自民党の菅義偉前首相が存在感をじわりと増しつつある。
安倍晋三元首相の国葬で友人代表として弔辞を読んだのがきっかけだ。菅氏は脱炭素社会構築など自身の重視する政策課題に専念する姿勢を変えていないが、党内では岸田文雄首相の足元が将来揺らげば、後継を争う政局で影響力を発揮するのではないかとの見方も出ている。
菅氏は7~8日に沖縄県を訪問。16日告示の那覇市長選に出馬する候補者の事務所を訪ねて激励し、財界関係者らと面会を重ねた。沖縄問題は菅氏の「ライフワーク」(関係者)。敗北続きの沖縄の「選挙イヤー」を事実上締めくくる同市長選で、「何とか勝利をもぎ取りたい」(周辺)というわけだ。
菅氏は1年前の退陣以降、政府・党の要職に就いていない。周辺によると、首相の政権運営に「テンポが悪い」と不満を口にしつつも、表立った批判は控えている。
その菅氏に再び注目が集まったのは、先月27日の国葬で弔辞を読んでからだ。在任中に「言葉が響かない」と批判された菅氏が「本当に幸せだった」と声を詰まらせて安倍氏との日々を振り返ると、会場から異例の拍手がわき起こった。党幹部は「菅氏の弔辞で引き締まった」と語った。
菅氏は強権的な政権運営でも批判を浴びたが、首相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題の沈静化に手間取る中、その手法を「力強さ」と受け取る向きもある。中堅議員は「菅氏なら関係者を更迭して収束させるだろう」と首相と比較。菅氏に近い議員は「いずれ菅氏の再登板もあり得る」と期待を示す。
もっとも、菅氏は今のところ意欲を見せていない。かつて自身が安倍氏を説得したように、周囲から再登板を求められたらどうするかと2日のテレビ番組で問われると「状況が違う。自分の年齢も分かっている」と強調。自身のグループ立ち上げも「全く考えていない」と言い切った。
党関係者は「菅氏には力のある側近がおらず、再登板は考えにくい。しかし、党改革に向けて幹事長に就任する展開はあり得る」とみる。菅氏は将来の首相候補と目される河野太郎デジタル相や小泉進次郎元環境相と近く、「ポスト岸田」政局で発言力を強める可能性もささやかれている。