新型コロナ感染拡大「第8波」の感染者は減少傾向になっているものの、死者数は依然として高い水準にある。
現場で治療にあたる医師は「基礎疾患のある人や高齢者などには早期の受診と治療が極めて重要」と指摘。5月には感染症法上の位置づけが5類に移行、行動制限の緩和が進みつつあるなか、医療関係者は「収束ムード」を懸念。ピークアウト後にも医療機関の受け入れ態勢強化や、早期受診を呼びかける。
早期治療の重要性
「すごくよくなった。最初に診たときは危なかったから」
1月下旬、新型コロナ患者の往診を終え、車の後部座席に乗り込んだひなた在宅クリニック山王(東京都品川区)の田代和馬院長(33)はそう言って笑顔を見せた。
この日午前の往診の2軒目で訪れたのは、認知症や心不全などの持病があるコロナ患者の女性(86)の自宅だった。
女性は4日ほど前から軽いせきをするようになったというが、同居する娘(60)は「最初はコロナだとは思わず、誤嚥(ごえん)性肺炎かもしれないと思った」と話す。田代院長は「ウイルスの変異に伴い、症状が典型的でない患者さんも出てきている」と語る。また、認知症などの影響で積極的に症状を訴えられない患者は、コロナ感染初期の症状を見落としてしまうケースもあるという。
女性の症状は翌日になるとさらに悪化。ぐったりとだるそうで足元もおぼつかなかったことから、かかりつけ医だった同クリニックへ連絡。その日の午後、往診に訪れた田代院長が抗原検査をしたところ、陽性が確認された。
症状はさらに悪化。39度を超える発熱があり、血中酸素飽和度も、酸素投与が必要とされる93%まで落ち込んだ。「中等症?の状態だった」(田代院長)。入院先を探したが、見つからず、自宅療養を続けることに。娘は「1人でどこまでみられるか不安があった。往診で対応してもらえてよかった」と話す。
女性は田代院長が訪問した日、微熱があったものの、血中酸素飽和度も正常値の98%まで上昇。問いかけに笑顔で答えるほど回復した。田代院長は「症状が悪化するのは検査や診断、治療が遅れた人」とし、早期治療の重要性を訴える。
救えなかった命
早期に適切な治療が受けられず助からなかった命もある。
先月31日夜、80代の男性が息を引き取った。男性はその前週に発熱したため、かかりつけの医療機関へ行ったところ「他の病院でコロナでないことを確認してから来てください」といわれ、受診することができなかった。
男性はその後、自宅で療養していたが、家族との連絡もままならない状態になった。連絡が取れず不安に感じた男性の家族が31日にひなた在宅クリニック山王へ往診を依頼。田代院長が駆け付けた際には「呼吸も浅くかなり衰弱していた」という。検査の結果、コロナの陽性が確認された。食事もまともにとることができておらず、かなり衰弱していた男性は、往診から数時間後に息を引き取った。
田代院長は早期受診の重要性とともに、「5類に移行しても発熱症状の患者を受け入れない医療機関が一定数いることが予想される。医療機関が患者の受け入れ態勢を構築する必要がある」と訴えた。(長橋和之)