東京・池袋の高層複合施設「サンシャイン60」の58階にあるフレンチレストランで10月16日夜に発生した、不良グループ「チャイニーズドラゴン」のメンバー約100人による乱闘騒ぎは、団体としての法規制外であるとの問題点が浮上した。警察当局はチャイニーズドラゴンについて、暴力団に準ずる危険な団体として、「準暴力団」と位置付けて動向の把握に努めている。準暴力団は報道によっては、「半グレ」と称されることもある。現状では暴力団対策法の規制の対象外となっているのが実態で、「ヤクザよりやっかいな存在」(警察当局の捜査幹部)との指摘もある。
「半グレの連中はやりたい放題だ」
首都圏で活動を続ける指定暴力団の古参幹部が、チャイニーズドラゴンの乱闘騒ぎについて語る。ここで言う、やりたい放題とは、レストランという公共の場での乱闘騒ぎだけでなく、リーダーの出所祝いの宴席を開いていたことを指すのだという。
事件について振り返ると、16日夜、サンシャイン60のフレンチレストランでチャイニーズドラゴンのメンバー約100人が集まり、刑務所に服役していたリーダーの出所祝いが行われていた。宴席が始まって早々に乱闘騒ぎが始まり警察が駆け付ける事態となった。
古参幹部は、
「ヤクザは現在、レストランでの宴会などは反社会的勢力だということで集団での利用はできなくなっている。レストランだけではない、ホテルにも宿泊できず、ゴルフのプレーもできない。車も買えない、賃貸住宅の契約もできない。銀行口座も解約されてしまう。『反社認定』されてから何もかもダメだ」
と明かす。
こうした事情は、政府の犯罪対策閣僚会議で「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が2007年6月に定められたためだった。飲食店やホテルなどでは客が利用するにあたり、「暴力団排除条項」が導入された。用意された書面で、「暴力団など反社会的勢力に属していますか?」との質問に対して、「属していない」としたうえで利用したとして、暴力団幹部が逮捕される事件が相次いだ。
当初は暴排条項を取り入れる店舗などは少なかった。しかし、次第に反社への意識が高まり、現在では多くの飲食店、ホテル、ゴルフ場などで採用されている。
最近では今年8月、指定暴力団道仁会の会長が身分を隠してホテルに宿泊したとして、詐欺容疑で福岡県警に逮捕された。会長は9月にも別のホテルに宿泊したことで再逮捕されている。長年、組織犯罪対策を担当してきた警察当局の捜査幹部は、「暴排条項があるため、そもそもヤクザは宴会を開けないことになっている。ヤクザはこの点をよく理解していて、まず目立つような宴会はやらない」と述べている。
さらに、暴対法には「賞揚等の禁止」といった規定があるため、前出の古参幹部は「出所祝いというのも、ヤクザに認定されていると禁じられている」と説明を加える。
この規定は、暴力団同士の対立抗争で暴力行為などの事件を引き起こし刑務所に服役した指定暴力団の組員を対象に、慰労金や出所祝い金など金品の授受を禁じている。2008年8月に改正された暴対法に盛り込まれた。六代目山口組在籍時に宅見組組長の入江禎が2010年12月、暴対法違反容疑で逮捕されたことがある。
暴力団については、暴力団対策法に基づいて指定されると様々な規制の対象となるが、準暴力団、半グレは暴対法の対象外なのが現状だ。殺人や詐欺などの事件を引き起こせば刑法犯としての捜査の対象となるが、事実上、危険な団体としての暴対法のような法規制はないのが実態となっている。
前出の指定暴力団の古参幹部はさらに、「ヤクザになると、行儀見習いや、特有のしきたりなど色々と面倒なことがある。ヤクザにはなりたくないけど、ヤクザのような生活をしたいという若い連中は半グレになる」とも語る。
同様の趣旨で、前出の警察当局の幹部も指摘する。
「ヤクザになると、親分の盃をもらって正式に若い衆の一員として迎えられる。盃で結び付けられるため、組織から出たり入ったりということは『恥』だと思うようで、こうした動きはまずない。彼らなりのモラルと言えそうだ」
その上で半グレについて述べる。
「半グレはヤクザとはまったく違い、グループのメンバーの出入りが自由だ。あるグループのメンバーだと把握できても、しばらくすると別のグループと一緒に活動していることも多々ある。つかみどころがない。暴力団は組織性があるが、半グレは暴力団以上にやっかいな存在だ」
(文中敬称略)
取材・文:尾島正洋ノンフィクションライター。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当し、フリーに。近著に『山口組分裂の真相』(文藝春秋)