はじめまして、私は精神科医の岩瀬利郎です。精神医学の専門家として30年以上、入院・外来を問わず、これまで1万人以上の発達障害の方やその他の精神疾患の方、それらの特性に戸惑って悩んでいる人たちと接してきました。
その中で、何度もかみしめたことがあります。
それは、発達障害の特性を持つ人と、そうではない“定型発達”の人とでは、物事の受け止め方、感じ方が、かなり異なるということ。
つまり、見ている世界が違うのではないかということです。
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発達障害の人は、今でも“ちょっと変わった人”“空気の読めない人”“だらしない”“能力が低い”などと簡単に決めつけられてしまうことが少なくありません。確かに、発達障害の人が身近にいると、接し方に苦慮し、困惑してストレスを感じてしまうこともあるでしょう。子どもは大人よりも症状の強いケースが多いため、親御さんの苦労はさらに大きいかもしれません。そして、発達障害を持つ本人も、大きなストレスを抱えています。理解に苦しむさまざまな言動は、本人の人格の問題でも、努力不足からきているわけでもありません。大人も子どもも、むしろ本人は一生懸命、頑張っていることが多いのです。ひとことで言えば、発達障害とは脳機能の特性。発達障害がある人は、状況を読んだり、人の気持ちを推測したりする脳の働きが、定型発達の人より弱いことがわかっています。先天的な脳の問題ですから、本人の努力だけでは、どうしてもその言動を改めることが難しいのです。では、どうすればいいのでしょうか―。まずは何より、本人と周囲の人々が、発達障害を正しく理解し、対策をとり合うことが大切です。ちょっとした声がけや習慣づけを実行し、考え方を少し変えてみることで、お互いに感じているやりづらさや不安感などを軽減することができるはずだからです。昨年出版した『発達障害の人が見ている世界』という本に、私は“発達障害の人が見ている世界”をまとめました。「なぜあの人は、あんなことを言ったり、したりしてしまうのか」という疑問に対する理由を具体的に解説し、そして、本人たちとのコミュニケーション方法も紹介しています。この記事では同書より一部抜粋し、彼らの見ている世界と、接し方のヒントをお伝えします。やるべきことを“後回し”。ASDとADHDで異なる原因やらなければいけないことを後回しにしてしまうというのは、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)に共通して見られがちな特性です。ただし両者で原因が異なることがあります。ASDの人の場合は、“優先順位がつけられない”という特性によることが少なくありません。Oさん(30歳・女性)は仕事がいくつか重なると、どこから手をつけていいかわからなくなります。一方、ADHDのDさん(25歳・男性)の場合、大急ぎで片付けなければならない重要な仕事をやっていても、別件の電話がかかってきたりメールが入ったりすると、ついそちらの処理のほうに気持ちが向いてしまいます。とりあえずこちらを終わらせようと判断し、結局、重要案件のほうは時間切れ。満足な形に仕上げることができません。このようにASDとADHDの人は、違う原因から優先しなければならない仕事を後回しにしがちなことがあります。結果、期限ぎりぎりになったり締め切りオーバーになったりして、周囲に迷惑をかけてしまうことが多く、本人たちも悩んでいます。 ●当事者の声急ぎでやらなきゃいけない仕事はわかっているんだけど、パソコンを立ち上げるとメールが何件も届いていて、返信しているとあっという間に1時間。仕事をはじめても、別の案件のメールが来るとつい気になっちゃって、いつも大切な仕事が後回しになってしまう。(25歳・男性D)ASDの人には、重要な案件は「~をいつまでに」と明示することです。メールで送ったり、メモをとってもらったりして、あとから本人が、何度も確認し直せるようにしておくと意識づけをすることができます。ADHDの人に対しては、気が散らない環境を用意してあげることです。単純なことですが、デスク周りを整頓させたり、簡単なパーテーションの設置を許可したりするだけでも、集中度は変わります。また、緊急の案件を頼むときは「邪魔が入らない作業室に行ったら」などと声をかけてあげてもよいですね。職場環境によっては完璧にはいかないとは思いますが、できる限り雑音を排除する環境へ誘導してあげましょう。同じ“後回し”癖も、ASDとADHDでは対応策が異なるのです。要点を短くまとめられず、仕事が遅いASDのFさん(28歳・女性)は仕事の効率が悪いと言われ、職場で肩身の狭い思いをしています。会議の議事録を作る仕事を任されても、重要なポイントだけ選んで抜き出すことができません。全出席者の全発言を、一字一句欠かさず、長い時間をかけて書き起こしたところ、上司から、ポイントだけ書くように指示されました。しかし、彼女はどこが重要なのかわからず、戸惑うだけだったそうです。これは、先述したASDのOさんの“優先順位がつけられない”にも通じる、“物事のすべてを同じ比重で感じる”という脳の特性によるものだと考えられます。周りには明らかに不必要だと判断できる情報も、FさんやOさんはすべて拾ってしまうのです。ちなみに、発達障害の傾向があったと言われている画家の山下清さんは、絵を描くとき、旅先で目にし、記憶した風景を、まるでプリンターのように端から順に描いていったそうです。ASDの人は非常に優れた記憶力を持つことがあり、見た映像を隅々まで緻密に覚えていたりします。山下清さんもそういうタイプだったのかもしれませんね。 ●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。状況が変化することを恐れ、臨機応変に対応できないASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
発達障害の人は、今でも“ちょっと変わった人”“空気の読めない人”“だらしない”“能力が低い”などと簡単に決めつけられてしまうことが少なくありません。
確かに、発達障害の人が身近にいると、接し方に苦慮し、困惑してストレスを感じてしまうこともあるでしょう。子どもは大人よりも症状の強いケースが多いため、親御さんの苦労はさらに大きいかもしれません。
そして、発達障害を持つ本人も、大きなストレスを抱えています。
理解に苦しむさまざまな言動は、本人の人格の問題でも、努力不足からきているわけでもありません。大人も子どもも、むしろ本人は一生懸命、頑張っていることが多いのです。
ひとことで言えば、発達障害とは脳機能の特性。
発達障害がある人は、状況を読んだり、人の気持ちを推測したりする脳の働きが、定型発達の人より弱いことがわかっています。先天的な脳の問題ですから、本人の努力だけでは、どうしてもその言動を改めることが難しいのです。
では、どうすればいいのでしょうか―。
まずは何より、本人と周囲の人々が、発達障害を正しく理解し、対策をとり合うことが大切です。ちょっとした声がけや習慣づけを実行し、考え方を少し変えてみることで、お互いに感じているやりづらさや不安感などを軽減することができるはずだからです。
昨年出版した『発達障害の人が見ている世界』という本に、私は“発達障害の人が見ている世界”をまとめました。
「なぜあの人は、あんなことを言ったり、したりしてしまうのか」という疑問に対する理由を具体的に解説し、そして、本人たちとのコミュニケーション方法も紹介しています。
この記事では同書より一部抜粋し、彼らの見ている世界と、接し方のヒントをお伝えします。
やらなければいけないことを後回しにしてしまうというのは、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)に共通して見られがちな特性です。ただし両者で原因が異なることがあります。
ASDの人の場合は、“優先順位がつけられない”という特性によることが少なくありません。Oさん(30歳・女性)は仕事がいくつか重なると、どこから手をつけていいかわからなくなります。
一方、ADHDのDさん(25歳・男性)の場合、大急ぎで片付けなければならない重要な仕事をやっていても、別件の電話がかかってきたりメールが入ったりすると、ついそちらの処理のほうに気持ちが向いてしまいます。とりあえずこちらを終わらせようと判断し、結局、重要案件のほうは時間切れ。満足な形に仕上げることができません。
このようにASDとADHDの人は、違う原因から優先しなければならない仕事を後回しにしがちなことがあります。結果、期限ぎりぎりになったり締め切りオーバーになったりして、周囲に迷惑をかけてしまうことが多く、本人たちも悩んでいます。 ●当事者の声急ぎでやらなきゃいけない仕事はわかっているんだけど、パソコンを立ち上げるとメールが何件も届いていて、返信しているとあっという間に1時間。仕事をはじめても、別の案件のメールが来るとつい気になっちゃって、いつも大切な仕事が後回しになってしまう。(25歳・男性D)ASDの人には、重要な案件は「~をいつまでに」と明示することです。メールで送ったり、メモをとってもらったりして、あとから本人が、何度も確認し直せるようにしておくと意識づけをすることができます。ADHDの人に対しては、気が散らない環境を用意してあげることです。単純なことですが、デスク周りを整頓させたり、簡単なパーテーションの設置を許可したりするだけでも、集中度は変わります。また、緊急の案件を頼むときは「邪魔が入らない作業室に行ったら」などと声をかけてあげてもよいですね。職場環境によっては完璧にはいかないとは思いますが、できる限り雑音を排除する環境へ誘導してあげましょう。同じ“後回し”癖も、ASDとADHDでは対応策が異なるのです。要点を短くまとめられず、仕事が遅いASDのFさん(28歳・女性)は仕事の効率が悪いと言われ、職場で肩身の狭い思いをしています。会議の議事録を作る仕事を任されても、重要なポイントだけ選んで抜き出すことができません。全出席者の全発言を、一字一句欠かさず、長い時間をかけて書き起こしたところ、上司から、ポイントだけ書くように指示されました。しかし、彼女はどこが重要なのかわからず、戸惑うだけだったそうです。これは、先述したASDのOさんの“優先順位がつけられない”にも通じる、“物事のすべてを同じ比重で感じる”という脳の特性によるものだと考えられます。周りには明らかに不必要だと判断できる情報も、FさんやOさんはすべて拾ってしまうのです。ちなみに、発達障害の傾向があったと言われている画家の山下清さんは、絵を描くとき、旅先で目にし、記憶した風景を、まるでプリンターのように端から順に描いていったそうです。ASDの人は非常に優れた記憶力を持つことがあり、見た映像を隅々まで緻密に覚えていたりします。山下清さんもそういうタイプだったのかもしれませんね。 ●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。状況が変化することを恐れ、臨機応変に対応できないASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
このようにASDとADHDの人は、違う原因から優先しなければならない仕事を後回しにしがちなことがあります。結果、期限ぎりぎりになったり締め切りオーバーになったりして、周囲に迷惑をかけてしまうことが多く、本人たちも悩んでいます。
●当事者の声急ぎでやらなきゃいけない仕事はわかっているんだけど、パソコンを立ち上げるとメールが何件も届いていて、返信しているとあっという間に1時間。仕事をはじめても、別の案件のメールが来るとつい気になっちゃって、いつも大切な仕事が後回しになってしまう。(25歳・男性D)ASDの人には、重要な案件は「~をいつまでに」と明示することです。メールで送ったり、メモをとってもらったりして、あとから本人が、何度も確認し直せるようにしておくと意識づけをすることができます。ADHDの人に対しては、気が散らない環境を用意してあげることです。単純なことですが、デスク周りを整頓させたり、簡単なパーテーションの設置を許可したりするだけでも、集中度は変わります。また、緊急の案件を頼むときは「邪魔が入らない作業室に行ったら」などと声をかけてあげてもよいですね。職場環境によっては完璧にはいかないとは思いますが、できる限り雑音を排除する環境へ誘導してあげましょう。同じ“後回し”癖も、ASDとADHDでは対応策が異なるのです。要点を短くまとめられず、仕事が遅いASDのFさん(28歳・女性)は仕事の効率が悪いと言われ、職場で肩身の狭い思いをしています。会議の議事録を作る仕事を任されても、重要なポイントだけ選んで抜き出すことができません。全出席者の全発言を、一字一句欠かさず、長い時間をかけて書き起こしたところ、上司から、ポイントだけ書くように指示されました。しかし、彼女はどこが重要なのかわからず、戸惑うだけだったそうです。これは、先述したASDのOさんの“優先順位がつけられない”にも通じる、“物事のすべてを同じ比重で感じる”という脳の特性によるものだと考えられます。周りには明らかに不必要だと判断できる情報も、FさんやOさんはすべて拾ってしまうのです。ちなみに、発達障害の傾向があったと言われている画家の山下清さんは、絵を描くとき、旅先で目にし、記憶した風景を、まるでプリンターのように端から順に描いていったそうです。ASDの人は非常に優れた記憶力を持つことがあり、見た映像を隅々まで緻密に覚えていたりします。山下清さんもそういうタイプだったのかもしれませんね。 ●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。状況が変化することを恐れ、臨機応変に対応できないASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
●当事者の声急ぎでやらなきゃいけない仕事はわかっているんだけど、パソコンを立ち上げるとメールが何件も届いていて、返信しているとあっという間に1時間。仕事をはじめても、別の案件のメールが来るとつい気になっちゃって、いつも大切な仕事が後回しになってしまう。(25歳・男性D)
ASDの人には、重要な案件は「~をいつまでに」と明示することです。メールで送ったり、メモをとってもらったりして、あとから本人が、何度も確認し直せるようにしておくと意識づけをすることができます。
ADHDの人に対しては、気が散らない環境を用意してあげることです。単純なことですが、デスク周りを整頓させたり、簡単なパーテーションの設置を許可したりするだけでも、集中度は変わります。また、緊急の案件を頼むときは「邪魔が入らない作業室に行ったら」などと声をかけてあげてもよいですね。職場環境によっては完璧にはいかないとは思いますが、できる限り雑音を排除する環境へ誘導してあげましょう。
同じ“後回し”癖も、ASDとADHDでは対応策が異なるのです。
ASDのFさん(28歳・女性)は仕事の効率が悪いと言われ、職場で肩身の狭い思いをしています。会議の議事録を作る仕事を任されても、重要なポイントだけ選んで抜き出すことができません。全出席者の全発言を、一字一句欠かさず、長い時間をかけて書き起こしたところ、上司から、ポイントだけ書くように指示されました。しかし、彼女はどこが重要なのかわからず、戸惑うだけだったそうです。
これは、先述したASDのOさんの“優先順位がつけられない”にも通じる、“物事のすべてを同じ比重で感じる”という脳の特性によるものだと考えられます。周りには明らかに不必要だと判断できる情報も、FさんやOさんはすべて拾ってしまうのです。
ちなみに、発達障害の傾向があったと言われている画家の山下清さんは、絵を描くとき、旅先で目にし、記憶した風景を、まるでプリンターのように端から順に描いていったそうです。ASDの人は非常に優れた記憶力を持つことがあり、見た映像を隅々まで緻密に覚えていたりします。山下清さんもそういうタイプだったのかもしれませんね。 ●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。状況が変化することを恐れ、臨機応変に対応できないASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
ちなみに、発達障害の傾向があったと言われている画家の山下清さんは、絵を描くとき、旅先で目にし、記憶した風景を、まるでプリンターのように端から順に描いていったそうです。ASDの人は非常に優れた記憶力を持つことがあり、見た映像を隅々まで緻密に覚えていたりします。山下清さんもそういうタイプだったのかもしれませんね。
●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。状況が変化することを恐れ、臨機応変に対応できないASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
●当事者の声会社で資料作りを任されると、いつも言われた時間内に仕上げられない。何日も残業して作りあげても「長すぎる」の一言で却下。結局、先輩に手直ししてもらいます。いつも一生懸命、仕事に取り組んでいるのに、周りの人にあきれられることが多くて悲しい。(28歳・女性F)
ASDの人が、すべての物事を同じ比重で見てしまうことがあるのは脳の特性によるものなので、周囲の人の働きかけや指導で改善できるとは限りません。本人の傾向にもよりますが、ASDの特性を理解し、本人に向いた仕事を割り当ててあげることも必要です。
たとえば、Fさんは製品マニュアルや契約書の校正のような仕事は得意なはず。定型発達の人だと文章の内容に気を取られたり、重要な部分ではないという先入観から見逃してしまったりする文章も、フラットな目でしっかりチェックしてくれるでしょう。
もちろん、症状の強弱などによってできることはまちまちなので、個々人に本当に向いている仕事を見つけることは簡単ではないかもしれませんが、ぜひ親身になって探す手伝いをしてあげてください。
ASDの人は、「今日は昨日と同じ。1年後も10年後も今日と同じ」というように、同じ時間がずっと続く感覚を持つことがあると言われています。
昇進を伴う異動の内示を受けたASDのHさん(30歳・女性)も、客観的には良い異動にもかかわらず非常に悩んでいました。彼女は想定の範囲外のことが起こると臨機応変に対処できない自分を知っているので、何事も変化を避けるように生きてきたからです。
同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。 ●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
同じ特性を持つASDの人の中には、毎日の通勤時、電車がレールの上を走るかのように、まったく同じ道を歩こうとする人もいます。たまたま工事をしていて迂回を求められたりすると、たちまち気分がざわついてしまいます。
この時間感覚は、“同一性の保持”という特性のひとつであり、定型発達の人のように刻々と変化する状況に対応したり、先を読んだりすることができないケースが少なくありません。そして急に状況が変化すると恐怖すら感じ、立ちすくんでしまうのではないかと考えられています。
●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。
●当事者の声社会人になって7年。ずっと同じ部署で働いてきたので、最近は毎日の仕事のほとんどが予定通りに進み、気持ちよく働いていた。でも先日、部長から「新しくできた部署の主任になってほしい」と言われ、パニック寸前になっちゃった。私、このままがいいのに……。(30歳・女性H)
「ずっと続く同じ時間の中で生きている」という感覚を想像してみましょう。ASDの人たちは1年後も10年後もいつまでも、今この瞬間と同じ状態が続くという感覚のもとに生き、変わらないと信じることで心を安定させていることがあります。
そんなASDの人は、変化の乏しいルーチンワークが好きで得意だったりします。安定した気持ちで、何時間でも集中してやり続けられるのです。
周囲の人は、こうした特殊な感覚を理解し、できるだけ変化なく働ける環境を与えてあげるべきでしょう。ずっと同じ部署で仕事をしてきたため、専門知識やノウハウを大量に蓄積し、「エキスパート」や「生き字引」と呼ばれるようになる人がいます。ASDの人こそ、そうしたポテンシャルを持った人材である場合が多いのです。