「くしゃみで意識が遠のいた」――大阪市生野区で2人が死亡する自動車事故を起こし、自動車運転処罰法違反(過失致死)の容疑で逮捕された71歳の男の供述が波紋を広げている。事故を伝えるネットニュースのコメント欄には「そんな話、信じられない」といった声が多いが、専門家によると「医学的には起こり得る」という。意外と知られていない「くしゃみ」がもたらす身体への影響とは。
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【写真を見る】凄惨な事故直後の現場風景と残されたキャリーカート 3月1日、大阪市内の生野愛和病院に乗用車が突っ込み、75歳と86歳の女性2人が巻き込まれて死亡する痛ましい事件が発生した。現行犯逮捕された無職の大山昌樹容疑者(71)は事故の直前、対向車線を一時、逆走。そのまま猛スピードで歩道や病院の花壇へと乗り上げたと見られている。ブレーキ痕はなかった(直後の事故現場)「大山容疑者にケガはなく、逮捕後の供述で“人をはねたことは間違いない”と容疑を認める一方で、“事故直前にくしゃみをして意識が遠のき、どのように事故になったのか分からない”とも話しています。現場の約70メートル手前からブレーキ痕はなかったことが明らかになっており、大阪府警は事故時、大山容疑者が意識障害に陥っていた可能性も視野に捜査を進めています」(全国紙府警担当記者)“くしゃみで失神”――との供述にネット上では「聞いたことない」や「罪を軽くするためでは?」と疑う声が多く見られるが、新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦氏はこう話す。「事例としては稀なケースとなりますが、くしゃみで意識を失うのはあり得ることです。たとえば、くしゃみをした時に一瞬、周りが見えなくなったりする時があります。激しいくしゃみをする際、息を吸い込むことで胸の圧力が急激に高まる反面、脳へ行く血流は低下する。失神は一時的に脳への血流が減少することで起きるため、くしゃみとの因果関係は皆無ではありません」過去には判例で認められたケースも 実際、過去に同種の事件が起きたケースがあるという。「2005年3月、岩手県遠野市で路線バスが下校途中だった小学生女児2人をはねて死傷させた事件で、盛岡地裁はバス運転手に対し、事故の過失を認め有罪としたものの、“(事故の前に)くしゃみによって意識障害に陥った”と認定しました」(前出・府警詰め記者) 医師で作家の米山公啓氏の話。「同じメカニズムで起こるものとして『排尿後失神』が挙げられます。尿を我慢している状態が続くと、膀胱がふくらんで血圧が上昇。その状態で一気に排尿すると、血管が広がって血圧が急激に下がります。通常、脳内の血流量は体内の血圧と関係なく一定量が保たれるようにできていますが、加齢によってこの機能は損なわれていく傾向にある。高齢者がトイレで突然、倒れる事例のなかにはこのケースが含まれます」「腰痛」との関連も 岡田氏によると、今回の事件では2つの可能性が排除できないという。「一つ目が迷走神経反射が起きたケースです。これは強い刺激や緊張などから心拍数の低下や血管拡張による血圧低下を招き、失神へと至るものです。たとえば採血の際に貧血を起こす患者がいますが、これも針を刺される緊張から弛緩へと移る過程で血管が一気に開き、脳への血流が低下することで生じます。もう一つが、70歳を迎えるまでに3人に2人の血管内にできるとされる血栓の存在です。くしゃみによって激しい血圧の変動が起こり、その拍子に小さな血栓が剥がれ、脳の血管に詰まった可能性も疑われます」(岡田氏) また「くしゃみ」によって引き起こされるのは意識障害だけではないという。「実はくしゃみは腰痛とも関係しています。背骨は四方八方を筋肉で囲まれていますが、くしゃみによって瞬間的に強い力が背中や腰の一部に加わることで、力のバランスに歪みが発生。それが腰痛の引き金となることが知られています」(岡田氏) 意外に知らない「くしゃみ」の知られざる一面。真相解明のため、医学的な見地からの検証も望まれる。デイリー新潮編集部
3月1日、大阪市内の生野愛和病院に乗用車が突っ込み、75歳と86歳の女性2人が巻き込まれて死亡する痛ましい事件が発生した。現行犯逮捕された無職の大山昌樹容疑者(71)は事故の直前、対向車線を一時、逆走。そのまま猛スピードで歩道や病院の花壇へと乗り上げたと見られている。
「大山容疑者にケガはなく、逮捕後の供述で“人をはねたことは間違いない”と容疑を認める一方で、“事故直前にくしゃみをして意識が遠のき、どのように事故になったのか分からない”とも話しています。現場の約70メートル手前からブレーキ痕はなかったことが明らかになっており、大阪府警は事故時、大山容疑者が意識障害に陥っていた可能性も視野に捜査を進めています」(全国紙府警担当記者)
“くしゃみで失神”――との供述にネット上では「聞いたことない」や「罪を軽くするためでは?」と疑う声が多く見られるが、新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦氏はこう話す。
「事例としては稀なケースとなりますが、くしゃみで意識を失うのはあり得ることです。たとえば、くしゃみをした時に一瞬、周りが見えなくなったりする時があります。激しいくしゃみをする際、息を吸い込むことで胸の圧力が急激に高まる反面、脳へ行く血流は低下する。失神は一時的に脳への血流が減少することで起きるため、くしゃみとの因果関係は皆無ではありません」
実際、過去に同種の事件が起きたケースがあるという。
「2005年3月、岩手県遠野市で路線バスが下校途中だった小学生女児2人をはねて死傷させた事件で、盛岡地裁はバス運転手に対し、事故の過失を認め有罪としたものの、“(事故の前に)くしゃみによって意識障害に陥った”と認定しました」(前出・府警詰め記者)
医師で作家の米山公啓氏の話。
「同じメカニズムで起こるものとして『排尿後失神』が挙げられます。尿を我慢している状態が続くと、膀胱がふくらんで血圧が上昇。その状態で一気に排尿すると、血管が広がって血圧が急激に下がります。通常、脳内の血流量は体内の血圧と関係なく一定量が保たれるようにできていますが、加齢によってこの機能は損なわれていく傾向にある。高齢者がトイレで突然、倒れる事例のなかにはこのケースが含まれます」
岡田氏によると、今回の事件では2つの可能性が排除できないという。
「一つ目が迷走神経反射が起きたケースです。これは強い刺激や緊張などから心拍数の低下や血管拡張による血圧低下を招き、失神へと至るものです。たとえば採血の際に貧血を起こす患者がいますが、これも針を刺される緊張から弛緩へと移る過程で血管が一気に開き、脳への血流が低下することで生じます。もう一つが、70歳を迎えるまでに3人に2人の血管内にできるとされる血栓の存在です。くしゃみによって激しい血圧の変動が起こり、その拍子に小さな血栓が剥がれ、脳の血管に詰まった可能性も疑われます」(岡田氏)
また「くしゃみ」によって引き起こされるのは意識障害だけではないという。
「実はくしゃみは腰痛とも関係しています。背骨は四方八方を筋肉で囲まれていますが、くしゃみによって瞬間的に強い力が背中や腰の一部に加わることで、力のバランスに歪みが発生。それが腰痛の引き金となることが知られています」(岡田氏)
意外に知らない「くしゃみ」の知られざる一面。真相解明のため、医学的な見地からの検証も望まれる。
デイリー新潮編集部