ケリー・アン、BBCニュース
長期にわたって厳格な感染対策を続けてきた日本で、新型コロナウイルスの死者が急増している。国民の免疫力が低いことと、衰えが進んだ高齢者が増えていることが背景にある。
日本はかつて、新型ウイルスによる致死率が最も低い国の一つだった。しかし、昨年末から上昇傾向が続いている。
新型ウイルス関連のデータを集計している米ハーヴァード大学の「アワ・ワールド・イン・データ」によると、日本では今年1月20日に1日当たりの死者が過去最多を記録。イギリス、アメリカ、韓国を上回った。
日本は2020年から昨年6月中旬まで、外国人旅行者の入国をほぼすべて認めてこなかった。再び迎え入れた当初は、パックツアーへの参加や医療保険への加入、すべての公共の場でのマスク着用を旅行者に義務付けるなど慎重だった。
学校では2年以上にわたり、子どもたちが昼ごはんを黙々と食べる光景がみられた。学校側が昼食時の会話を禁止したからだ。
そしていま、制限の緩和が進められる中で、日本人の新型ウイルスに対する免疫力の低さが感染急増を招いている可能性があると、日本の保健専門家らはBBCに話している。
専門家らによると、最近の死者のほとんどは、基礎疾患がある高齢者だという。感染流行の初期に、肺炎が死因となった人や、集中治療室(ICU)で治療を受けた人が多かったのとは対照的だ。
日本を代表するウイルス学者で、世界保健機関(WHO)の感染症対策の地域アドバイザーを務めた押谷仁氏は、「これらの死亡を治療で防ぐことは難しい」と説明。新型ウイルスはきっかけに過ぎないとした。
「免疫を逃避する変異株や変異株の亜種の出現と免疫力の低下によって、感染予防がいっそう難しくなっている」
「免疫の逃避」は、人間の免疫システムが病原体に反応できなくなる状態を指す。オミクロン変異株の新たな株は、免疫逃避の名人とされる。
オミクロン変異株が流行するまで、日本の新型ウイルスの死亡例は東京や大阪などの都市部に集中していた。しかし今では全国各地でみられると、押谷氏は話した。
「小規模な県や地方では、高齢者の割合が全国平均よりさらに高い。変化する地理的パターンも、死者の増加傾向に関係している可能性がある」
日本はさまざまな指標で世界一の高齢社会だ。高齢者の割合は1950年以降、毎年上がり続けている。
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高齢者施設や地域のクラスターで感染する高齢者は迅速な治療を受けられていない、と指摘するのは、疫学者で東京財団政策研究所の研究主幹の渋谷健司氏だ。
渋谷氏によると、早期の治療は患者の助けとなるが、日本は新型ウイルスを感染症法の2類(非常に危険な病気)に分類しているため、国が指定した病院しか治療をできない。そうした病院は、患者の急増にてんてこ舞いの状況だという。
渋谷氏は、新型ウイルスの分類を引き下げ、インフルエンザなどと同様、すべての診療所や病院が感染患者を治療できるようにすべきだと主張する。
岸田文雄首相は先週、5月8日に分類を引き下げると発表した。日本の新型ウイルス対策トップの尾身茂氏ら専門家たちが、昨年から求めてきたことだった。
押谷氏と渋谷氏は、無症状感染のため報告されなかったり、医師の報告要件が昨年変更されたりしたことから、新型ウイルスの致死率は実際にはもっと高かった可能性があるとする。とはいえ、日本は今も感染状況を日々発表し続けている数少ない国の一つだ。
日本医療政策機構フェローで医師の徳田安春氏は、日本人の自然免疫(感染によって獲得する免疫)は、昨年半ばまでは弱かったと指摘する。
徳田氏によると、自然免疫はワクチン接種で得られる免疫よりも強い。日本では、感染率の低さが免疫の弱さにつながり、それが死者が増える原因になっているという。
押谷氏は、オーストラリアでも同様の現象がみられると説明する。同国は国境を2年間閉ざし、2022年前半に再び開いた。以来、新型ウイルスの致死率がじわじわ上昇しているという。
日本の推移をめぐっては、専門家らの意見が分かれている。例えば徳田氏は、感染率や致死率は今後、下がるとみている。
一方、押谷氏は、手頃な価格の抗ウイルス薬がまだ普及していないことから、今後数カ月内に死者が急増すると予想している。
(英語記事 What’s behind the surge of Covid-19 deaths in Japan?)