまり受け入れたくない気持ちになる表現ですよね。なんかすごくバカにされている気がして、「君の意見はわかるけど、受け入れたくはない」ってなっちゃいそうです。そうならないように、クッションエンドを使ってみましょう。
「さまざまな指標から、今後世界中で景気後退が起こりそうですよね。新たに人を採用して売上をガンガン上げていきたい気持ちはあるのですが、今はあまり固定費を増やさないほうがいいかなと私は思うのですが、いかがでしょうか?」
言っている内容は変わっていないですが、後者のほうが受け入れやすくなったのではないでしょうか? まだ上から目線のような気はしますが、「この人は話が通じそうだな」という印象になりましたね。
◆気が弱い人、遠慮しがちな人は使う必要なし
ただ、ちょっと水を差すようですが、ついつい他の人の意見に流されがちだったり、気が弱かったりする人は「あえて使わなくてもいい」と私は思っています。
デリカシーが足りず、言いたいことをあんまり空気を読まずに放言してしまう人(例:私)は、これを使うと「おお、ちょっとは相手を慮ることができるんだな」と思ってもらえるのでどんどん使うべきですが、日本人の83%を占めている「空気を読みすぎてしまう人」は、これを使うとさらに弱腰になってしまうので、あえて使わなくてもいいです。空気が読めない人、ストレートすぎる人におすすめです。
【NG 損する説明】A部長、コロナ患者数が右肩上がりの今、週4出社はありえないっすよ。週1出社、週4リモートにすべきじゃないっすか?
【OK 得する説明】A部長、コロナ患者数がかなりの速度で増えていて、心配している人も多いので、いったん週1出社にしたほうがいいかなと私は思うのですが、いかがでしょうか?
◆フレーズ3:[本質立ち返り]そもそも
この「そもそも」、本当に使いどころが多く、私自身も大活用しています。会社のチャットツールで「そもそも」を検索したところ、7割以上が私の発言で使われていました(笑)。私は「そもそも=本質立ち返り」と定義しています。話をしているときに、表面上は活発に意見交換されているけれど、なんとなく空回りしている感覚がある。そういうときに、「そもそも」を使うことでモノゴトの本質を再度見つめなおすことができます。
私の会社は「透明マウスピース矯正」というサービスを提供していますが、もちろん他にも矯正サービスを提供している会社さんがいらっしゃいます。いわゆる「競合他社」ですね。社内で、「競合であるA社さんがやっていること、私たちも早くやろう」という議論にたびたびなります。
確かに、競合他社がみなやっていて、私たちがやっていないと、なんとなくやったほうがいい気がします。一方、「周りがやっているから私たちもやろう」というロジックで突き進んでいいのか、自信が持てないのも確か……。そんなときこそ本質立ち返りフレーズ「そもそも」の出番です。

◆「ぐるぐる自問自答モード」になったときにもおすすめ
前述のように、議論がなんだか前に進んでいない感じのときに投げ込むのももちろん有効ですが、自分自身が変にモヤモヤしているときにも使えます。悩みが悩みを呼び、ずっとテンションが低かったり夜も眠れなかったり、そんなときに「そもそも」で本質に立ち返ってみると、スッと解決したりします。
私自身、社長というなかなか責任の重いポジションについてからというもの、「ヤバいどうしよう」「とはいっても弱音吐くわけにもいかないしな……」「でもヤバいどうしよう」みたいなぐるぐる悩み無限ループに入ってしまう時期が定期的に来ます。そういうときに頭の中でぐるぐるし続けていても何にもならず、むしろ消耗し続けるだけ。
そんなときは、まずノートを用意してそこに今考えていることを吐き出し、「そもそもそこが本当に悩むべきポイントなんだっけ?」「そもそも私がこの事業を通して実現したいことって何だっけ?」と本質に立ち返ることで、いつのまにかぐるぐる自問自答モードを抜け出すことができます。
自問自答モードになってしまったら、「説明力を爆上げするチャンス!」と捉え、どんどん本質に立ち返ってみましょう。
【NG 損する説明】より成長を加速させるには、もっとスピーディーに人の採用をして、どんどん新しい店舗を出していく必要があります!
【OK 得する説明】もちろん売上を達成することは大事ですが、そもそも私たちは社会にどんなインパクトを残すために集まっているのか、そこを明確にしたうえで、数字の話をすべきではないでしょうか。
<TEXT/伊藤祐(株式会社Zenyum Japan社長)>