静岡県はリニア開業を遅らせるため、川勝平太知事の“勘違い”を強引に押し通すことに必死だ。静岡県庁組織は「機能不全」ではなく、「機能崩壊」寸前である。
JR東海のトンネル工事中の湧水全量戻し策として提案された東京電力・田代ダム取水抑制案に、川勝知事は2023年1月4日の年頭あいさつで触れ、「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)、水利権について当時者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある。これ(田代ダム取水抑制案)は検討の余地がある」などと述べた。
昨年夏、取水抑制案の田代ダムを視察した川勝知事(静岡市、筆者撮影)
「検討の余地がある」とは、2022年12月27日の定例会見で記者たちの“一斉攻撃”を受けて、嘘やごまかしがきかないと見て、川勝知事が最後に述べた言葉である。しかし、1月4日の年頭あいさつで、あらためて「検討の余地がある」と述べながらも、やはり川勝知事は“本性”を露呈してしまったのだ。田代ダムは大井川水系唯一の東京電力の発電用ダムで、山梨県早川町の田代川第二発電所、第一発電所に大井川の水が使われた後、山梨県の富士川水系に放流され、大井川に戻ってこない。中部電力の発電用ダムは32カ所あり、発電所18カ所で大井川の水が使われ、すべて大井川に戻されている。東京電力は毎秒4.99立法メートルの水利権を有し、単純に計算すれば、日量約43万立法メートル、月量約1300万立法メートルという膨大な水を静岡県から山梨県に放出している。その代わり、静岡県は東京電力から毎年、流水占用料約3000万円をもらっている。“世界最大級の断層地帯”がある山梨県境西側の南アルプスリニアトンネル静岡工区で、JR東海は作業員の安全確保を踏まえ、山梨県側から掘削する。このため、工事期間中(約10カ月間)に最大500万立法メートルの水が山梨県に流出する試算を示したが、国の有識者会議は「山梨県への流出量は非常に微々たる値であり、大井川下流域の水環境に全く影響はない」と結論づけた。ところが、「静岡県の水は一滴も県外へ流出させない」、「工事中の全量戻しがJR東海との約束」などと川勝知事がごり押しを続けた。このため、JR東海は2022年4月の県専門部会で、山梨県へ湧水が流出する工事期間中、田代ダム取水を東京電力に一時的に抑制してもらい、県外流出量分を取水しないことを、東京電力の内諾を得た上で提案した。副知事が知事発言を「訂正」2022年8月に発刊した拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』(飛鳥新社)の第2章「静岡県庁のごまかし全内幕」で、JR東海の田代ダム取水抑制案を、「東京電力の一時的かつ自主的な取水抑制であり、水利権にからまない方策」と指摘した。さらに会議後の囲み取材で、静岡県リニア問題責任者、難波喬司副知事(当時)が田代ダム取水抑制案を「検討の余地がある」と評価したことも同書で紹介した。この時点で、事務方は、水利権にからまない提案であり、「検討の余地がある」と述べていたことになる。大井川にある田代ダムの案内板(静岡市、筆者撮影) ところが、県専門部会直後の会見で川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる」、「突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」など飛んでもない勘違いをして、田代ダム取水抑制案に強く反発した。難波氏は川勝知事に詳しく説明したはずだが、川勝知事は難波氏ら事務方の説明を無視したのか、あるいは理解できなかったのかのどちらかである。つまり、2022年4月の時点で、県庁組織はすでに「機能不全」状態に陥っていた。田代ダム取水抑制案を受けて、8月に田代ダムの現地視察を行った。視察後の囲み取材で、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」という発言に終始した。その後の会見の度に、「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水をちゃんと循環させて戻すということ」などと訳の分からないことを繰り返している。JR東海は2022年10月31日、12月4日の2回にわたる県専門部会で「田代ダム取水抑制案」が水利権にからまないことを詳しく説明した。さらに、10月31日の会議では、国土交通省の吉田誠参事官が、政府見解として田代ダム取水抑制案が水利権に関わる河川法に触れないことを明言した。JR東海の提案時から田代ダムの水利権に強い関心を示していた、静岡県河川審議会会長を務める大石哲委員(神戸大学都市安全研究センター教授)も、同会議の説明を了解した。12月4日会議後の囲み取材で、森貴志副知事は「田代ダム取水抑制案がJR東海の工事中の全量戻しに有効であると川勝知事も認識している」と明言した。それにも関わらず、川勝知事は12月16日の会見で「田代ダム取水抑制案は別の事柄(JR東海の地域貢献)、南アルプス工事と結びつくものではない」と否定してしまった。その後の記者らの質問攻めに、森副知事は川勝知事と協議したとして、「知事も『検討の余地がある』と認識している。誤解を生じさせた」と知事発言を訂正した。 川勝知事の「真っ赤な嘘」ところが、12月27日の会見で、川勝知事は「全量戻しは掘削中に出る水をすべて戻すことであり、田代ダム取水抑制案は全量戻しとは違う認識」などと森副知事の発言を“ちゃぶ台返し”して、県庁組織の「機能不全」が深刻化していることをはっきりとさせた。記者たちが強く反発して、森発言との食い違いを厳しく追及すると、時間切れ直前に、川勝知事は「検討の余地がある」と折れざるを得なかった。そして、1月4日の年頭あいさつでも「検討の余地がある」と述べたのである。その発言にも関わらず、前段で「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)水利権について当事者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある」と述べたから、いまだに東京電力の「田代ダム取水抑制案」が「水利権」との関係で行うと“勘違い”していることも明言したのだ。昨年夏の田代ダム視察に同行した辻一幸・早川町長。「取水抑制案」を東京電力に提案したのは辻町長だという(静岡市、筆者撮影)「検討の余地がある」と回答した難波氏は、「水利権」に触れないで東京電力が取水抑制できることを承知していたのだろう。しかし、川勝知事の「検討の余地がある」は、そうではなかった。12月27日の会見で、記者たちの“一斉攻撃”を受けて、仕方なく、「検討の余地がある」と口にしただけのことで、「水利権」について全く理解していなかったのだ。
「検討の余地がある」とは、2022年12月27日の定例会見で記者たちの“一斉攻撃”を受けて、嘘やごまかしがきかないと見て、川勝知事が最後に述べた言葉である。しかし、1月4日の年頭あいさつで、あらためて「検討の余地がある」と述べながらも、やはり川勝知事は“本性”を露呈してしまったのだ。
田代ダムは大井川水系唯一の東京電力の発電用ダムで、山梨県早川町の田代川第二発電所、第一発電所に大井川の水が使われた後、山梨県の富士川水系に放流され、大井川に戻ってこない。中部電力の発電用ダムは32カ所あり、発電所18カ所で大井川の水が使われ、すべて大井川に戻されている。
東京電力は毎秒4.99立法メートルの水利権を有し、単純に計算すれば、日量約43万立法メートル、月量約1300万立法メートルという膨大な水を静岡県から山梨県に放出している。その代わり、静岡県は東京電力から毎年、流水占用料約3000万円をもらっている。
“世界最大級の断層地帯”がある山梨県境西側の南アルプスリニアトンネル静岡工区で、JR東海は作業員の安全確保を踏まえ、山梨県側から掘削する。
このため、工事期間中(約10カ月間)に最大500万立法メートルの水が山梨県に流出する試算を示したが、国の有識者会議は「山梨県への流出量は非常に微々たる値であり、大井川下流域の水環境に全く影響はない」と結論づけた。ところが、「静岡県の水は一滴も県外へ流出させない」、「工事中の全量戻しがJR東海との約束」などと川勝知事がごり押しを続けた。
このため、JR東海は2022年4月の県専門部会で、山梨県へ湧水が流出する工事期間中、田代ダム取水を東京電力に一時的に抑制してもらい、県外流出量分を取水しないことを、東京電力の内諾を得た上で提案した。
2022年8月に発刊した拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事「命の水」の嘘』(飛鳥新社)の第2章「静岡県庁のごまかし全内幕」で、JR東海の田代ダム取水抑制案を、「東京電力の一時的かつ自主的な取水抑制であり、水利権にからまない方策」と指摘した。
さらに会議後の囲み取材で、静岡県リニア問題責任者、難波喬司副知事(当時)が田代ダム取水抑制案を「検討の余地がある」と評価したことも同書で紹介した。この時点で、事務方は、水利権にからまない提案であり、「検討の余地がある」と述べていたことになる。
大井川にある田代ダムの案内板(静岡市、筆者撮影)
ところが、県専門部会直後の会見で川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる」、「突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」など飛んでもない勘違いをして、田代ダム取水抑制案に強く反発した。難波氏は川勝知事に詳しく説明したはずだが、川勝知事は難波氏ら事務方の説明を無視したのか、あるいは理解できなかったのかのどちらかである。つまり、2022年4月の時点で、県庁組織はすでに「機能不全」状態に陥っていた。田代ダム取水抑制案を受けて、8月に田代ダムの現地視察を行った。視察後の囲み取材で、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」という発言に終始した。その後の会見の度に、「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水をちゃんと循環させて戻すということ」などと訳の分からないことを繰り返している。JR東海は2022年10月31日、12月4日の2回にわたる県専門部会で「田代ダム取水抑制案」が水利権にからまないことを詳しく説明した。さらに、10月31日の会議では、国土交通省の吉田誠参事官が、政府見解として田代ダム取水抑制案が水利権に関わる河川法に触れないことを明言した。JR東海の提案時から田代ダムの水利権に強い関心を示していた、静岡県河川審議会会長を務める大石哲委員(神戸大学都市安全研究センター教授)も、同会議の説明を了解した。12月4日会議後の囲み取材で、森貴志副知事は「田代ダム取水抑制案がJR東海の工事中の全量戻しに有効であると川勝知事も認識している」と明言した。それにも関わらず、川勝知事は12月16日の会見で「田代ダム取水抑制案は別の事柄(JR東海の地域貢献)、南アルプス工事と結びつくものではない」と否定してしまった。その後の記者らの質問攻めに、森副知事は川勝知事と協議したとして、「知事も『検討の余地がある』と認識している。誤解を生じさせた」と知事発言を訂正した。 川勝知事の「真っ赤な嘘」ところが、12月27日の会見で、川勝知事は「全量戻しは掘削中に出る水をすべて戻すことであり、田代ダム取水抑制案は全量戻しとは違う認識」などと森副知事の発言を“ちゃぶ台返し”して、県庁組織の「機能不全」が深刻化していることをはっきりとさせた。記者たちが強く反発して、森発言との食い違いを厳しく追及すると、時間切れ直前に、川勝知事は「検討の余地がある」と折れざるを得なかった。そして、1月4日の年頭あいさつでも「検討の余地がある」と述べたのである。その発言にも関わらず、前段で「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)水利権について当事者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある」と述べたから、いまだに東京電力の「田代ダム取水抑制案」が「水利権」との関係で行うと“勘違い”していることも明言したのだ。昨年夏の田代ダム視察に同行した辻一幸・早川町長。「取水抑制案」を東京電力に提案したのは辻町長だという(静岡市、筆者撮影)「検討の余地がある」と回答した難波氏は、「水利権」に触れないで東京電力が取水抑制できることを承知していたのだろう。しかし、川勝知事の「検討の余地がある」は、そうではなかった。12月27日の会見で、記者たちの“一斉攻撃”を受けて、仕方なく、「検討の余地がある」と口にしただけのことで、「水利権」について全く理解していなかったのだ。
ところが、県専門部会直後の会見で川勝知事は「JR東海は関係のない水利権に首を突っ込んでいる」、「突然、水利権の約束を破るのはアホなこと、乱暴なこと」など飛んでもない勘違いをして、田代ダム取水抑制案に強く反発した。難波氏は川勝知事に詳しく説明したはずだが、川勝知事は難波氏ら事務方の説明を無視したのか、あるいは理解できなかったのかのどちらかである。
つまり、2022年4月の時点で、県庁組織はすでに「機能不全」状態に陥っていた。
田代ダム取水抑制案を受けて、8月に田代ダムの現地視察を行った。視察後の囲み取材で、川勝知事は「田代ダム取水抑制案はJR東海の地域貢献であり、リニア工事中の全量戻しにはならない」という発言に終始した。
その後の会見の度に、「全量戻しとはトンネル掘削中に出る水をちゃんと循環させて戻すということ」などと訳の分からないことを繰り返している。
JR東海は2022年10月31日、12月4日の2回にわたる県専門部会で「田代ダム取水抑制案」が水利権にからまないことを詳しく説明した。さらに、10月31日の会議では、国土交通省の吉田誠参事官が、政府見解として田代ダム取水抑制案が水利権に関わる河川法に触れないことを明言した。
JR東海の提案時から田代ダムの水利権に強い関心を示していた、静岡県河川審議会会長を務める大石哲委員(神戸大学都市安全研究センター教授)も、同会議の説明を了解した。
12月4日会議後の囲み取材で、森貴志副知事は「田代ダム取水抑制案がJR東海の工事中の全量戻しに有効であると川勝知事も認識している」と明言した。それにも関わらず、川勝知事は12月16日の会見で「田代ダム取水抑制案は別の事柄(JR東海の地域貢献)、南アルプス工事と結びつくものではない」と否定してしまった。その後の記者らの質問攻めに、森副知事は川勝知事と協議したとして、「知事も『検討の余地がある』と認識している。誤解を生じさせた」と知事発言を訂正した。
川勝知事の「真っ赤な嘘」ところが、12月27日の会見で、川勝知事は「全量戻しは掘削中に出る水をすべて戻すことであり、田代ダム取水抑制案は全量戻しとは違う認識」などと森副知事の発言を“ちゃぶ台返し”して、県庁組織の「機能不全」が深刻化していることをはっきりとさせた。記者たちが強く反発して、森発言との食い違いを厳しく追及すると、時間切れ直前に、川勝知事は「検討の余地がある」と折れざるを得なかった。そして、1月4日の年頭あいさつでも「検討の余地がある」と述べたのである。その発言にも関わらず、前段で「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)水利権について当事者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある」と述べたから、いまだに東京電力の「田代ダム取水抑制案」が「水利権」との関係で行うと“勘違い”していることも明言したのだ。昨年夏の田代ダム視察に同行した辻一幸・早川町長。「取水抑制案」を東京電力に提案したのは辻町長だという(静岡市、筆者撮影)「検討の余地がある」と回答した難波氏は、「水利権」に触れないで東京電力が取水抑制できることを承知していたのだろう。しかし、川勝知事の「検討の余地がある」は、そうではなかった。12月27日の会見で、記者たちの“一斉攻撃”を受けて、仕方なく、「検討の余地がある」と口にしただけのことで、「水利権」について全く理解していなかったのだ。
ところが、12月27日の会見で、川勝知事は「全量戻しは掘削中に出る水をすべて戻すことであり、田代ダム取水抑制案は全量戻しとは違う認識」などと森副知事の発言を“ちゃぶ台返し”して、県庁組織の「機能不全」が深刻化していることをはっきりとさせた。記者たちが強く反発して、森発言との食い違いを厳しく追及すると、時間切れ直前に、川勝知事は「検討の余地がある」と折れざるを得なかった。
そして、1月4日の年頭あいさつでも「検討の余地がある」と述べたのである。その発言にも関わらず、前段で「(水利権について)当事者でもない(JR東海が)水利権について当事者である東京電力との関係を明らかにされる必要がある」と述べたから、いまだに東京電力の「田代ダム取水抑制案」が「水利権」との関係で行うと“勘違い”していることも明言したのだ。
昨年夏の田代ダム視察に同行した辻一幸・早川町長。「取水抑制案」を東京電力に提案したのは辻町長だという(静岡市、筆者撮影)
「検討の余地がある」と回答した難波氏は、「水利権」に触れないで東京電力が取水抑制できることを承知していたのだろう。しかし、川勝知事の「検討の余地がある」は、そうではなかった。12月27日の会見で、記者たちの“一斉攻撃”を受けて、仕方なく、「検討の余地がある」と口にしただけのことで、「水利権」について全く理解していなかったのだ。