◆報道されない災害の辛さ
9月24日、台風15号の接近により記録的大雨となった静岡県静岡市。7つの地点で観測史上最多の雨量を記録し、断水は6万戸、そして5393棟の住宅が浸水した。
これだけの被害があったのにもかかわらず、当初は全国的な報道はほとんどされなかった。その理由の1つとして、「3日後に迫った安倍元首相の国葬のニュースで持ちきりだったから」ということが挙げられる。1ヶ月経った今でも、これだけの被害が出ていることを知らない人も多いだろう。
被災した人の現状を聞くため、被害の大きかった清水区に住むMさん夫婦を取材した。
◆被害額は1000万円にも上る
今回話を聞いた40代のMさん夫婦が、清水区にマイホームを購入したのは6年前のこと。35年ローンで購入した自宅が、今回の大雨で半壊状態となり、リフォームせざるを得ない状況になった。浸水によって壊れてしまった家具や家電製品などを含めると、損害額は1000万円にも上るという。
まずは、今回の災害が全国的に報道されなかったことについての話を聞いた。あまりに報道されなかったことにより、都内に住む娘でさえも、当初はさほど心配していなかったようだ。
「報道されていないから、こんなに大事になっていることが伝わらなくて、遠方に住む身内でも『大袈裟に言ってるんじゃないの?』と思ったようです。
東京に住んでいる娘に電話で伝えた時も反応が薄くて……。最初はあまり心配していなかったようですが、3~4日経って徐々にTwitterで情報が回ってきたみたいで、『お母さんごめんなさい。お水送ろうか?』と言われました。災害の直後に報道されなかったことで、遠方に住む身内に頼ることができなかったというのはありますね」
◆ボランティア団体の活動も遅れる
ここまでの災害が発生した場合、直後に全国からボランティア団体が駆けつけてくれることが多い。しかしあまりに報道されなかったことで、動きやすい連休中だったにもかかわらず、ボランティア団体の活動が始まるのも遅れてしまったようだ。
「災害から数日後にボランティアの方々が来てくれましたが、報道されていたらもっと早く来てくれていたかと思います。例えば清水区大内とかの話だと、家に泥が入ってきてしまっていたようで……。直後なら外に出しやすいですが、ボランティアの方々が来てくれたのは、乾いて土になってしまった後だったと聞きました。これもあまり報道がされなかった弊害ですよね」
◆断水は乗りきったが、まだ終わっていない
そして、SNSでの拡散などによって徐々に知れ渡っていった被害状況。広範囲に及んだ断水の情報が広まる一方で、浸水に関する情報はそこまで広がらなかったようだ。
「私たちの場合、自宅は断水はしていましたが、会社は断水していない地域にあったので、水をもらうことはできました。でも入れる容器がなかったのでポリタンクを買いに行ったのですが、どこのお店も売り切れで……。お店の人に『東なら御殿場(清水区から約61キロ)まで行かないと売っていません』と言われました。結局、浜松に住んでいる兄が買ってきてくれて事なきを得たのですが。
でも徐々に広がっていった情報のおかげで地方からお水が大量に届いたことと、浜崎あゆみさんなどの有名人が水を持ってきてくれたこともあって、断水生活はなんとかなりました。

被災した人を対象に、申請すれば市営住宅に無料で住めるとの話を聞いたので、私達もリフォームのために一時的に住ませてもらうことにしました。ただ工事が全く追いついていないようで、いつリフォームがスタートできるかわかりません。人手が足りていないので、可能なら建設業の方々に一時的に静岡出張してほしいくらいです……」
◆新築に入居した初日に被災した人も…
浸水のピークとなったのは、秋分の日である9月23日の夜中。この日は大安であり、さらに引越しに適していると言われている「一粒万倍日」とも重なり、9月で最も縁起の良い日であった。
それゆえに引越しをした初日の家族や、納車をした初日の人もいたようだ。
「私達が住むところと少し離れたところで、新築の家が立ち並ぶ一帯がありまして、聞いた話だと『引っ越した初日の夜に浸水した』という人もいたそうです。他にも、高級外車の納車した日だったという人もいました。私達も大変ですが、新築初日での災害を想うと言葉が出ません……。
この地域には、そういった悲しくて辛い思いをした人がたくさんいます。静岡県が12月末まで募集している義援金は、被災した人に分配されるそうなので、少しでも報道してもらって多くの義援金を頂けることを祈っています」
◆家が浸水した家庭はここからが大変
今回取材したのは、被災からちょうど1ヶ月経った10月23日。「これでもかなりキレイになりました」と話すMさん夫婦に案内してもらい被災地域を見て回ったが、道路が土で汚れていたり、再開の目処が立たずに閉店状態の飲食店もあり、爪痕はハッキリと残っていた。
「ここからまだ困難な壁がいくつもあるんです」と語るMさん夫婦。水に浸かったことで壊れてしまった家電、カビの生えた家具の修理や買い替え、そしてリフォームのための一時的な引越しもある。
特に今回の災害は、あまり報道されなかったことにより自力で復旧作業をしている人が多い。ただ、本当は助けを必要としている人はたくさんいるのだ。
なお、静岡県公式ホームページでは、12月末まで義援金を募集している。協力できる人は是非とも行動してほしい。
取材・文/セールス森田