一晩で数知れぬ札束が飛び交うホストクラブだが、大金を店に落として行く顧客の女性たちに、ここ20年で大きな変化が生じている。テレビドラマ『夜王~yaoh~』(TBS系列)が大流行し、城咲仁らカリスマホストたちがバラエティー番組で大活躍した2000年代、ホストクラブに通うのは、女性実業家や女優や有閑マダム、ある意味でホストと“同業”である水商売の女性が主流だった。しかしいま、ホストたちをかしずかせ、権勢を振るっているのは「パパ活女子」たちだという。歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る~』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏がレポートする。
【写真5枚】アドトラックいっぱいにイケメンホスト男性が光る。歌舞伎町にて。他、駐車場の周りを埋め尽くす茶髪やワイルド系もいてイケメンばかりホストクラブの看板 * * * 新宿・歌舞伎町の有名ホストクラブで長年にわたって働いてきた30代のホストはこう話す。「数年前までちらほら見かける程度だった“パパ活女子”ですが、新型コロナの影響で、その割合が爆発的に増えました。コロナ禍によって水商売で働いていた人たちは出勤日数が減って稼ぎにくくなったというし、“有閑マダム”たちも、リモートワークなどで、旦那さんが自宅にいる時間が増えて、夜に外出しづらくなってしまった。そんな中で直接男性とやりとりするパパ活女子たちだけが自由にお金を稼いで、お店に通ってくれるような状況になったんです」 実際に、新型コロナが猛威を振るう中でもパパ活によって大金を稼ぎ、人気ホストの「彼女」の座を手にした女性がいる。「月に稼いだお金の半分以上を費やす立派な“ホス狂い”です」と笑うエミカさん(30才・仮名)だ。 彼女と出会ったのは2020年5月のこと。当時私は都内の美容クリニックの院長に「パパ活女子と美容整形」についての取材をしており、院長から「パパ活女子と美容整形について取材したいのであれば、ホストクラブにいかなきゃ。パパ活女子は、ホストクラブでお金を落とし、美容整形をするというのがおきまりのコースなんだよ」と教えてもらい、その日、クリニックの関係者が業務提携しているホストクラブ「A」に顔を出すという院長に、同行させていただくことになった。 当日は「A」のプロデューサーである徹さんのバースデーイベントが開催されており、そこで紹介されたのがエミカさんだった。エミカさんは、腰までのツヤツヤの髪が目立つ、元AKB48の板野友美をナチュラルにしたような美人だ。徹さんは、私にエミカさんを「僕のカノジョです」と真顔で紹介した。 雑誌の表紙を飾るような有名ホストが公の場で、女性客を「カノジョ」と紹介することなど、通常ならばまずあり得ない。実際、筆者は歌舞伎町に住み込み、さまざまなホストとその客の姿を見てきたが、後にも先にもエミカさんのような女性はいなかった。 その段階でも、エミカさんの「只者ではない」感は突出していたが、お酒の入った徹さんは「オレの趣味はエミカだけだから」と我々に向かって惚気る。VIP席に通された彼女の卓には、ランキング上位の人気ホストたちが緊張した面持ちで次々に挨拶にやって来る。エミカさんは、彼らが席を立つたびに「あの子は、キレイな顔で人気もあるけど、お客さんにベタベタするばっかりだから、そろそろ頭打ちだね」などと、ホストたちに容赦のない評価を下す。その佇まいや、ホストたちからの扱いは、さながら”姐さん”である。 閉店時間となると、最後に残った私たちを、徹さんとエミカさんの2人が店外まで見送った。手慣れた様子で、私のためにタクシーを止め「今日はありがとうございました」と挨拶するエミカさんの様子は、本当の「妻」のようであり、歌舞伎町ではホストとの「恋」に泣く女のコばかりをみてきた私にとっては、エミカさんの存在は衝撃的だった。なぜ、彼女は人気ホストに選ばれたのか。 その理由は誰もが振り返るような美貌に加え、圧倒的な「稼ぎ」にあった。 23歳で歌舞伎町に足を踏み入れたというエミカさんは、徹さんと付き合う前に交際していた相手もまた、歌舞伎町のホストだった。エミカさんは、「カレをナンバーに入れるためには稼がなくては!と、デリヘルで働くことにしたんです。だけど、やってるうちに“何だか割に合わないな”と感じるようになって……そんなときに、AVに出ないか?と声がかかったんです」と笑顔で話す。 当時は、蒼井そらや及川奈央など、「セクシータレント」の全盛期。彼女たちは「AV女優」の枠を出て、アイドル的存在となり、テレビや雑誌など幅広く活躍していた。そのためエミカさんは“AVデビュー”に何の抵抗もなかったという。「AVに出演したことで付加価値が付き、デリヘルの単価は一気に10倍に跳ね上がりました。並行して行っていた“パパ活”でも、かなり太いパパをつかまえることができました。AVは私にとってブランディングとなったんです」(エミカさん) だが、当時の彼とはほどなくして破局を迎える。その後に出会ったのが徹さんである。「もともと徹は、大阪の有名ホストクラブに所属していた人気ホスト。出会ったのも大阪で、しばらくは遠距離恋愛だったのですが、『さらにビッグになる』と東京へと進出したんです。だから私は、“この人の顔をたてないと……”と、徹のために月に平均350万円はお店で使っていたし、イベント時には最高、一晩で1500万円課金したこともあります」 そう話すエミカさんだが、その「原資」となったのがパパ活の「海外案件」だった。若くて美しいエミカさんのAV出演作は、売れに売れた。加えて、当時は蒼井そらがアジア諸国で大人気。日本のAV女優の需要が高まり、エミカさんの作品も海外で爆発的な人気を誇ったという。そのため、エミカさんは国内のパパ活だけでなく「海外案件」も受けるようになり、「かんたんに稼げるようになってしまった」と笑う。「海外のかたがお相手の場合、相場は1時間で20万円。しかも実際は、1時間も一緒にいない。エージェントから都内の高級ホテルに呼ばれ、『今日は〇〇さんだからよろしく』と部屋を指定されるんです。一応、お互い慣れない英語で会話をするのですが、そんなに長くは続かないので、することだけして帰る(笑い)」(エミカさん) 現地に直接呼ばれることもあったそう。「新型コロナが流行る前は、香港くらいの距離なら日帰りで行っていました。タイにも月に2~3回は“出張”していました。海外に行くのは、たった一人のお客様に会いに行くためだけなんですけど、3時間くらいで100万円とかもらっていた。だから月に300万円くらいなら余裕で稼げちゃうんです(笑い)。滞在時間よりも、むしろ移動時間のほうが長かったですね」(エミカさん) しかし皮肉にも、この「海外案件」が原因となり、徹さんとの関係が終焉を迎えることとなる。「2019年頃、海外案件が増えてきて、『これはもう、英語がきちんとしゃべれないとダメだ』と思い立って、香港に語学留学したんです。そうしたら留学中にコロナの大流行が来て……。ちょうどその頃、徹はホストを辞めて、自分で別業種の店舗をだしたばかりでした。店を開けることもできなくなり、店の維持費どころか、従業員の給料を出すのも難しくなってきた。私は運よく、渡航制限がかかる前に帰国できたのですが、日本に着いて早々、徹から久々にきた連絡が『どこへ行こう』とか、『何をしよう』とかいうものではなく『お金を貸してくれ……』だったんです」(エミカさん) エミカさんにとって、かつては月に数百万円をつぎ込んでも惜しくないほど輝いていた徹さんが、くすんで見えた瞬間だったという。 エミカさんは黙ってお金を貸した。だが、その後も、徹さんからの話は「コロナの愚痴」や「店の経営が大変だ」ということばかり。エミカさんがワールドワイドな「世界」に目を向けるなか、歌舞伎町の、それも自分の周りの小さな「世界」の話ばかりするカレのことを、いつしかエミカさんは「小さい男……」と思うようになっていたという。ほどなくして、エミカさんから別れを切り出すと、徹さんはかなり驚いた様子だったというが、「わかった……」と力なく受け入れたという。 破局を迎えた現在も、2人は友人として仲良く付き合っている。エミカさんは、笑顔でこう話すのだ。「徹には正直、億は使ったと思います。でも、後悔は一切していません。むしろあるのは、感謝ですね。徹がいたことによって、私は自分が思っている以上に稼げることがわかったし、自分が想像する以上の自分になることができた。言葉は悪いけど、私は徹を踏み台にしてステップアップしたことは事実です」 現在、エミカさんはその圧倒的な美貌を武器に、東京港区のラウンジで働いている。
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新宿・歌舞伎町の有名ホストクラブで長年にわたって働いてきた30代のホストはこう話す。
「数年前までちらほら見かける程度だった“パパ活女子”ですが、新型コロナの影響で、その割合が爆発的に増えました。コロナ禍によって水商売で働いていた人たちは出勤日数が減って稼ぎにくくなったというし、“有閑マダム”たちも、リモートワークなどで、旦那さんが自宅にいる時間が増えて、夜に外出しづらくなってしまった。そんな中で直接男性とやりとりするパパ活女子たちだけが自由にお金を稼いで、お店に通ってくれるような状況になったんです」
実際に、新型コロナが猛威を振るう中でもパパ活によって大金を稼ぎ、人気ホストの「彼女」の座を手にした女性がいる。「月に稼いだお金の半分以上を費やす立派な“ホス狂い”です」と笑うエミカさん(30才・仮名)だ。
彼女と出会ったのは2020年5月のこと。当時私は都内の美容クリニックの院長に「パパ活女子と美容整形」についての取材をしており、院長から「パパ活女子と美容整形について取材したいのであれば、ホストクラブにいかなきゃ。パパ活女子は、ホストクラブでお金を落とし、美容整形をするというのがおきまりのコースなんだよ」と教えてもらい、その日、クリニックの関係者が業務提携しているホストクラブ「A」に顔を出すという院長に、同行させていただくことになった。
当日は「A」のプロデューサーである徹さんのバースデーイベントが開催されており、そこで紹介されたのがエミカさんだった。エミカさんは、腰までのツヤツヤの髪が目立つ、元AKB48の板野友美をナチュラルにしたような美人だ。徹さんは、私にエミカさんを「僕のカノジョです」と真顔で紹介した。 雑誌の表紙を飾るような有名ホストが公の場で、女性客を「カノジョ」と紹介することなど、通常ならばまずあり得ない。実際、筆者は歌舞伎町に住み込み、さまざまなホストとその客の姿を見てきたが、後にも先にもエミカさんのような女性はいなかった。
その段階でも、エミカさんの「只者ではない」感は突出していたが、お酒の入った徹さんは「オレの趣味はエミカだけだから」と我々に向かって惚気る。VIP席に通された彼女の卓には、ランキング上位の人気ホストたちが緊張した面持ちで次々に挨拶にやって来る。エミカさんは、彼らが席を立つたびに「あの子は、キレイな顔で人気もあるけど、お客さんにベタベタするばっかりだから、そろそろ頭打ちだね」などと、ホストたちに容赦のない評価を下す。その佇まいや、ホストたちからの扱いは、さながら”姐さん”である。 閉店時間となると、最後に残った私たちを、徹さんとエミカさんの2人が店外まで見送った。手慣れた様子で、私のためにタクシーを止め「今日はありがとうございました」と挨拶するエミカさんの様子は、本当の「妻」のようであり、歌舞伎町ではホストとの「恋」に泣く女のコばかりをみてきた私にとっては、エミカさんの存在は衝撃的だった。なぜ、彼女は人気ホストに選ばれたのか。 その理由は誰もが振り返るような美貌に加え、圧倒的な「稼ぎ」にあった。
23歳で歌舞伎町に足を踏み入れたというエミカさんは、徹さんと付き合う前に交際していた相手もまた、歌舞伎町のホストだった。エミカさんは、「カレをナンバーに入れるためには稼がなくては!と、デリヘルで働くことにしたんです。だけど、やってるうちに“何だか割に合わないな”と感じるようになって……そんなときに、AVに出ないか?と声がかかったんです」と笑顔で話す。
当時は、蒼井そらや及川奈央など、「セクシータレント」の全盛期。彼女たちは「AV女優」の枠を出て、アイドル的存在となり、テレビや雑誌など幅広く活躍していた。そのためエミカさんは“AVデビュー”に何の抵抗もなかったという。
「AVに出演したことで付加価値が付き、デリヘルの単価は一気に10倍に跳ね上がりました。並行して行っていた“パパ活”でも、かなり太いパパをつかまえることができました。AVは私にとってブランディングとなったんです」(エミカさん)
だが、当時の彼とはほどなくして破局を迎える。その後に出会ったのが徹さんである。
「もともと徹は、大阪の有名ホストクラブに所属していた人気ホスト。出会ったのも大阪で、しばらくは遠距離恋愛だったのですが、『さらにビッグになる』と東京へと進出したんです。だから私は、“この人の顔をたてないと……”と、徹のために月に平均350万円はお店で使っていたし、イベント時には最高、一晩で1500万円課金したこともあります」
そう話すエミカさんだが、その「原資」となったのがパパ活の「海外案件」だった。若くて美しいエミカさんのAV出演作は、売れに売れた。加えて、当時は蒼井そらがアジア諸国で大人気。日本のAV女優の需要が高まり、エミカさんの作品も海外で爆発的な人気を誇ったという。そのため、エミカさんは国内のパパ活だけでなく「海外案件」も受けるようになり、「かんたんに稼げるようになってしまった」と笑う。
「海外のかたがお相手の場合、相場は1時間で20万円。しかも実際は、1時間も一緒にいない。エージェントから都内の高級ホテルに呼ばれ、『今日は〇〇さんだからよろしく』と部屋を指定されるんです。一応、お互い慣れない英語で会話をするのですが、そんなに長くは続かないので、することだけして帰る(笑い)」(エミカさん)
現地に直接呼ばれることもあったそう。
「新型コロナが流行る前は、香港くらいの距離なら日帰りで行っていました。タイにも月に2~3回は“出張”していました。海外に行くのは、たった一人のお客様に会いに行くためだけなんですけど、3時間くらいで100万円とかもらっていた。だから月に300万円くらいなら余裕で稼げちゃうんです(笑い)。滞在時間よりも、むしろ移動時間のほうが長かったですね」(エミカさん)
しかし皮肉にも、この「海外案件」が原因となり、徹さんとの関係が終焉を迎えることとなる。
「2019年頃、海外案件が増えてきて、『これはもう、英語がきちんとしゃべれないとダメだ』と思い立って、香港に語学留学したんです。そうしたら留学中にコロナの大流行が来て……。ちょうどその頃、徹はホストを辞めて、自分で別業種の店舗をだしたばかりでした。店を開けることもできなくなり、店の維持費どころか、従業員の給料を出すのも難しくなってきた。私は運よく、渡航制限がかかる前に帰国できたのですが、日本に着いて早々、徹から久々にきた連絡が『どこへ行こう』とか、『何をしよう』とかいうものではなく『お金を貸してくれ……』だったんです」(エミカさん)
エミカさんにとって、かつては月に数百万円をつぎ込んでも惜しくないほど輝いていた徹さんが、くすんで見えた瞬間だったという。
エミカさんは黙ってお金を貸した。だが、その後も、徹さんからの話は「コロナの愚痴」や「店の経営が大変だ」ということばかり。エミカさんがワールドワイドな「世界」に目を向けるなか、歌舞伎町の、それも自分の周りの小さな「世界」の話ばかりするカレのことを、いつしかエミカさんは「小さい男……」と思うようになっていたという。ほどなくして、エミカさんから別れを切り出すと、徹さんはかなり驚いた様子だったというが、「わかった……」と力なく受け入れたという。
破局を迎えた現在も、2人は友人として仲良く付き合っている。エミカさんは、笑顔でこう話すのだ。
「徹には正直、億は使ったと思います。でも、後悔は一切していません。むしろあるのは、感謝ですね。徹がいたことによって、私は自分が思っている以上に稼げることがわかったし、自分が想像する以上の自分になることができた。言葉は悪いけど、私は徹を踏み台にしてステップアップしたことは事実です」
現在、エミカさんはその圧倒的な美貌を武器に、東京港区のラウンジで働いている。