新型コロナウイルスワクチンを接種したように装い、自治体から接種委託料をだまし取ったとして、警視庁は12日、「王子北口内科クリニック」(東京都北区)院長で医師の船木威徳(たけのり)容疑者(51)(北区滝野川)を詐欺と公電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕したと発表した。
逮捕は11日。昨年7月以降、13都道府県の男女計約230人に接種した記録があり、警視庁が実態を調べている。
発表によると、船木容疑者は昨年8~9月、実際にはワクチンを接種していない札幌市の女性(50歳代)とその子ども2人(10~20歳代)の計3人について虚偽の予診票(接種記録)を作成。国のワクチン接種記録システム(VRS)に虚偽の登録をし、同12月に札幌市から接種委託料計約1万4000円をだまし取った疑い。調べに対し、容疑を認めている。
接種委託料は通常1回2070円で、打ち手の医師らが自治体や都道府県の国民健康保険団体連合会に請求し、患者の住所地の自治体から支払われる。その後、国が全額負担する。
船木容疑者は数年前に投資セミナーで札幌市の女性と知り合った。女性は過去に予防接種を受けて体調を崩した経験があり、1人で来院し、家族3人分の接種済証を受け取っていた。任意の聴取に「接種を受けないと様々な不利益が生じるのではないかと心配だった」と話したという。
船木容疑者は自身のSNSに「ただやみくもに薬やワクチンに反対する立場はとっていませんが、それが『目的』となっているとすれば、あきらかに異常」と書き込むなど、ワクチン接種を疑問視していたという。クリニックに接種記録があった約230人のうち約7割は区外の住民で、警視庁は住民らが来院した経緯や、不正の有無を捜査している。
クリニックのホームページや自身の著書によると、船木容疑者は旭川医科大出身で、大学病院の勤務などを経て2011年に開業。内科のほか、人工透析や在宅診療を行っている。