世界平和統一家庭連合の日本本部(写真:つのだよしお/アフロ)
8月7日、北海道・旭川市の野村パターソン和孝市議(38、立憲民主党)が、自身のTwitter上で謝罪文とともに動画を投稿した。旧統一教会との関係が取り沙汰される札幌市議や帯広市議が話題になるなか、旭川市議にはそんな人物はいないとツイートした翌日のことだ。
《旭川市議会には統一教会(家庭連合)に関係している議員はいない、と誤った情報を発信してしまいました。寄せられた複数情報によると、統一教会関係者が複数いる上に、その影響は旭川市議会を越えて、上川管内全域にも及んでいるようでした。大変失礼いたしました》
動画では、旭川市議と旧統一教会には、大きく分けて3つの関係性があると話す。1つめは政務活動費で教団の出版物を買っている議員がいること、2つめは教団が入居する旭川市内のビルの所有者が、ある議員の親族の会社だったこと、そして3つめが、「旭川家庭教育を支援する会」に多くの保守系議員が名前を連ねていることだ。
そして、この3つめの話が、差し迫った危機になっているという。野村市議が、本誌の取材に応じた。
「『旭川家庭教育を支援する会』は、旧統一教会と右派の日本会議が設立した団体です。会長は自民党の東国幹(あずまくによし)衆院議員で、ポスターが旭川の旧統一教会の事務所に何度も貼られていました。
そして、今津寛介・旭川市長が顧問を務めています。今津市長は、2021年の市長選のときから『家庭教育支援条例』制定を公約に掲げています」
この条例が大きな問題なのだという。
「条例案の大枠はこうです。『家庭は人づくりの基盤であり、すべての教育の出発点。子供のさまざまな能力は、家庭で育まれるべきもの。子供の健やかな成長は、家庭と地域社会が一体となって見守ってきた。さらなる家庭教育の充実のため、十分な支援をする』――というものです。
一見すると当たり前の主張に感じますが、本来あるべき家庭像を設定し、それを押しつける内容です。また、“個人の成長” に行政あるいは地域団体の介入を容認するようにも捉えられます。
この条例案のベースには、誰もがいつか子供を持ち、子供を教育すべきという価値観があり、ジェンダー平等やLGBTのカップルの存在は完全に無視されています。
かつての家父長制的な時代錯誤な考えで、家庭を重んじる旧統一教会の教義と合致します。その価値観は、条例化して個人に押しつけるものではありません」(野村市議)
実は、家庭教育の支援を謳うほぼ同内容の条例が全国の自治体に広がっているという。すでに静岡県、熊本県、岡山県など全国十数の自治体で条例化されている。
「2022年5月、静岡県の藤曲敬宏県議(自民党)が『旭川家庭教育を支援する会』の招きで旭川にやってきて、条例制定を働きかける講演をおこないました。藤曲県議は、自身が統一教会の信者であることを認めています。
藤曲氏は、教団が作った条例案の “雛形” を全国に喧伝する役割を果たしていると思われ、実際、相模原市、富山市、神奈川県、鳥取県が前向きに検討中だと話していました。教団の最終目的は法制化のはずです。権力が家庭に介入することを許してはなりません」(同)
教団を20年以上取材してきた鈴木エイト氏も法制化を危惧している。
「いま、『家庭教育支援法』の意見書が全国の地方議会で出されており、どれもほぼ同じ内容です。出所は教団の関連団体である『国際勝共連合』なのは間違いありません。まずは自治体レベルで採択させ、中央へ持っていく狙いがあります」
野村市議が続ける。
「私が2021年9月に当選した直後、『旭川家庭教育を支援する会』の男性が訪ねてきて、旭川でも制定を目指したいから協力してほしいと言われました。話の最後に、ふだんは何の仕事をしているか尋ねると、世界平和統一家庭連合の名刺を見せられたんです。
そうやって、引っかかりやすい新人政治家に近づいて名簿に載せ、信憑性を高めることで、どんどん他の会員を仲間に引き入れていく設計なのだと実感しました。もちろん私は断りました」
旭川では、「旭川家庭教育を支援する会」に旧統一教会が関わっていることが報じられ、条例制定は困難な状況になっているという。
野村市議が最後にこう話す。
「家庭、教育、福祉といったごくありふれた名前を使って、各界に浸透していく手口は恐ろしいほどです。政治家は即刻周囲を点検し、いますぐ関係を断絶しなければなりません」