新型コロナウイルス禍で3度目の年末年始がやって来た。
行動制限の緩和で初詣には多くの人出が見込まれ、寺社や警察は雑踏事故の対策を強化する。一部で医療提供体制が逼迫(ひっぱく)してきた地域もあり、感染予防も求められる。(染木彩、野口恵里花)
■■行事復活
早くも門松が飾られ、多くの参拝客でにぎわう東京・浅草の浅草寺。担当者は「ここ数か月のにぎわいから、初詣はコロナ禍前に迫る人出になるのでは」と予想する。
正月三が日の参拝客は、2020年に過去最多の296万人に上ったが、コロナ禍に入った21年は64万人に急減。感染状況が落ち着いていた今年は186万人まで回復した。10月の水際対策緩和で外国人観光客も増えており、新年は250万人超を見込む。
コロナ禍で縮小していた行事の内容を復活させた寺社もある。
明治神宮(東京都渋谷区)は、家内安全などを願う「祈願祭」での舞や笛などの奉納を20年4月から中止していたが、今年10月に再開。元旦から始まる来年の祈願祭の予約も好調で、広報担当の福徳美樹さんは「安心、安全で静かにお参りできる環境を整えたい」と話す。
■■回り道増設
人出の増加で危惧されているのが、雑踏事故だ。10月には、ハロウィーン前に多くの人が繰り出した韓国ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で日本人留学生2人を含む約160人が死亡する惨事が起きた。
東京都内では、年末年始に多くの人出が見込まれる寺社などに多数の警察官が出動し、危険な場合は通行規制を行うなどして事故防止にあたる。警視庁浅草署によると、浅草寺では本堂までの参道を一方通行にして誘導するほか、本堂への階段で転倒事故が起きないよう集団を区切って参拝を促すという。
住吉大社(大阪市)は、三が日に前年の1・6倍の150万人前後が訪れると見込み、混雑時の迂回(うかい)路を従来の2ルートから3ルートに増やす。三が日以外の「分散参拝」も呼びかけ、干支(えと)のお守りの授与期間も来年3月までに延ばした。
■■イベント自粛
新型コロナウイルス感染拡大の第8波は続いており、自粛を余儀なくされているイベントや地域もある。
JR渋谷駅前で大みそかから元日にかけて行われるカウントダウンは、コロナ禍前は約10万人が集まる一大イベントだったが、新型コロナ対策のため3年連続で中止が決まった。
岐阜県は今月23日、感染拡大で医療に負荷がかかっているとして、「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を出した。県民に対し、帰省前後の検査や、感染リスクが高い場所への外出自粛を求めている。
厚生労働省の助言機関の脇田隆字座長(国立感染症研究所長)は「ワクチン接種に加え、帰省時には地域の医療機関を確認することが重要だ。抗原検査キットや解熱剤も準備してほしい」と呼びかけている。
■国内旅行者16%増、2100万人か
年末年始は、帰省や旅行などで人の移動も増える見込みだ。
旅行大手のJTBは、年末年始(12月23日~1月3日)の国内旅行者が前年比16・7%増の2100万人に上ると予想する。家族での旅行が増えるとみている。
東京都墨田区の旅館「葡萄の長屋」は、年末年始は訪日客を中心に予約でいっぱいという。2017年に同旅館を開いた金谷直政さん(59)は「コロナ禍でいったん営業をやめることも考えたが、今年は日本人客も増え、観光需要が戻りつつある。来年も今のペースでたくさんの観光客に来てほしい」と期待していた。