週末の深夜、東京・上野に酩酊状態の中高年男性が次々と吸い込まれて行くコンビニがある。女と一緒にATMを操作し、大金を引き出す男性たち。もぎ取るように札束を受け取った女は、足早にその場を去っていく。
ひとりコンビニを出た後、抜け殻のように路上にへたり込んだ60歳前後と思しき男性に話しかけると、呆然とした様子でこう声を絞り出した。
「『5000円飲み放題』と声をかけてきた中国人の客引き女について行ったら、中国焼酎を何度も一気飲みさせられ、7万円を請求された。店ではカードも使えず、ATMに連れて行かれて……」
コロナ禍以前の賑わいを取り戻した繁華街で今、ぼったくり被害が頻発している。上野の湯島地区を管轄する本富士署によると、今年9月10日までに飲食店での支払い関連のトラブル相談は22件。東京・赤羽でも同様の被害が発生しており、今年6~8月、赤羽駅周辺で客引きの中国籍の女ら20人が風営法違反や窃盗などの疑いで逮捕されている。
客引き女が路上で声をかけ店に連れて行き、高アルコール度数の中国酒を飲ませ泥酔させる。そして「この酒は別料金だ」と高額な料金を請求し、近くのATMに連れて行くのが手口だ。総額90万円を3回にわけてATMから引き出させたケースもあるという。
中国系の夜の店に人材斡旋を行うX氏が内情を明かす。
「俺が知る限り、上野で3グループ、赤羽で2グループが活動しているが、いずれも福建省出身者がメイン。コロナ禍で潰れた飲食店に居抜きで入る形で店舗を増やし、両エリアに20店舗ほどのぼったくり店がある。コロナ前の倍以上だよ」
ぼったくる金額は相手の酩酊状態や懐具合によって変わるが、「20万円以上だと警察沙汰にされるリスクが高まる」とX氏は言う。しかしなぜ、被害の中心が上野や赤羽なのか。
「大きな理由は、『棲み分け』の結果。新宿・歌舞伎町や池袋は、日本の暴力団や半グレに話を通さないと揉め事になるが、赤羽や上野は彼らの縄張り意識もそれほど強くない。また、’00年に施行された『ぼったくり防止条例』との関係もある。台東区上野は条例の指定区域だが、隣接する文京区湯島の多くのエリアは対象外。また、赤羽も最近まで同条例の指定区域ではなかった。これまで、上野や赤羽のぼったくり店が摘発されることはあっても、適用されるのは風営法違反や客引き条例違反にとどまっていた」(X氏)
悪質商法に詳しい加藤・浅川法律事務所の加藤博太郎弁護士が解説する。
「ぼったくり防止条例違反であれば、店舗に8ヵ月以下の営業停止を命じることができます。しかし、同条例の指定区域外だと風営法違反や客引き条例違反での摘発となり、名義上の店長しか検挙できない。店舗側もそれを想定しており、数日後には別の店長を据えて営業を再開するというケースも少なくありません」
では、ぼったくり被害にあってしまったらどう対処すればいいのか。加藤弁護士が続ける。
「相当と思われる金額を置いて立ち去り、その足で警察に行きましょう。事前説明のない追加料金は支払う義務はなく、強引に引き留められた場合には監禁罪を問うこともできる。もちろん、客引きについて行かないのが鉄則です」
被害頻発を受け、赤羽にはいわゆる「ぼったくり防止条例」が施行された。一日も早い悪質店の撲滅が待たれる。
『FRIDAY』2022年10月21日号より
取材・文:ライター・奥窪優木