金沢市内のアパートで去年4月、寝ていた女性を刃物で刺したとして、殺人未遂などの罪に問われている女(35)の裁判員裁判が26日、金沢地裁で始まりました。女は「殺意がなかった」として、争う姿勢を示しました。
この事件は、去年4月12日の夜、金沢市有松のアパートの1室で、寝ていた当時31歳の女性を包丁で刺したとして、富山県砺波市内の介護福祉士・佐藤果純被告(35)が殺人未遂と住居侵入の罪に問われているものです。
26日、金沢地裁で開かれた初公判に、佐藤被告は黒色のワンピースで姿を現しました。検察官が読み上げた起訴状に間違いがないか問われると、佐藤被告は小さな声で「『殺害しようと計画した』ところ、『殺意を持って』というところが違います」と述べ、殺意を否定しました。
検察側の冒頭陳述などによりますと、佐藤被告は当時、富山県砺波市内で子供2人と生活していて、勤め先の介護施設で責任者を務めていました。被害者の夫は介護施設の部下に当たり、事件のおよそ1年前から不倫関係になったといいます。
佐藤被告はシフトを管理する責任者を務めていて、裁判所に証拠として提出された去年1月と2月の勤務表では、佐藤被告と女性の夫の夜勤の日が、いずれも同じ日になっていました。弁護側は、夫から佐藤被告に関係を迫ったと主張しています。
去年2月、佐藤被告が「不倫関係がバレたらどうするのか」と尋ねると、被害者の夫は「被害者(妻)以外と結婚するつもりはない」と佐藤被告に告げます。検察は、これを機に佐藤被告が被害者に対し、嫉妬に似た気持ちを抱いたと主張しました。そして事件のおよそ1週間前、佐藤被告は被害者の夫と一緒に夜勤のシフトに入り、無断で被害者の自宅の鍵を手に入れたとしました。
事件当日の4月12日、2人の勤務形態は異なりました。佐藤被告は日勤、被害者の夫は夜勤で、佐藤被告が被害者の夫に仕事を引き継ぐと、自宅に戻り、服を着替えて、被害者の家近くのコンビニに車を止めたとされています。午後9時半すぎには、被害者の夫に「(被害者の夫)くん、いつもありがとう」とLINEを送っていました。
佐藤被告は、用意した合鍵でアパートの玄関を開け、両手にゴム手袋をはめると、包丁を手に被害者のいる2階の寝室へ向かい、赤ちゃんと一緒に寝ていた被害者を見つけました。
26日の裁判には、被害者の女性も証言台に立ちました。
女性は事件のあった夜、布団の上に誰かに乗られ、腹にものさしのようなものを押し付けられている感覚で目を覚ましました。最初は夫がいたずらをしているのかと思いましたが、痛みから逃れようと相手の両腕を押しのけようとした際、その肉付きから夫とは違うと気付きます。
腹には銀色のものが押し当てられていて、薄明りの中で掴むと指が切れ、初めて刃物だと気づきました。
「ギャー!助けて、殺される!」叫び声をあげ、女性は抵抗を続けましたが、腹部を複数回刺されました。佐藤被告は馬乗りになって、全体重をかけるように包丁を押し当ててきたといいます。
隣で寝ていた赤ちゃんが泣き叫ぶ中、なんとか佐藤被告を押しのけた女性は、包丁を持つ佐藤被告の両手を毛布で包み、攻撃は落ち着きました。助けを呼ぼうと、女性が近くにあった携帯電話を手に取ろうとしたとき、佐藤被告が「離して」と声を上げ、女性ははじめて、佐藤被告が女性だと気づいたといいます。
佐藤被告が「ケータイ貸して、赤ちゃん泣いとるよ」と怒った口調で女性に話します。女性は赤ちゃんにも危害が加えられると思い「何もしませんか?」と尋ねると、佐藤被告は「しない」と返答。半信半疑のまま、携帯電話を渡すと、佐藤被告は女性の手の届かないところに置き直しました。
女性「誰ですか」佐藤被告「あんたは知らなくていい」女性「なんでこんなことするんですか」佐藤被告「殺したいから」女性「なんでもするから殺さないで」佐藤被告「じゃあ死んで」女性「救急車呼んで」佐藤被告「ダメに決まっとるやろ」

佐藤被告に淡々と言われ、女性は殺されると感じたといいます。
女性「今まで悪いことしたことないがんに、なんでこんなことされんなんがんや」佐藤被告「あんたが生きとること自体ダメだから」女性「今なら逃げれるからどっか行って」佐藤被告「あんたが死んだらね」女性「最後に泣き止ませるために授乳させて」佐藤被告「いいよ」女性「この子、私おらな生きてけん」佐藤被告「そんなことないから」

女性の叫び声は住宅街に響き渡り、近所の住民から通報を受けた警察がしばらくして到着しました。女性は窓をたたき「助けてください、殺されます、2階です」と助けを求めました。
部屋に入った警察官に刺された腹を見せると、佐藤被告は「刺していない」と反論。しかし、マットレスの下に隠してあった包丁が見つかると、佐藤被告は殺人未遂罪で現行犯逮捕されました。女性は救急車で病院に運ばれ、3日間入院したということです。
検察官から佐藤被告の主張についての思いを聞かれた女性は「嘘だと思いました。明らかに殺すつもりで刺しに来ていた。『殺したい』『死んで』と言われた」と話しました。
そして「手紙でもいいから謝罪が欲しかった。許したい気持ちも1割くらいあるが、(佐藤被告が)殺意も認めないし、謝罪もないので許せない」と涙ぐみながら話しました。
一方、弁護側は、佐藤被告には女性を傷つけたいという動機しかなく、致命傷もなかったことから、傷害罪にとどまると主張。女性を刺したあと、「なんてことをしてしまったんだろう」と冷静になり、攻撃をやめたことから、仮に殺人未遂罪であっても中止犯が成立するとして、刑を軽くするよう求めました。
最大の争点の「殺意」について、真っ向から対立した両者の主張。裁判員裁判の審理は2月6日まで続き、2月15日に判決が言い渡されます。