マニラの裁判所で2日、日本の警察が広域強盗事件に絡みフィリピンに強制送還を求めている渡辺優樹容疑者(38)と小島智信容疑者(45)の同国での刑事裁判の審理が開かれた。両容疑者の弁護人のエルジュン・リコ氏は、いずれも刑事裁判の即日棄却にはならず、7日午前に次回の審理が行われると述べた。日本側が要望する4容疑者の一斉送還が難しくなった。
レムリヤ法相は、8日に始まるマルコス大統領の訪日までの4人同時の送還を目指していたが、実現は難しくなった。先日、同法相は「大統領の訪日前の送還」に自信を持っていたが、法務行政トップの意向を司法機関の裁判所がはねつけたわけだ。ただ、送還が延びるほどに脱走の可能性が出てくることがささやかれている。
1月31日に捜索が行われ、押収されたアイテムには、スマホ、パソコン、タブレット端末、DVDプレーヤー、エアコン、WiFi、ライター、ナイフ、鉄パイプ、ハサミなどが含まれていた。フィリピン当局はこれまでトランプなどが持ち込まれていても強制没収してこなかったのは、「入管施設は強制送還されるまでの収容施設であり、刑務所ではないからだ」と言い訳していた。今回のようにスマホで遠隔指示をして日本で強盗をやらせるとは想定外だっただろう。容疑者たちがまだスマホや凶器を隠し持っている可能性もある。スマホで外の協力者に脱走を依頼したり、凶器を用いて、脱走の危険性が生じる。
フィリピンメディア「ボンボ・ラジオ」は2日、「ビクタン収容所はセキュリティーが強化された。海外で犯罪をしてフィリピンに逃亡してきた凶悪犯と、単なる不法滞在程度の犯罪者を分離した」と報じた。
この入管施設でも過去に賄賂を渡して脱走する事件があったという。さすがにマルコス大統領の来日を控え、今回の4人が賄賂で脱走できるとは思えないが、フィリピンの収容所、刑務所では脱走事件が多数発生しているだけに油断はできない。
ビクタン収容所では2020年、詐病して外の病院で治療を受けなければならないとして、看守に伴われながら外出し、そのまま逃亡するケースがあった。フィリピンでは賄賂を渡せば“通院”の名目で看守付きで外出でき、外出先で看守に好きなものを与える。そんなことを繰り返すうち、“信頼関係”ができ、外出が当たり前になり、逃亡させてしまったわけだ。すでに何年も収容所にいる4人だけに、この逃亡方法を試しかねない。
刑務所からの脱獄となると、力ずくという方法も多い。07年には武装集団が手りゅう弾で刑務所の壁を破壊し、40人が脱獄。16年にはミンダナオ島の刑務所を武装集団が襲撃し、28人が脱獄。17年、同島の刑務所を武装集団が襲撃し、158人が脱獄したことがある。20年には首都圏にある刑務所でコロナで死亡したとして、厳重に袋に包まれた“遺体”が刑務所外に搬出され、逃亡という“偽装獄死”という手口があった。同年には刑務所から裁判所に移送中に脱走。22年には首都圏にある刑務所から、銃を所持した受刑者が脱獄した。
また、元暴力団関係者は「入管施設職員への素手での暴力だと弱いかもしれないが、ナイフで襲いかかるまですれば、フィリピンでの傷害・殺人未遂事件となり、新たな刑事事件になり、送還できなくなる可能性が出るかもしれない」と指摘する。 前出のリコ氏によると、強制送還が取りざたされている渡辺容疑者と小島容疑者が「自身に向けられた疑惑の全てにストレスを感じ、当惑している」という。
送還が延びるほど、脱走の危険性が増えるかもしれない。