仕事で使う十徳ナイフを持ち歩くのは犯罪にあたるのか――。
軽犯罪法違反で略式起訴された大阪市に住む鮮魚店の男性経営者(47)が「仕事目的だった」として無罪を訴え、正式裁判で争っている。争点は所持に正当な理由があると言えるかどうか。検察側は「最近は仕事で使っていない」として科料9900円を求刑。判決は25日に大阪簡裁で言い渡される。(岸田藍)
■職務質問
「ちょっといいですか」。2021年12月18日夜、経営者は大阪市福島区の路上で、大阪府警福島署員から呼び止められた。自転車で赤信号を無視して横断し、署員に職務質問された。
肩掛けかばんの中身の確認を求められ、同意した。かばんのポケットには十徳ナイフ(刃渡り6・8センチ)が入っており、当初は「災害が起こった時に便利だと思い、持ち歩いていた」と説明。その後の取り調べでは「仕事や日常生活で使う」と訴えたが、22年3月、軽犯罪法違反(凶器携帯)の疑いで書類送検された。
大阪区検は略式起訴し、大阪簡裁が科料9900円の略式命令を出した。受け入れれば、刑事手続きは終わるが、経営者は納得できず、弁護士と相談して、正式裁判で争うことを決めた。
■仕入れ減
銃刀法は刃の長さが6センチを超え、一定の幅や厚みがある刃物の所持を禁じており、今回は長さ以外は基準内で違反とならない。一方、軽犯罪法は長さなどに関係なく、正当な理由がなく、所持すれば罪に問われる。
経営者は祖父の代から続く鮮魚店を営み、ナイフは約20年前に母親の知人からプレゼントされた。市場の仕入れで、発泡スチロール箱を固定した結束バンドを切る時に使っていた。自宅では缶切りや栓抜きとしても用いていたという。
しかし、職務質問された当時は、コロナ下で仕入れ量が減り、仕事で使う機会は少なくなっていた。少量なら、結束バンドを手で切ることもできるためだ。
検察側はこの点を重視。ここ数年は業務で使っていたとは言えず、自宅での使用にとどまっていたと指摘し、「ナイフを携帯する必要性が認められる事情は存在しない」と主張する。他の防災用品を持っていなかったことなどから当初の説明の不合理さも訴える。
■無罪の事例も
人に危害を与える恐れのある器具を所持することが正当かどうかは、過去の事件でも争われた。
自転車で走行中に催涙スプレーを所持した会社員が軽犯罪法違反に問われた事件で、最高裁は09年、「正当な理由」の判断基準として、▽用途や形状▽職業や日常生活との関係▽日時や場所など客観的要素――を総合的に判断することを判示。深夜のサイクリング中に護身用で所持したのは正当だとして無罪とした。
経営者側の高江俊名(としあき)弁護士はこの判断基準を踏まえ、「十徳ナイフは旅行や出張での使用も想定して販売されている。真面目に働いてきた人が本来の用途で持つことに何ら問題はない」と無罪を主張している。
経営者は昨年11月の被告人質問で、「人に危害を加える気持ちは全くない」と訴えた。