どんな業界にも、そこで働く人しか知らない「隠語」が存在する。ゾンビ、お化け、大きな忘れ物、脳梗塞……。これらはタクシー業界では誰もが知る、有名な隠語だ。いったいどういう意味か、みなさんはわかるだろうか? 物流ライターで、現役タクシードライバーでもある二階堂運人氏が、知ると面白いタクシー業界の隠語を紹介する。
よくメディアでタクシードライバーの恐怖体験などが取り上げられるが、そのタクシードライバーがボソッと怖い言葉を発したら、背筋を正してしまうかもしれない。「ゾンビ」や「お化け」が出たと聞いたら、どのように思うであろうか? 普通ならいいシチュエーションは思い浮かべないであろう。
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ライブコンサートやスポーツイベントには1か所に大勢の人が集まる。しかもこのイベントのために遠方から足を運ぶ人もいる。もちろんタクシードライバーたちはこのような情報を押さえておき、終了時間に合わせて乗客を狙いにいくのがセオリーである。街中で必死になって乗客を探すことなく、その会場に行けば難なく乗せられ、遠方客、いわゆる「ロング客」の頻度も繁華街並に高い。行けば乗せられるパラダイスであり、俗に言う「入れ食い」状態である。しかし、このようにタクシードライバーにとってのパラダイスも、時には様相が変わることもある。日曜日は比較的、タクシーの稼働台数は少ない。なぜなら休日に休むドライバーに加え、タクシー会社自体も定休日にしているところも多いからだ。イベントは、その需要と供給のバランスが崩れる休日に開催されることが多く、タクシー争奪戦となる。そこに天候の影響が加わると、さらに状況は激しくなる。特に天気予報にもないゲリラ豪雨のような大雨が発生した時などは異様な光景が広がる。タクシーを求めてあてもなく彷徨う人たち。空車で信号待ちしている時に、傘もささない人たちが四方からタクシー目がけて歩いてくる。まさしくその光景が映画の「ゾンビ」のように見えたことから、タクシー待ちの人がたくさんいる光景を失礼ながら「ゾンビ」というようになったらしい。タクシードライバーにとっては、言葉とは裏腹に稼ぎどころを意味するワクワクする隠語でもある。「ゾンビ」は条件さえあえばどこにでも現れる。六本木、歌舞伎町、銀座……。「六本木がゾンビだぞ!」など、現在でも比較的よく使われるタクシー隠語である。その「ゾンビ」にならないためにも事前にイベントの終了時間を見計らったり、天気予報を調べたりしてタクシーを予約配車しておくことをおすすめする。めったに出会わない「お化け」の正体また、「ゾンビ」と同じように背筋がゾーッとする隠語がある。東京都内の真夜中、人通りのいない道。無論、行き交う車もいない。そんな道を走っていると前方に人の姿が。よく見ると手を上げている。Photo by iStock 車を停めると髪の長い女性がうつむきながら乗ってきた。背筋がヒンヤリとしながらも行き先を尋ねると、ボソボソとか細い声で応える。「静岡まで」「お化けだ!」ドライバーは、その乗客の容姿を見て思ったのではない。行き先を聞いたからだ。乗客がいそうにないところで現れる、いわゆる超ロング客のことをゾンビ同様、失礼ながら「お化け」という。タクシードライバーが、運というものを感じられる時でもある。「ゾンビ」のように予想もできないのが「お化け」であり、その「お化け」の乗客を引くことがタクシードライバーの醍醐味である。真夜中にタクシーに乗っている時、真っ暗な道でタクシードライバーが、「このあたり、よくお化けが出るんですよね~」と言って周りをキョロキョロしている時は、二匹目のドジョウを狙っていると思われる。しかし、「お化け」でなく「幽霊」と言った場合、その真意はわからないが……。「ゾンビ」と「お化け」は、タクシードライバーにとっては、世間とは逆に歓迎されるものなのである。「大きな忘れ物」なるミステリアスな隠語タクシードライバーは職業柄、不特定多数の人を乗せ、様々な場所を行き交う。そして、常に街中から乗客を探している。ある意味、世間に目を光らせて日夜車を走らせているのだ。このような立場からか、事件が起こり逃走中の容疑者がいる場合、警察から捜査協力を依頼されることもある。Photo by iStock その時に使われるのが、「大きな忘れ物」という隠語である。「本日午後〇時ごろ、○○(場所名)からタクシーをご利用になった方の大きな忘れ物です」と無線で一報が入り、続いて、「落とし主は、男性50才くらい、白髪混じりの短髪、白のTシャツに紺色のズボンです。ありましたらご連絡願います」落とし主とは、容疑者の特徴を表している。何を落としたのかは特定しないが「大きな忘れ物」という抽象的な表現で協力を求める。その隠語を聞き、ドライバーは、今、乗客として乗っていないか、そのような人物が近くを歩いていないかを確認するのだ。このような情報が流れているとなれば、容疑者もうかうかとタクシーを使って逃走することは困難であろう。また、タクシードライバーへの注意喚起という側面もある。「大きな忘れ物」から派生して「カバンの忘れ物」という隠語もある。これは、タクシードライバーが容疑者らしき人物や、不審者を乗せた時に助けを求める隠語である。タクシードライバーがこの言葉を口ずさんだら、あなた自身が不審者だと思われているかもしれない。これは隠語とは関係ないのだが、タクシードライバーが助けてを求めているサインを伝えておきたい。行燈(車体の上にある)が、ピンクまたは赤色の時や、スーパーサイン(空車や回送表示)がSOSの文字になっている時は助けを求めているので、見かけた場合は警察に連絡を入れてほしい。とにかく、最近はタクシー事件が頻発に起こっているのでお願いしたいところである。笑えるに笑えない「脳梗塞」とは?タクシードライバーの平均年齢は59歳(令和2年賃金構造基本統計調査)である。全職種全体平均の46.7歳に比べてかなり高い。そういう業種とあって笑えるに笑えない隠語がある。「○○さん、『脳梗塞』だってさぁ」私がタクシー業界に入って間もない時に先輩から聞いた言葉だ。確かに○○さんは高齢だったなぁと思い、「大変ですね、入院しているんですか?」と言うと、先輩は目をキョトンとさせた。そうしているうちに、その○○さんが元気な姿で姿を現したのだ。「今日も『脳梗塞』だ~、売上げあがらん。上、走らないと距離でないよな~」「脳梗塞」の意味は「ノー高速道路」で、高速道路を使わなかったという意味であった。Photo by iStock 高速道路が「上」、一般道が「下」という隠語がある。これは一般のドライバーも使っており浸透していたが、「脳梗塞」までは考えが及ばなかった。これは隠語というよりも駄洒落っぼい。年配の人たちが、仕事を終え「脳梗塞」と言うたびにドキッとする。まあ、脳梗塞の人が脳梗塞と言って元気に歩いたりしないと思うが……。ここで紹介しきれないほどタクシー業界には隠語がある。また機会があれば紹介したい。街中でのドライバー同士の会話で耳に入ってきたり、ドライバーとの車内での会話で何気なく口にした「隠語」の意味を知っていると面白いかもしれない。今のような通信技術が発達する前、無線でドライバーと連絡を取り合っていた時は、乗客にその意味が伝わらないように「隠語」でやり取りが頻繁に行われていた。現在は、タブレット上に連絡事項が表示されたり、個人のスマホに直接連絡事項を送ったりする。誰かの何気ない一言が隠語となる。これからもその時代に即した隠語が出てくるのであろう。その隠語そのものが時代の世相をあらわしているかもしれない。隠語の言葉を真に受けて勘違いすることもあり、それが面白いところでもあり、隠語の意味をなすところであろう。
ライブコンサートやスポーツイベントには1か所に大勢の人が集まる。しかもこのイベントのために遠方から足を運ぶ人もいる。もちろんタクシードライバーたちはこのような情報を押さえておき、終了時間に合わせて乗客を狙いにいくのがセオリーである。
街中で必死になって乗客を探すことなく、その会場に行けば難なく乗せられ、遠方客、いわゆる「ロング客」の頻度も繁華街並に高い。行けば乗せられるパラダイスであり、俗に言う「入れ食い」状態である。
しかし、このようにタクシードライバーにとってのパラダイスも、時には様相が変わることもある。
日曜日は比較的、タクシーの稼働台数は少ない。なぜなら休日に休むドライバーに加え、タクシー会社自体も定休日にしているところも多いからだ。イベントは、その需要と供給のバランスが崩れる休日に開催されることが多く、タクシー争奪戦となる。
そこに天候の影響が加わると、さらに状況は激しくなる。特に天気予報にもないゲリラ豪雨のような大雨が発生した時などは異様な光景が広がる。タクシーを求めてあてもなく彷徨う人たち。空車で信号待ちしている時に、傘もささない人たちが四方からタクシー目がけて歩いてくる。
まさしくその光景が映画の「ゾンビ」のように見えたことから、タクシー待ちの人がたくさんいる光景を失礼ながら「ゾンビ」というようになったらしい。タクシードライバーにとっては、言葉とは裏腹に稼ぎどころを意味するワクワクする隠語でもある。「ゾンビ」は条件さえあえばどこにでも現れる。六本木、歌舞伎町、銀座……。
「六本木がゾンビだぞ!」
など、現在でも比較的よく使われるタクシー隠語である。その「ゾンビ」にならないためにも事前にイベントの終了時間を見計らったり、天気予報を調べたりしてタクシーを予約配車しておくことをおすすめする。
また、「ゾンビ」と同じように背筋がゾーッとする隠語がある。東京都内の真夜中、人通りのいない道。無論、行き交う車もいない。そんな道を走っていると前方に人の姿が。よく見ると手を上げている。
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車を停めると髪の長い女性がうつむきながら乗ってきた。背筋がヒンヤリとしながらも行き先を尋ねると、ボソボソとか細い声で応える。「静岡まで」「お化けだ!」ドライバーは、その乗客の容姿を見て思ったのではない。行き先を聞いたからだ。乗客がいそうにないところで現れる、いわゆる超ロング客のことをゾンビ同様、失礼ながら「お化け」という。タクシードライバーが、運というものを感じられる時でもある。「ゾンビ」のように予想もできないのが「お化け」であり、その「お化け」の乗客を引くことがタクシードライバーの醍醐味である。真夜中にタクシーに乗っている時、真っ暗な道でタクシードライバーが、「このあたり、よくお化けが出るんですよね~」と言って周りをキョロキョロしている時は、二匹目のドジョウを狙っていると思われる。しかし、「お化け」でなく「幽霊」と言った場合、その真意はわからないが……。「ゾンビ」と「お化け」は、タクシードライバーにとっては、世間とは逆に歓迎されるものなのである。「大きな忘れ物」なるミステリアスな隠語タクシードライバーは職業柄、不特定多数の人を乗せ、様々な場所を行き交う。そして、常に街中から乗客を探している。ある意味、世間に目を光らせて日夜車を走らせているのだ。このような立場からか、事件が起こり逃走中の容疑者がいる場合、警察から捜査協力を依頼されることもある。Photo by iStock その時に使われるのが、「大きな忘れ物」という隠語である。「本日午後〇時ごろ、○○(場所名)からタクシーをご利用になった方の大きな忘れ物です」と無線で一報が入り、続いて、「落とし主は、男性50才くらい、白髪混じりの短髪、白のTシャツに紺色のズボンです。ありましたらご連絡願います」落とし主とは、容疑者の特徴を表している。何を落としたのかは特定しないが「大きな忘れ物」という抽象的な表現で協力を求める。その隠語を聞き、ドライバーは、今、乗客として乗っていないか、そのような人物が近くを歩いていないかを確認するのだ。このような情報が流れているとなれば、容疑者もうかうかとタクシーを使って逃走することは困難であろう。また、タクシードライバーへの注意喚起という側面もある。「大きな忘れ物」から派生して「カバンの忘れ物」という隠語もある。これは、タクシードライバーが容疑者らしき人物や、不審者を乗せた時に助けを求める隠語である。タクシードライバーがこの言葉を口ずさんだら、あなた自身が不審者だと思われているかもしれない。これは隠語とは関係ないのだが、タクシードライバーが助けてを求めているサインを伝えておきたい。行燈(車体の上にある)が、ピンクまたは赤色の時や、スーパーサイン(空車や回送表示)がSOSの文字になっている時は助けを求めているので、見かけた場合は警察に連絡を入れてほしい。とにかく、最近はタクシー事件が頻発に起こっているのでお願いしたいところである。笑えるに笑えない「脳梗塞」とは?タクシードライバーの平均年齢は59歳(令和2年賃金構造基本統計調査)である。全職種全体平均の46.7歳に比べてかなり高い。そういう業種とあって笑えるに笑えない隠語がある。「○○さん、『脳梗塞』だってさぁ」私がタクシー業界に入って間もない時に先輩から聞いた言葉だ。確かに○○さんは高齢だったなぁと思い、「大変ですね、入院しているんですか?」と言うと、先輩は目をキョトンとさせた。そうしているうちに、その○○さんが元気な姿で姿を現したのだ。「今日も『脳梗塞』だ~、売上げあがらん。上、走らないと距離でないよな~」「脳梗塞」の意味は「ノー高速道路」で、高速道路を使わなかったという意味であった。Photo by iStock 高速道路が「上」、一般道が「下」という隠語がある。これは一般のドライバーも使っており浸透していたが、「脳梗塞」までは考えが及ばなかった。これは隠語というよりも駄洒落っぼい。年配の人たちが、仕事を終え「脳梗塞」と言うたびにドキッとする。まあ、脳梗塞の人が脳梗塞と言って元気に歩いたりしないと思うが……。ここで紹介しきれないほどタクシー業界には隠語がある。また機会があれば紹介したい。街中でのドライバー同士の会話で耳に入ってきたり、ドライバーとの車内での会話で何気なく口にした「隠語」の意味を知っていると面白いかもしれない。今のような通信技術が発達する前、無線でドライバーと連絡を取り合っていた時は、乗客にその意味が伝わらないように「隠語」でやり取りが頻繁に行われていた。現在は、タブレット上に連絡事項が表示されたり、個人のスマホに直接連絡事項を送ったりする。誰かの何気ない一言が隠語となる。これからもその時代に即した隠語が出てくるのであろう。その隠語そのものが時代の世相をあらわしているかもしれない。隠語の言葉を真に受けて勘違いすることもあり、それが面白いところでもあり、隠語の意味をなすところであろう。
車を停めると髪の長い女性がうつむきながら乗ってきた。背筋がヒンヤリとしながらも行き先を尋ねると、ボソボソとか細い声で応える。
「静岡まで」
「お化けだ!」ドライバーは、その乗客の容姿を見て思ったのではない。行き先を聞いたからだ。乗客がいそうにないところで現れる、いわゆる超ロング客のことをゾンビ同様、失礼ながら「お化け」という。タクシードライバーが、運というものを感じられる時でもある。
「ゾンビ」のように予想もできないのが「お化け」であり、その「お化け」の乗客を引くことがタクシードライバーの醍醐味である。
真夜中にタクシーに乗っている時、真っ暗な道でタクシードライバーが、「このあたり、よくお化けが出るんですよね~」と言って周りをキョロキョロしている時は、二匹目のドジョウを狙っていると思われる。
しかし、「お化け」でなく「幽霊」と言った場合、その真意はわからないが……。
「ゾンビ」と「お化け」は、タクシードライバーにとっては、世間とは逆に歓迎されるものなのである。
タクシードライバーは職業柄、不特定多数の人を乗せ、様々な場所を行き交う。そして、常に街中から乗客を探している。ある意味、世間に目を光らせて日夜車を走らせているのだ。
このような立場からか、事件が起こり逃走中の容疑者がいる場合、警察から捜査協力を依頼されることもある。
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その時に使われるのが、「大きな忘れ物」という隠語である。「本日午後〇時ごろ、○○(場所名)からタクシーをご利用になった方の大きな忘れ物です」と無線で一報が入り、続いて、「落とし主は、男性50才くらい、白髪混じりの短髪、白のTシャツに紺色のズボンです。ありましたらご連絡願います」落とし主とは、容疑者の特徴を表している。何を落としたのかは特定しないが「大きな忘れ物」という抽象的な表現で協力を求める。その隠語を聞き、ドライバーは、今、乗客として乗っていないか、そのような人物が近くを歩いていないかを確認するのだ。このような情報が流れているとなれば、容疑者もうかうかとタクシーを使って逃走することは困難であろう。また、タクシードライバーへの注意喚起という側面もある。「大きな忘れ物」から派生して「カバンの忘れ物」という隠語もある。これは、タクシードライバーが容疑者らしき人物や、不審者を乗せた時に助けを求める隠語である。タクシードライバーがこの言葉を口ずさんだら、あなた自身が不審者だと思われているかもしれない。これは隠語とは関係ないのだが、タクシードライバーが助けてを求めているサインを伝えておきたい。行燈(車体の上にある)が、ピンクまたは赤色の時や、スーパーサイン(空車や回送表示)がSOSの文字になっている時は助けを求めているので、見かけた場合は警察に連絡を入れてほしい。とにかく、最近はタクシー事件が頻発に起こっているのでお願いしたいところである。笑えるに笑えない「脳梗塞」とは?タクシードライバーの平均年齢は59歳(令和2年賃金構造基本統計調査)である。全職種全体平均の46.7歳に比べてかなり高い。そういう業種とあって笑えるに笑えない隠語がある。「○○さん、『脳梗塞』だってさぁ」私がタクシー業界に入って間もない時に先輩から聞いた言葉だ。確かに○○さんは高齢だったなぁと思い、「大変ですね、入院しているんですか?」と言うと、先輩は目をキョトンとさせた。そうしているうちに、その○○さんが元気な姿で姿を現したのだ。「今日も『脳梗塞』だ~、売上げあがらん。上、走らないと距離でないよな~」「脳梗塞」の意味は「ノー高速道路」で、高速道路を使わなかったという意味であった。Photo by iStock 高速道路が「上」、一般道が「下」という隠語がある。これは一般のドライバーも使っており浸透していたが、「脳梗塞」までは考えが及ばなかった。これは隠語というよりも駄洒落っぼい。年配の人たちが、仕事を終え「脳梗塞」と言うたびにドキッとする。まあ、脳梗塞の人が脳梗塞と言って元気に歩いたりしないと思うが……。ここで紹介しきれないほどタクシー業界には隠語がある。また機会があれば紹介したい。街中でのドライバー同士の会話で耳に入ってきたり、ドライバーとの車内での会話で何気なく口にした「隠語」の意味を知っていると面白いかもしれない。今のような通信技術が発達する前、無線でドライバーと連絡を取り合っていた時は、乗客にその意味が伝わらないように「隠語」でやり取りが頻繁に行われていた。現在は、タブレット上に連絡事項が表示されたり、個人のスマホに直接連絡事項を送ったりする。誰かの何気ない一言が隠語となる。これからもその時代に即した隠語が出てくるのであろう。その隠語そのものが時代の世相をあらわしているかもしれない。隠語の言葉を真に受けて勘違いすることもあり、それが面白いところでもあり、隠語の意味をなすところであろう。
その時に使われるのが、「大きな忘れ物」という隠語である。
「本日午後〇時ごろ、○○(場所名)からタクシーをご利用になった方の大きな忘れ物です」
と無線で一報が入り、続いて、
「落とし主は、男性50才くらい、白髪混じりの短髪、白のTシャツに紺色のズボンです。ありましたらご連絡願います」
落とし主とは、容疑者の特徴を表している。何を落としたのかは特定しないが「大きな忘れ物」という抽象的な表現で協力を求める。その隠語を聞き、ドライバーは、今、乗客として乗っていないか、そのような人物が近くを歩いていないかを確認するのだ。
このような情報が流れているとなれば、容疑者もうかうかとタクシーを使って逃走することは困難であろう。また、タクシードライバーへの注意喚起という側面もある。
「大きな忘れ物」から派生して「カバンの忘れ物」という隠語もある。これは、タクシードライバーが容疑者らしき人物や、不審者を乗せた時に助けを求める隠語である。タクシードライバーがこの言葉を口ずさんだら、あなた自身が不審者だと思われているかもしれない。
これは隠語とは関係ないのだが、タクシードライバーが助けてを求めているサインを伝えておきたい。
行燈(車体の上にある)が、ピンクまたは赤色の時や、スーパーサイン(空車や回送表示)がSOSの文字になっている時は助けを求めているので、見かけた場合は警察に連絡を入れてほしい。とにかく、最近はタクシー事件が頻発に起こっているのでお願いしたいところである。
タクシードライバーの平均年齢は59歳(令和2年賃金構造基本統計調査)である。全職種全体平均の46.7歳に比べてかなり高い。そういう業種とあって笑えるに笑えない隠語がある。
「○○さん、『脳梗塞』だってさぁ」
私がタクシー業界に入って間もない時に先輩から聞いた言葉だ。確かに○○さんは高齢だったなぁと思い、「大変ですね、入院しているんですか?」と言うと、先輩は目をキョトンとさせた。
そうしているうちに、その○○さんが元気な姿で姿を現したのだ。
「今日も『脳梗塞』だ~、売上げあがらん。上、走らないと距離でないよな~」
「脳梗塞」の意味は「ノー高速道路」で、高速道路を使わなかったという意味であった。
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高速道路が「上」、一般道が「下」という隠語がある。これは一般のドライバーも使っており浸透していたが、「脳梗塞」までは考えが及ばなかった。これは隠語というよりも駄洒落っぼい。年配の人たちが、仕事を終え「脳梗塞」と言うたびにドキッとする。まあ、脳梗塞の人が脳梗塞と言って元気に歩いたりしないと思うが……。ここで紹介しきれないほどタクシー業界には隠語がある。また機会があれば紹介したい。街中でのドライバー同士の会話で耳に入ってきたり、ドライバーとの車内での会話で何気なく口にした「隠語」の意味を知っていると面白いかもしれない。今のような通信技術が発達する前、無線でドライバーと連絡を取り合っていた時は、乗客にその意味が伝わらないように「隠語」でやり取りが頻繁に行われていた。現在は、タブレット上に連絡事項が表示されたり、個人のスマホに直接連絡事項を送ったりする。誰かの何気ない一言が隠語となる。これからもその時代に即した隠語が出てくるのであろう。その隠語そのものが時代の世相をあらわしているかもしれない。隠語の言葉を真に受けて勘違いすることもあり、それが面白いところでもあり、隠語の意味をなすところであろう。
高速道路が「上」、一般道が「下」という隠語がある。これは一般のドライバーも使っており浸透していたが、「脳梗塞」までは考えが及ばなかった。これは隠語というよりも駄洒落っぼい。
年配の人たちが、仕事を終え「脳梗塞」と言うたびにドキッとする。まあ、脳梗塞の人が脳梗塞と言って元気に歩いたりしないと思うが……。
ここで紹介しきれないほどタクシー業界には隠語がある。また機会があれば紹介したい。街中でのドライバー同士の会話で耳に入ってきたり、ドライバーとの車内での会話で何気なく口にした「隠語」の意味を知っていると面白いかもしれない。
今のような通信技術が発達する前、無線でドライバーと連絡を取り合っていた時は、乗客にその意味が伝わらないように「隠語」でやり取りが頻繁に行われていた。現在は、タブレット上に連絡事項が表示されたり、個人のスマホに直接連絡事項を送ったりする。
誰かの何気ない一言が隠語となる。これからもその時代に即した隠語が出てくるのであろう。その隠語そのものが時代の世相をあらわしているかもしれない。隠語の言葉を真に受けて勘違いすることもあり、それが面白いところでもあり、隠語の意味をなすところであろう。