堺市立小学校で男子児童がいじめを受けて約2年間不登校になった問題で、校長が第三者委員会の調査に「いじめではなく、友人間のトラブルと認識していた」と説明していたことが市教委への取材で判明した。児童や母親が繰り返しいじめを訴えたのに、学校は担任任せにして組織的な対応をせず、不登校になった後も市教育委員会への報告を怠っていた。第三者委は「いじめへの対応を放置していた」と批判している。
いじめで不登校の児童に卒業証書渡さず、中学入学通知書も 男児は現在中学3年生。小学校を卒業後の2020年4月、母親が市教委に相談して発覚。7月には有識者らによる第三者委の設置を申し立てた。 第三者委の調査報告書によると、男児は小学4年だった17年、複数の同級生からトイレに行くのを妨害されたり、衣服を引っ張られたりした上、「きちがい」などと言われるいじめを受けた。担任が同級生らに謝罪をさせたが、「先生にチクったんか」と言われ、5年になっても同様のいじめが続き、児童は18年5月以降、卒業までの約2年間不登校となった。 同校は文部科学省の方針に基づき、教員らによる「いじめ・不登校対策委員会」を毎月開催していた。不登校になる直前、担任は児童と母親から訴えを受け、臨時委員会の開催を提案。会議では担任の報告に他の教員が意見を述べただけで学校としての対応策を決めず、いじめとも認定しなかった。校長も出席していたが、議事録すら作成されなかった。 市教委は不登校になった児童の氏名や原因などを報告するよう学校に求めているが、同校はこの児童について一切報告しなかった。 卒業の際も、同校は卒業証書や中学の入学通知書を児童や保護者に渡さず、中学校にいじめについて引き継がなかったことが既に判明している。男児は加害児童の一人と同じクラスになり、中学3年になった現在も断続的に不登校になっているという。学校側の過小評価で事態深刻化 いじめの訴えを受けても、学校側が生徒間のトラブルと過小評価し、事態を深刻化させた事例が各地で相次いでいる。 兵庫県加古川市では16年、市立中2年の女子生徒が自殺。部活で無視されるなどのいじめを受けていると本人や保護者が顧問らに相談したが、部員同士のトラブルと判断され、学校は対応しなかった。 東京都八王子市でも18年、市立中2年の女子生徒が自殺。部活で上級生からいじめを受けていると両親が訴えたが、中学は生徒間のトラブルと判断。不登校が長期化しても重大事態と捉えなかった。 13年施行のいじめ防止対策推進法は、いじめを「他の児童らの行為で心身の苦痛を感じているもの」と定義し、被害児童らの立場で判断するよう求めている。さらに、いじめにより児童らが相当期間、欠席を余儀なくされていると疑われる場合などを「重大事態」とし、学校に事実関係の調査や、地方公共団体の首長などへの報告を求めているが、堺市立小はいずれも怠っていた。市教委は「いじめに迅速に対応する責務を果たせていなかった」と問題を認めている。「学校の対応ずさん」尾木直樹さん 大津市で11年に中学2年の男子生徒がいじめを受けて自殺した問題で、第三者委の委員を務めた教育評論家の尾木直樹さんは「国はいじめられた子がどう感じるかを重視し、疑いがあれば対応するように法律やガイドラインも整備してきた。しかし、いまだに問題を大きくしたくないという考え方が残っている」と指摘。堺市立小の対応について「校内のいじめ対策委員会に加害行為が報告されているのに学校全体でサポート態勢をつくらなかったことが問題で、児童が卒業する際の対応もずさんすぎる」と話した。【榊原愛実、山田毅】
男児は現在中学3年生。小学校を卒業後の2020年4月、母親が市教委に相談して発覚。7月には有識者らによる第三者委の設置を申し立てた。
第三者委の調査報告書によると、男児は小学4年だった17年、複数の同級生からトイレに行くのを妨害されたり、衣服を引っ張られたりした上、「きちがい」などと言われるいじめを受けた。担任が同級生らに謝罪をさせたが、「先生にチクったんか」と言われ、5年になっても同様のいじめが続き、児童は18年5月以降、卒業までの約2年間不登校となった。
同校は文部科学省の方針に基づき、教員らによる「いじめ・不登校対策委員会」を毎月開催していた。不登校になる直前、担任は児童と母親から訴えを受け、臨時委員会の開催を提案。会議では担任の報告に他の教員が意見を述べただけで学校としての対応策を決めず、いじめとも認定しなかった。校長も出席していたが、議事録すら作成されなかった。
市教委は不登校になった児童の氏名や原因などを報告するよう学校に求めているが、同校はこの児童について一切報告しなかった。
卒業の際も、同校は卒業証書や中学の入学通知書を児童や保護者に渡さず、中学校にいじめについて引き継がなかったことが既に判明している。男児は加害児童の一人と同じクラスになり、中学3年になった現在も断続的に不登校になっているという。
学校側の過小評価で事態深刻化
いじめの訴えを受けても、学校側が生徒間のトラブルと過小評価し、事態を深刻化させた事例が各地で相次いでいる。
兵庫県加古川市では16年、市立中2年の女子生徒が自殺。部活で無視されるなどのいじめを受けていると本人や保護者が顧問らに相談したが、部員同士のトラブルと判断され、学校は対応しなかった。
東京都八王子市でも18年、市立中2年の女子生徒が自殺。部活で上級生からいじめを受けていると両親が訴えたが、中学は生徒間のトラブルと判断。不登校が長期化しても重大事態と捉えなかった。
13年施行のいじめ防止対策推進法は、いじめを「他の児童らの行為で心身の苦痛を感じているもの」と定義し、被害児童らの立場で判断するよう求めている。さらに、いじめにより児童らが相当期間、欠席を余儀なくされていると疑われる場合などを「重大事態」とし、学校に事実関係の調査や、地方公共団体の首長などへの報告を求めているが、堺市立小はいずれも怠っていた。市教委は「いじめに迅速に対応する責務を果たせていなかった」と問題を認めている。
「学校の対応ずさん」尾木直樹さん
大津市で11年に中学2年の男子生徒がいじめを受けて自殺した問題で、第三者委の委員を務めた教育評論家の尾木直樹さんは「国はいじめられた子がどう感じるかを重視し、疑いがあれば対応するように法律やガイドラインも整備してきた。しかし、いまだに問題を大きくしたくないという考え方が残っている」と指摘。堺市立小の対応について「校内のいじめ対策委員会に加害行為が報告されているのに学校全体でサポート態勢をつくらなかったことが問題で、児童が卒業する際の対応もずさんすぎる」と話した。【榊原愛実、山田毅】