大ヒットを遂げ最終回が迫るTBSドラマ「VIVANT」。堺雅人演じる主人公が属する自衛隊の非公然組織「別班」の諜報活動が話題だが、この闇組織、実態はドラマに描かれるようなカタルシス溢れるものではないという。元メンバーがそのホントの実力を語った。
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【写真を見る】「おいっドラムっ!」人気急上昇の元力士・富栄ドラム ロケから帰国時の“体重12キロ減”貴重ショット 堺雅人モノマネ芸人との対面も この「別班」、テレビマンの創作ではなく、実際に陸上自衛隊の中にある諜報部隊。しかし、政府はその存在を公式には認めず、実態はベールに包まれてきた。

「実際の『別班』って、ドラマに出てくるような組織じゃないんです」「VIVANT」主演の堺雅人(ドラマ公式X〈Twitter〉より) とは、平成の一時期、自衛隊「別班」に所属していたさる陸上自衛隊OBである。「別班」は60年以上前に生まれ、ソ連や中国、北朝鮮など仮想敵国の情報収集にあたってきた。「名目上は、今の陸上幕僚監部の指揮通信システム情報部に配属になるんです。当時六本木にあった防衛庁の陸幕監部に籍はありましたが、そこには出勤しないことになっていました。代わりに都内に“拠点”があり、そこに通っていた。自分の場合は山手線内のマンションの一室でした」 ドラマでは「別班」に入るとその班員の自衛隊内での記録がすべて消されると描かれていたが、それもなかったという。「向こうの事情を聞いたり、現地で発行されている新聞を送ってもらったり」 では、どんな活動を行っていたのか。「情報源を“お客さん”と呼んでいました。新聞や雑誌などで北朝鮮や中国、ロシアに渡航している商社員や研究者を探す。で、“〇〇国のことを研究しているので勉強させてください”などと言って近付き、関係を築きます。もちろん自衛官とは名乗りません。『国際〇〇研究所』など架空の研究所を名乗り、名前も偽名。電話番号も代行サービスなどを利用し、名刺もそれ用のものを作りました」 得られる情報は何か。「例えば極東ロシアに出入りしている人に向こうの事情を聞いたり、現地で発行されている新聞を送ってもらったり。また、中朝国境に行く日本人には、北朝鮮~中国貿易の物資の種類や量、移動状況、脱北者からの情報などをもらっていました。情報をもらったら1回1万~2万円ほどの謝礼を出します。一部、北朝鮮の人事情報などディープな話なら10万円近く出す例もありました。そうして集めた情報を週に数本、本部に上げていました」 この情報がさらに“上”に流れていくのだという。「一番価値が高いといわれるのは軍事情報。ただ、こうしたものはなかなか手に入りません。渡航する協力者に高度な軍事情報を求めるのは危険が伴います」「別班」の実態は人に会ってネタを集める「情報屋」で、テロリストと戦うハードボイルドな組織ではなさそうだ。「早起きがツラい」と本部に出勤しない班長 本誌(「週刊新潮」)では2014年にも直前まで「別班」に所属していたメンバーに取材をし、証言を載せている。 それによれば、〈なんとか対象国に独自のネットワークを築き、有事には諜報活動に打って出る工作員になろうと、仕事への使命感に燃えていた。しかし、別班に幻滅するまでに、それほどの時間はかかりませんでした〉〈国外での活動が認められていないために、大した情報は集められないのです〉 お互いをコードネームで呼び合うことまでしていたそうだが、〈諜報機関としてはあまりに稚拙です。2、3人の“固定客”に話を聞き、月に10本に満たない報告書を提出さえすれば、ノルマは達成する。あるとき、内閣からの要望で、北朝鮮のミサイル発射時期について、(班長から)調査指示があった。陰ではみな、“そんなことわかるわけないだろう”って口にしていました〉 組織のタガは緩んでいて、〈(班長が)ほとんど本部に顔を見せないのです。「早起きがツラい」、「身の危険を感じる」というのがその理由。職務上必要な書類は、わざわざ部下に自宅まで届けさせる始末です。諜報機関のトップが、機密情報を自宅に持ち込むなどあり得ません。そんな有り様ですから、昼過ぎには帰宅してしまう隊員も現われるようになりました〉 当然ながら、リアルの「別班」とドラマのそれとはまったく別物というわけだ。もちろん、だからといってドラマの魅力が減るわけではない。なお、ある元別班長を直撃したところ、ドラマは見ていないのだという――9月14日発売の「週刊新潮」では、「別班」の実態についてさまざまな証言とともに詳しく報じる。「週刊新潮」2023年9月21日号 掲載
この「別班」、テレビマンの創作ではなく、実際に陸上自衛隊の中にある諜報部隊。しかし、政府はその存在を公式には認めず、実態はベールに包まれてきた。
「実際の『別班』って、ドラマに出てくるような組織じゃないんです」
とは、平成の一時期、自衛隊「別班」に所属していたさる陸上自衛隊OBである。「別班」は60年以上前に生まれ、ソ連や中国、北朝鮮など仮想敵国の情報収集にあたってきた。
「名目上は、今の陸上幕僚監部の指揮通信システム情報部に配属になるんです。当時六本木にあった防衛庁の陸幕監部に籍はありましたが、そこには出勤しないことになっていました。代わりに都内に“拠点”があり、そこに通っていた。自分の場合は山手線内のマンションの一室でした」
ドラマでは「別班」に入るとその班員の自衛隊内での記録がすべて消されると描かれていたが、それもなかったという。
では、どんな活動を行っていたのか。
「情報源を“お客さん”と呼んでいました。新聞や雑誌などで北朝鮮や中国、ロシアに渡航している商社員や研究者を探す。で、“〇〇国のことを研究しているので勉強させてください”などと言って近付き、関係を築きます。もちろん自衛官とは名乗りません。『国際〇〇研究所』など架空の研究所を名乗り、名前も偽名。電話番号も代行サービスなどを利用し、名刺もそれ用のものを作りました」
得られる情報は何か。
「例えば極東ロシアに出入りしている人に向こうの事情を聞いたり、現地で発行されている新聞を送ってもらったり。また、中朝国境に行く日本人には、北朝鮮~中国貿易の物資の種類や量、移動状況、脱北者からの情報などをもらっていました。情報をもらったら1回1万~2万円ほどの謝礼を出します。一部、北朝鮮の人事情報などディープな話なら10万円近く出す例もありました。そうして集めた情報を週に数本、本部に上げていました」
この情報がさらに“上”に流れていくのだという。
「一番価値が高いといわれるのは軍事情報。ただ、こうしたものはなかなか手に入りません。渡航する協力者に高度な軍事情報を求めるのは危険が伴います」
「別班」の実態は人に会ってネタを集める「情報屋」で、テロリストと戦うハードボイルドな組織ではなさそうだ。
本誌(「週刊新潮」)では2014年にも直前まで「別班」に所属していたメンバーに取材をし、証言を載せている。
それによれば、
〈なんとか対象国に独自のネットワークを築き、有事には諜報活動に打って出る工作員になろうと、仕事への使命感に燃えていた。しかし、別班に幻滅するまでに、それほどの時間はかかりませんでした〉
〈国外での活動が認められていないために、大した情報は集められないのです〉
お互いをコードネームで呼び合うことまでしていたそうだが、
〈諜報機関としてはあまりに稚拙です。2、3人の“固定客”に話を聞き、月に10本に満たない報告書を提出さえすれば、ノルマは達成する。あるとき、内閣からの要望で、北朝鮮のミサイル発射時期について、(班長から)調査指示があった。陰ではみな、“そんなことわかるわけないだろう”って口にしていました〉
組織のタガは緩んでいて、
〈(班長が)ほとんど本部に顔を見せないのです。「早起きがツラい」、「身の危険を感じる」というのがその理由。職務上必要な書類は、わざわざ部下に自宅まで届けさせる始末です。諜報機関のトップが、機密情報を自宅に持ち込むなどあり得ません。そんな有り様ですから、昼過ぎには帰宅してしまう隊員も現われるようになりました〉
当然ながら、リアルの「別班」とドラマのそれとはまったく別物というわけだ。もちろん、だからといってドラマの魅力が減るわけではない。なお、ある元別班長を直撃したところ、ドラマは見ていないのだという――9月14日発売の「週刊新潮」では、「別班」の実態についてさまざまな証言とともに詳しく報じる。
「週刊新潮」2023年9月21日号 掲載