今年2月にこの世を去った名馬ウイニングチケットのたてがみがフリーマーケットアプリ「メルカリ」で販売されたことをめぐり、牧場側と出品者との間でトラブルになっていたことが分かった。
同馬を繋養(けいよう)していた観光牧場「うらかわ優駿ビレッジAERU(アエル)」(北海道浦河町)は、たてがみの提供や販売はしていないが、出品元のNPO法人は過去にAERUから提供を受けたとし、ホームページでも協力牧場として紹介していた。AERUは昨年、同法人に対しホームページから情報の削除を依頼したが、今年3月にたてがみの無許可販売が発覚し、同法人に抗議。ウイニングチケットのたてがみの出品は取り下げられた。メルカリ側も同法人が出品していたほかの馬のたてがみも規約違反として一斉に削除した。
削除要請したのに出品
AERUは、乗馬など馬と触れ合う体験ができる施設で、競走馬や種牡馬として活躍し引退した名馬も生活している。功労馬として同施設にいたウイニングチケットは、1993年の日本ダービーなどを制し、95年の引退後は種牡馬として活躍。「チケゾー」の愛称でファンに親しまれた。
AERUは今月4日、公式ツイッターで、功労馬のたてがみを販売している団体がフリマアプリで「AERUの提供」としてウイニングチケットのたてがみを販売したことを明かし、「AERUでは現在たてがみの提供は一切行っておりませんし、協力もしておりません」と注意を呼びかけた。
このツイッターは反響を集め、販売について、「馬を利用するのは許せない」「本物のファンは騙されないで」といった声も寄せられていた。
AERUの担当者によると、NPO法人のホームページにAERUが協力牧場として紹介され、たてがみを提供された馬としてウイニングチケットなどの功労馬が紹介されていたことから、昨年6月ごろに削除を依頼。しかし、今月1日、情報提供により、同法人がメルカリで同馬らのたてがみを販売していることを知った。さらに、同法人のホームページには、たてがみを提供された馬として、AERUにいた功労馬、ヒシマサルも掲載されていたという。
6日に同法人に抗議したところ、謝罪を受けるとともに、出品は取り下げられ、AERUに関する同法人のホームページ上の記載も削除。8日には同法人が出品していたたてがみ全てが削除された。
「たてがみも体の一部」
2019年には、北海道の牧場で引退した名馬のたてがみが切られる事件が相次いだ。AERUでもウイニングチケットのたてがみが切り取られ、翌年に埼玉県の女=当時(55)=が器物損壊容疑で再逮捕された(後に不起訴)。
AERUの担当者は「たてがみも体の一部」と話し、AERUではたてがみの販売は行わず、提供も基本的に行っていなかった。事件後はより徹底し、ブラッシングで抜けた毛や、柵についた毛などについても、提供していないという。
たてがみを販売したNPO法人は、知的障害者や認知症高齢者を対象とした音楽療法活動を行う団体で、ホームページによると、2008年から名馬のたてがみが入ったお守り袋を販売するチャリティー企画を始めたという。同法人代表は産経新聞の取材に対し、同年にAERUに協力を依頼し、ウイニングチケットのたてがみを提供されたと主張。昨年、AERU側から削除要請があったが、「ホームページで削除漏れがあり、メルカリの出品の取り消しも怠ってしまい、ご迷惑をおかけしてしまった」と述べた。
メルカリ上で同法人が出品していた「功労馬チャリティー」では、8日午前10時時点で42頭の功労馬のたてがみの出品が確認できたが、同日夜に、全頭分が削除された。
同法人代表は、「メルカリから禁止事項に接触していたとし、出品取り消しをされた」と明かし、削除の理由については、「いろんな人が苦情を入れたのか…自分では分からない」と話した。販売していたたてがみについては、牧場の許可は得ているとして、「(販売先は)検討中だが、今後も活動は続けていく」としている。
JRAや引退馬協会も懸念
NPO法人のホームページでは、JRA(日本中央競馬会)などの承諾を得たチャリティー企画と説明しており、削除された商品ページにも同様の記述があった。JRAの担当者は、「承認や承諾をした事実はない」と否定。そもそも活動に対し、許可や承認、承諾するような立場ではないとしている。
JRAでは、このNPO法人のほか、ほかの団体や個人でもクラウドファンディングや競馬に関する非売品のグッズ販売で「JRA承認・公認」など、誤解を招く表現のあるケースがあったことから、昨年7月、「特定の団体・法人、個人が行っている『引退競走馬等に関する諸活動』に対して、JRAおよびJRAの関連団体が特定の『承認・公認』などを付することはありません」などと、ホームページで注意喚起を行った。JRAの担当者は、今回のトラブルについても憂慮しているとし、引き続き注意を呼びかけている。
引退馬のたてがみについては、今回のNPO法人以外でも、フリマアプリやオークションサイトなどで出品が相次いでおり、高額で販売されるケースもある。本当にその馬かどうか真偽も分からず、たてがみを売買すること自体を問題視する声もある。
引退馬支援に取り組む認定NPO法人「引退馬協会」の沼田恭子代表理事は、引退馬のたてがみの販売がビジネスとして広がり、悪影響が出ることを危惧していると強調。「馬や牧場が危険にさらされるようなことがあれば、牧場での見学の中止にもつながりかねず、引退馬と親しんでほしいとの思いで一生懸命頑張っている牧場の思いが台無しになりかねない」と指摘する。今後は、関係各所と連携し、必要に応じて厳正に対処していきたいとしている。(本江希望)