「逝きし世の面影」などの著作で日本の近代を問い続けた思想史家の渡辺京二(わたなべ・きょうじ)さんが25日、老衰のため死去した。
92歳だった。告別式は27日午後1時、熊本市東区健軍4の17の45真宗寺。喪主は長女、山田梨佐さん。
京都市生まれ。戦後、満州(現中国東北部)から親族のいた熊本市に引き揚げた。法政大卒業後、書評紙の編集者を経て熊本に戻り、1965年に雑誌「熊本風土記」を創刊。熊本県水俣市の主婦だった石牟礼道子の「苦海浄土」の初稿を掲載し、2018年に石牟礼が死去するまで半世紀にわたって執筆を支えた。
1998年刊行の「逝きし世の面影」は幕末・維新期の欧米人の日本滞在記を手がかりに、貧しくても精神的に豊かに暮らす庶民の姿を浮かび上がらせた。2000年に和辻哲郎文化賞を受賞した。近代日本の思想史をたどる「神風連とその時代」「北一輝」などの著作も執筆。日本と西洋文明との最初の接触を描いた「バテレンの世紀」で19年、読売文学賞を受賞した。
作家の池澤夏樹さんの話「歴史を物語として、人間を真ん中に置いてつづられた。最期まで現役を貫き、日本の歴史を東京や京都から見下ろすのでも、地元の熊本に寄りかかりすぎるのでもなく、人々の生活の変容から描かれた方でした」