遊戯施設に設置されている器具を中心に、トランポリン遊びでの負傷事故が相次いでいる。
2010年以降で約80件に上り、消費者庁が注意喚起に乗り出すとともに、消費者安全調査委員会(消費者事故調)も今春、事故防止策などを盛り込んだ報告書をまとめる見通しだ。複数での一斉ジャンプや無理な宙返りなど、危険な跳び方で重傷を負ったケースもあり、利用者側が気をつける必要もある。(糸井裕哉)
■2010年以降80件
走ったり、跳び移ったりしてはいけません――。
幼児向けから上級者用まで72台の器具を設置する「トランポランド東京ベイサイド」(千葉県浦安市)はエリアごとにスタッフを配置し、危険な行為がある度に注意を呼びかけている。
入場前には禁止行為を伝える5分間の事前説明を実施。施設内の画面では「アクセサリーは外し、ガムは口に含まない」といった注意事項を記載した映像を繰り返し流している。
近年、「トランポリンパーク」と呼ばれる同店のような遊戯施設は増えており、全国に100店舗以上あるとみられる。一方、インターネット上にはアクロバチックな技を紹介する動画があふれ、初心者が興味本位で挑戦して負傷するケースもあるという。
トランポランド運営会社の遠田寅彦総務(48)は「スマホや自撮り棒を持って跳ぶ人もいて、すぐに禁止した。体操教室ではないので2回転宙返りもNG。ルールを守ることで、自分も周囲も安全に楽しめる」と話した。
■禁止行為を黙認
消費者庁によると、10年1月から今年1月にかけて、トランポリン遊びによる負傷事故は少なくとも78件発生し、うち51件は遊戯施設で起きていた。けが人は幅広い年代で出ていたが、特に10歳代以下の報告が多い。
骨折や脱臼などの重傷者も続出。宙返りに失敗した男性が頸椎(けいつい)を骨折したり、高台から2人で一緒にジャンプした際、下敷きになった児童が腕の骨を折ったりした事例もあった。
同庁は昨年9月、消費者安全法に基づき、21年12月以降に14件の負傷事故が起きた「てんとう虫パークBIGSTAGE河内長野店」(大阪府)の店名を公表。後方宙返りなどの禁止行為を黙認しており、監視体制も不十分だったという。
同庁の担当者は「危険な事故が続く中で、施設を運営する事業者の意識を高めるため、店名の公表に初めて踏み切った」と説明。同店の運営会社は取材に「宙返りを許可制にし、禁止事項の確認を徹底するなど安全対策を強化し、事故防止に努める」と答えた。
■事故調で議論
消費者庁は事故防止のポイントとして、〈1〉能力を超えた技に挑まず、徐々に跳ぶ高さを上げる〈2〉一つの器具を複数人で使わない〈3〉最初は反発力が強い競技用を使わない――ことなどを挙げている。
一方、遊戯施設を巡っては、国際的な取引の規格を認証する国際標準化機構(ISO)が昨年11月、「器具の周囲にクッションを敷き詰める溝を設け、その深さは1・6メートル以上にする」「監視時に死角を作らない」といった規格を定めたが、国内での認知度は低いとみられ、事業者への拘束力もない。
今のところ、国による安全指針や基準はなく、消費者事故調が事故の原因を分析した上で、防止策などを盛り込んだ報告書をまとめるため、議論を進めている。
遊戯施設を監督する経済産業省は「事故調が打ち出す方向性に基づいて対策を進める。施設への指導の徹底に加え、定期点検やマニュアルの整備などを含めた指針の策定も検討対象になる」と話す。
08年北京五輪のトランポリン男子で4位となった外村哲也さん(38)は「2人同時に跳ねると角度や高さを制御できず、転落の危険性が高まる。着地時の事故も多いため、まずは安全に停止する方法を覚えてほしい」と指摘。外村さんは施設を運営する業界団体の創設も呼びかけており、「行政と施設が協力して安全基準を作り、事故原因や再発防止策を広く周知できる体制を早期に築く必要がある」と話している。