茨城県ひたちなか市内の住民の家に集まってカラスの肉を生で食べ、その体験を一部地域の食文化だとして紹介した東京新聞の記者コラムに対し、「危険な行為を助長しかねない」などと医師らからツイッター上で批判が相次いでいる。
ジビエ(野生鳥獣肉)を生で食べれば、肝炎などを引き起こし、命を落としかねないことが理由だ。コラムでは、食中毒のリスクが高く生食は止めるようにとした関係者のコメントは併記しており、批判をどう考えるかなどについて、東京新聞は、「記事で掲載した通りです」と取材に答えた。
コラムが掲載されたのは、2023年3月7日付ウェブ版の首都圏ニュースだ。「突撃イバラキ」のシリーズとして、「カラス肉の生食文化 究極のジビエに挑戦」と題して記事になった。
それによると、記者は、一部地域の食文化であるカラスの刺し身を食べに来ないかと取材先から誘われ、生食であることに悩んだ末、好奇心から2月中ごろに食事会に参加した。
地元の住民ら十数人が集まり、狩猟したとみられるカラス13羽について、調理して食べた。その中には、醤油漬けにした胸肉の刺し身があり、レバーのような赤身だと写真を載せた。食べてみると、臭みはなくさっぱりした味だったという。特産の干しいも作りで捨てた皮をカラスが食べている影響もあると説明を受けたという。記者は、お腹の様子が心配になったが、食べた翌日も何ともなかったとした。
茨城県の生活衛生課に後で取材すると、禁止ではないものの、食中毒のリスクが高いので控えてほしいと言われたとも書いた。カラス料理研究家の本でも、生食は絶対に止めてとの記述を確認したが、記者は、貴重な食文化が先細りになるのは惜しいと指摘した。食事会の常連からは、食べ物への偏見は差別につながり、それをなくすのが世界平和だと言われ、「膝を打った」と締め括っている。
この記事が配信されると、ツイッター上では、医師や科学ジャーナリストらから疑問や批判の声が相次いだ。ジビエの生食は死ぬリスクがあるため止めてほしい、マネする人が出かねない、といったものだ。県内で鳥インフルエンザが発生して鶏が殺処分されたと報じられているにもかかわらず、ジビエの生食を紹介するのは理解できないとの声もあった。
厚労省のサイトを見ると、ジビエの生食について、E型肝炎ウイルス、O157などの腸管出血性大腸菌や寄生虫による食中毒のリスクがあり、場合によっては死亡すると警告している。
東京新聞の記事が出た後の3月8日には、同省の公式ツイッターで、ジビエの生食は「非常に危険」だとして、カラスのイラストを付けて注意を呼びかける投稿を行った。
同省の食品監視安全課は9日、取材に対し、投稿についてこう説明した。
記事について、茨城県の生活衛生課は8日、J-CASTニュースの取材に次のように答えた。
鳥インフルの影響については、「カラスがウイルスを持っているか分かりませんので、生食することで感染するかは分かりません」と述べた。
実は、過去の報道では、ひたちなか市の一部地域でカラス肉の生食などが伝統だとされたことはある。朝日新聞の14年4月5日付朝刊記事では、この地域で食文化になっており、知人らを家の食事会に招いて胸肉の刺し身を食べたと報じられた。また、地域メディア「NEWSつくば」の19年11月13日付コラムでも、ライターが同様な食事会を紹介していた。
こうした伝統が一部地域であるのかについて、生活衛生課では、「表に出ないところで愛好者がおられるのかもしれませんが、聞いたことはありませんので、伝統とは言えないのではないかと考えています」と話した。
東京新聞編集局は3月9日、医師らからの批判についてどう考えるのかなどについて、「記事で掲載した通りです」とだけ取材にコメントした。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)