今年上半期(1~6月)の「特殊詐欺」の被害額は148億8000万円にのぼり、上期としては8年ぶりの増加に転じた。手口ごとの被害額を見ると、親族などを装う“オレオレ詐欺”が約49億7000万円と最も多く、被害に遭った9割近くが65歳以上の高齢者だ。なぜ「振り込め詐欺」がいまになって増加傾向を見せているのか。その背景には中国人犯罪集団の存在が大きく関係しているという。
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【写真】詐取金が地下銀行経由で送金された事件では中国人の逮捕者も 現在公開中の話題の韓国映画「声/姿なき犯罪者」は近年、隣国でも被害が急増している振り込め詐欺をテーマにしたものだ。監督自身が「ほぼ事実」と語る同映画が描き出すのは、詐欺グループの拠点も幹部らの居住地も「中国にある」という、現在の特殊詐欺の“国際化”だ。

狙いは高齢者のタンス預金(※写真はイメージ) 韓国だけでなく、特殊詐欺と中国が不可分な関係にあるのは日本も同じ。ただし“オレオレ詐欺の発祥国”とされる日本の場合、中国側の関与はピンポイントながら「決定的に重要な役割」を果たしているという。 詐欺グループの関係者が話す。「振り込め詐欺で一番重要なツールは“アシのつかないスマホ”。この確保に際して、いまや中国人の存在は欠かせない。詐欺に使うスマホはいわゆる“道具屋”と呼ばれる業者から購入するが、道具屋が“安全なスマホ”をわれわれに卸せるのは、中国人ハッカーによる日本人をターゲットにしたクレジットカード情報の大量窃取があってこそ。中国人の“貢献”を抜きに、いまの特殊詐欺の勢いは語れない」日本を狙った専門のハッキング部隊「道具屋」関係者がこう解説する。「たとえばダークウェブなど“裏マーケット”でも日々、クレジットカード情報は売買されていて、日本人のクレジットカード情報も大量に流通している。裏マーケットだと1件3000円程度でカード情報は買えるが、その分“死んでいる(使えない)”カードも多く、当たり外れが大きいのが悩みの種。一方、中国人から買う日本人のクレジットカード情報は動作確認済みの“生きた”カードのみ。その分、値は張って1件につき取引価格は6000円~8000円程度になる」 動作確認とは、クレジットカード情報を窃取した中国人グループが日本の旅行サイトなどを使い、そのカードで予約を入れるなどしてカードの使用状況を確認することを指す。予約の確定前に取り消すといった方法で1枚1枚チェックしているという。「こちらは取引相手の中国人の名前も顔も知らない。基本、テレグラムやLINEでやり取りするのみ。中国マフィアの関係者と思うが、モノは確かなので詮索することはない。彼らからカード情報を本格的に買うようになったのはここ1年くらいだが、“中国人の情報は精度が高い”とすぐに評判になった。理由を聞くと納得だが、組織内に日本のECやショッピングサイトのセキュリティをチェックする専門のハッカー部隊を持っているそうで、セキュリティの甘いサイトを見つけると“トラップ”を仕掛けると聞いている」(同)“入力に間違い”は危険サイン? 具体的にどうやって日本人のクレジットカード情報を窃取しているのか。 誰しもネットショッピングで商品を購入する際、カード情報や住所などを入力する登録画面に入ったことはあるはずだ。中国人はセキュリティの甘いサイトに侵入すると、利用者が登録画面に移る際、先に本物と瓜二つのニセの登録ページを表示させる仕掛けを施すのだという。「利用者が情報を入力後、完了ボタンを押したら“入力に間違いがありました”とのメッセージを出し、今度は本物の登録ページに飛ぶ仕掛けで、偽ページで入力した情報を丸ごと詐取しているという。“そんなことができるのか?”と思うかもしれないが、彼らに言わせると“ソースコードを拾えれば、それほど難しくない”という。中国の犯罪集団のハッキング技術は日本のハッカーの一歩も二歩も先を行っている印象だ」(同) 実際のところ、再入力となってもアルファベットの大文字・小文字やハイフンなどを打ち間違えたと考え、誰も不審に思わないのだとか。そうやって詐取された情報には、名前やカード番号だけでなく、住所に生年月日、携帯番号なども網羅されているケースが大半という。1グループで年間数千万円の犯罪収益 詐取されたカード情報をもとに、日本の道具屋が“トバシ携帯”として「商品化」するのが次のステップだ。「カード形式でなく端末埋め込み型のeSIMを使えば、契約には身分証明書も不要ですべてオンラインで完結する。メールアドレスも任意で設定できるので、本当のカード所有者には請求書や口座からの引き落としがあるまで気付かれない。不正契約が発覚してスマホの利用が停止されるまでおよそ2カ月。期間限定の商品だが安全は保証できるので、1台3~5万円で詐欺グループに売っている」(同) カード情報を詐取された携帯契約者と詐欺グループの接点はゼロ。しかも道具屋はオンラインで携帯を契約する際にVPN(仮想専用通信網)などを使って契約元の特定を困難にしているという。「中国人は1日に数百件のカード情報をこちらに送ってくるので、ほぼ毎日のように組織的に日本人のクレジットカード情報を盗んでいるはず。こちらが取り引きしている中国人組織には多い時で1日50万円近く支払うこともあり、年間で換算すると数千万円の支払いになる。同じようなハッカー部隊を抱える中国人の犯罪組織は他に十数グループほど存在すると聞くので、中国に流れる犯罪収益はかなりの額にのぼっている」(同) 犯罪に加担するだけでなく、違法な収益を貪る中国人の“蛮行”を止める術はあるのか。デイリー新潮編集部
現在公開中の話題の韓国映画「声/姿なき犯罪者」は近年、隣国でも被害が急増している振り込め詐欺をテーマにしたものだ。監督自身が「ほぼ事実」と語る同映画が描き出すのは、詐欺グループの拠点も幹部らの居住地も「中国にある」という、現在の特殊詐欺の“国際化”だ。
韓国だけでなく、特殊詐欺と中国が不可分な関係にあるのは日本も同じ。ただし“オレオレ詐欺の発祥国”とされる日本の場合、中国側の関与はピンポイントながら「決定的に重要な役割」を果たしているという。
詐欺グループの関係者が話す。
「振り込め詐欺で一番重要なツールは“アシのつかないスマホ”。この確保に際して、いまや中国人の存在は欠かせない。詐欺に使うスマホはいわゆる“道具屋”と呼ばれる業者から購入するが、道具屋が“安全なスマホ”をわれわれに卸せるのは、中国人ハッカーによる日本人をターゲットにしたクレジットカード情報の大量窃取があってこそ。中国人の“貢献”を抜きに、いまの特殊詐欺の勢いは語れない」
「道具屋」関係者がこう解説する。
「たとえばダークウェブなど“裏マーケット”でも日々、クレジットカード情報は売買されていて、日本人のクレジットカード情報も大量に流通している。裏マーケットだと1件3000円程度でカード情報は買えるが、その分“死んでいる(使えない)”カードも多く、当たり外れが大きいのが悩みの種。一方、中国人から買う日本人のクレジットカード情報は動作確認済みの“生きた”カードのみ。その分、値は張って1件につき取引価格は6000円~8000円程度になる」
動作確認とは、クレジットカード情報を窃取した中国人グループが日本の旅行サイトなどを使い、そのカードで予約を入れるなどしてカードの使用状況を確認することを指す。予約の確定前に取り消すといった方法で1枚1枚チェックしているという。
「こちらは取引相手の中国人の名前も顔も知らない。基本、テレグラムやLINEでやり取りするのみ。中国マフィアの関係者と思うが、モノは確かなので詮索することはない。彼らからカード情報を本格的に買うようになったのはここ1年くらいだが、“中国人の情報は精度が高い”とすぐに評判になった。理由を聞くと納得だが、組織内に日本のECやショッピングサイトのセキュリティをチェックする専門のハッカー部隊を持っているそうで、セキュリティの甘いサイトを見つけると“トラップ”を仕掛けると聞いている」(同)
具体的にどうやって日本人のクレジットカード情報を窃取しているのか。
誰しもネットショッピングで商品を購入する際、カード情報や住所などを入力する登録画面に入ったことはあるはずだ。中国人はセキュリティの甘いサイトに侵入すると、利用者が登録画面に移る際、先に本物と瓜二つのニセの登録ページを表示させる仕掛けを施すのだという。
「利用者が情報を入力後、完了ボタンを押したら“入力に間違いがありました”とのメッセージを出し、今度は本物の登録ページに飛ぶ仕掛けで、偽ページで入力した情報を丸ごと詐取しているという。“そんなことができるのか?”と思うかもしれないが、彼らに言わせると“ソースコードを拾えれば、それほど難しくない”という。中国の犯罪集団のハッキング技術は日本のハッカーの一歩も二歩も先を行っている印象だ」(同)
実際のところ、再入力となってもアルファベットの大文字・小文字やハイフンなどを打ち間違えたと考え、誰も不審に思わないのだとか。そうやって詐取された情報には、名前やカード番号だけでなく、住所に生年月日、携帯番号なども網羅されているケースが大半という。
詐取されたカード情報をもとに、日本の道具屋が“トバシ携帯”として「商品化」するのが次のステップだ。
「カード形式でなく端末埋め込み型のeSIMを使えば、契約には身分証明書も不要ですべてオンラインで完結する。メールアドレスも任意で設定できるので、本当のカード所有者には請求書や口座からの引き落としがあるまで気付かれない。不正契約が発覚してスマホの利用が停止されるまでおよそ2カ月。期間限定の商品だが安全は保証できるので、1台3~5万円で詐欺グループに売っている」(同)
カード情報を詐取された携帯契約者と詐欺グループの接点はゼロ。しかも道具屋はオンラインで携帯を契約する際にVPN(仮想専用通信網)などを使って契約元の特定を困難にしているという。
「中国人は1日に数百件のカード情報をこちらに送ってくるので、ほぼ毎日のように組織的に日本人のクレジットカード情報を盗んでいるはず。こちらが取り引きしている中国人組織には多い時で1日50万円近く支払うこともあり、年間で換算すると数千万円の支払いになる。同じようなハッカー部隊を抱える中国人の犯罪組織は他に十数グループほど存在すると聞くので、中国に流れる犯罪収益はかなりの額にのぼっている」(同)
犯罪に加担するだけでなく、違法な収益を貪る中国人の“蛮行”を止める術はあるのか。
デイリー新潮編集部