徳島県上勝町では、ごみを45の項目に細かく分別をしています。リサイクル率はなんと81%。“ごみゼロ”を目指す町を追跡しました。
■ごみ収集車なし…“ごみゼロ”宣言の上勝町
徳島県の中央部に位置する上勝町。人口およそ1400の小さな町に、全国から視察が相次いでいます。
町に1つだけの「ごみ集積所」があります。
宮城県加美町から:「ここまで細かくやっているのは、想像していなかった」
香川県高松市から:「大量生産、大量消費。本当に考えなくてはいけない」
実は、上勝町には、ごみ収集車がありません。町民自らが集積所にごみを持ち込んでいるのです。
驚くべきは、その分別の項目数です。
ゼロ・ウェイスト推進員 藤井園苗さん:「45分別」
なんと、ごみを45の項目に細かく分けているのです。これは日本最多。考えるだけでも、大変そうですが…。
町民:「染みついとる。もう、なんともないです。自然体になっとるんで」「心もスッキリ。いっぱい分けて、楽しい。地球に良いことができたのかなと」
こうして分別されたごみは、再利用されます。この町のリサイクル率は81%。東京は24%ですから、驚異の実績です。
20年も前に、全国で初めてリサイクル率100%を目指す“ごみゼロ”宣言をした上勝町。20年間、一体どんな生活をしてきたのか追跡しました。
■20年続く…“ごみ45分別”生活とは?
新田博枝さん(71)。ごみを45分別もする生活とは、どんなものでしょうか?
新田さん:「これは廃プラです」
プラスチックの梱包(こんぽう)用バンドは、リサイクル工場で固形燃料になります。
新田さん:「これ(送り状)とか、レシートとか。普通の(紙の)資源ごみと分ける」
送り状やレシートは、紙として再生できません。でも、きちんと分別すれば、固形燃料に利用できるのです。
新田さんは、魚のパックに使われているラップなどにも気を遣って、ごみを分別しています。
新田さん:「水洗いします。水切って乾かして」
汚れがひどいと、ごみのリサイクル処理費は高くつく傾向にあります。丁寧に分別して、無駄な税金を使わないように貢献しているのです。
生ごみは自宅で処理するのが、この町のルールです。
新田さん:「これはコンポストへ入れて堆肥化。リサイクル、循環型を目指しています」
ごみの分別は多岐にわたり、仕分けが多いため、家の外に置いています。
新田さん:「1、2、3、4、5、6」
「洗剤の詰め替えパック」や「歯ブラシ」も、メーカーのリサイクルに協力。まだまだあります。
新田さん:「16ですね」
新田さんは20年間、こうして細かくごみを分別し続けています。
新田さん:「こういうふうに分け出すと、別に負担に感じない。1カ月ここに住んだら、自然とカラダが分けていますわ。試しに1カ月どうですか?滞在されたら」
■東京から移住の女性「慣れたらこっちがラク」
町民がごみを持ち込む集積所「ごみステーション」。ここで、45の項目に分別します。7年前に東京から移住した女性がいました。
東京から移住:「東京は何曜日に何ごみとか決まっている。何時までに出さなくてはいけないとか。そんなのここはなくて、自分の好きなタイミングで捨てに来られる。慣れたら、こっちのほうがラクかな」
高齢の女性が持ち込んだのは「硬い芯と柔らかい芯」です。この町では「硬い芯」と「柔らかい芯」で分別しています。
柔らかい芯は再生紙。硬い芯は段ボールにリサイクル。業者への売却額も違うのです。
紙パックは裏側が白か銀色かで分別。ポリエチレンとアルミでは、リサイクル方法が変わるため、売却額が5円も違います。
ちなみに、一番高く売れるのはアルミ缶。1キロ当たり160円です。上勝町は、資源ごみを売却した収入を町民に還元しています。
■「最高だね」ごみステーションに町民の“楽しみ”
ゴミステーションにやってきた新田さんには、楽しみがあるといいます。
新田さん:「たくさんたまってきている。何にしよ」
スタッフ:「何がいいですかね?」
新田さん:「コンポスト(堆肥を作る容器)にしようかな」
対象の資源ごみを持ち込むと、ポイントがもらえます。町指定のごみ袋など、環境に良いグッズと交換できるのです。
町民:「ごみを持ってきて、ポイントもらえるんだから、最高だね」
ごみゼロを目指す上勝町。実は1997年まで、ごみを野焼きで処理していました。
焼却炉を設置するも、わずか3年で閉鎖。町民と話し合い、20年前に、ごみを出さない社会を目指すことにしたのです。
ゼロ・ウェイスト推進員 藤井園苗さん:「『大事な税金をごみを燃やす非生産的なことに使わない』と(当時の市長が)唱えてくれたのが、一番大きい」
町民:「最初は、何でごみを洗わないといけないのかと思って、難儀やなと思っていたけど、日常的にしてるうちに、やっぱりこうやってしたほうが良いな」
■ちょっと変わった“体験型ホテル”も…
ごみステーションは、3年前にできました。そしてこの町には、ちょっと変わったホテルがあります。
この日訪れたのは、高知県から来た夫婦です。
ホテルの装飾には、至る所にリユース品が使われています。ここは、町民と同じように分別をしながら、ごみについて考える体験型ホテルなのです。
西川太悟さん:「個人的にエコロジーとか、発進できるようなコミュニティー、複合施設を作りたいと思っていて、その勉強も兼ねて」
チェックアウト前に、出したごみを分別します。
西川太悟さん:「お菓子を食べたんですけど、(袋を)洗ったほうが良いのかなと。ちょっと洗ったんですけど」
スタッフ:「ありがとうございます。(菓子袋は)再生プラスチックの原材料として、リサイクルすることができる」
■“うれしい施設”も…「本当に良かった」
ごみステーション内には、うれしい施設もあります。使わなくなったものを、誰でも無料で持ち帰ることができるのです。
新田さん:「まだ使えるんだけど、私の家ではもう使わないなと思うものを、もしご入用の人があれば」
この日来た子連れの女性が目を付けたのは、なんと新田さんが持ってきたお皿が気に入ったといいます。
女性:「子どものお皿があって」
新田さん:「ありがとうございます」
女性:「使わせて頂きます」
新田さん:「うちの孫が、そんなに使ってないんだけど。もう大きくなったので、持ってきました」
子ども:「見せて」
新田さん:「本当に良かった。良かった」
小さな町が、大きな取り組みを始めて20年。課題は高齢化。行政は、ごみを集積所に持ち込めない高齢者のために、定期的に収集を行っています。